姫様来訪6日目 4
姫様来訪の真相が徐々に明らかになります。
彼らと入れ違いに藤田が食堂にやって来た。彼は浜茶を春奈のグラスに注いだ後で、自分のグラスにも注いで椅子に座った。
彼の宣誓は事前に済ませていた。
春奈は通常のケリュクに戻して、座っていた。
沈黙を破ったのは利一だった。
「春奈様、来て頂いて本当にありがとうございます。私が小さい頃に、祖父が空飛ぶ天使の話をしてくれました。その時は作り話だと思っていましたから、よく続きをせがんだものです。今から考えると、全部本当の事だったんですね」
「おじ様、ちゃん付けで結構ですよ。利光様は守秘義務の範囲内で話された筈です。実際の春香おばあ様はグザリガ兵からしたら、それこそターミネーターでした。敢えて詳しくは言いませんが、春香おばあ様が開発したいくつかの技術は兵器そのものでした。『少女の形をした近代兵器』と言われた事が有ったほどです。そうそう、私が祖父から聞いた話で笑い話のようなのが有ります。春香おばあ様が自衛隊に頼まれて、グザリガ軍の報告書を翻訳しながら読み上げた事が有るのですが、その中に自分の事を報告する文書があったそうです」
春奈は楽しそうに微笑んだ。
「その文書で『奴隷軍の中に小さい雌が居たら逃げろ。やつは人間では無い』って書かれていたそうです。思わず『失礼ね。ホモサピエンスで無い奴らに言われたくないわ』と言ったら、大爆笑だったそうです。その場には宮崎家、藤田家、関根家の始祖が居たそうです。そして、祖父に思い出話をした春香おばあ様が付け足したセリフが『一番笑っていたのが、宮崎さんなのよ。挙句に私の事を《迷彩服を着たターミネーター》って言い出したのもあの人なの』です。その話をした時の春香おばあ様は楽しそうだったそうですけど」
「そうですか。なんと言っていいのやら。何故関根家は我が家に援助してくれるのかが前から不思議だったのですが、なんとなく分かってきた気がします」
「関係は有りますが、親しいだけが理由では有りません。これから関根家の使者としての話を致します」
利一と太郎を交互に見た春奈の顔は何かを打ち明ける前兆の様に、真剣なものになっていた。背筋も延びていた。
「宮崎家がこの村を開墾する事になった理由を知っていますか?」
「市が食糧増産の為に開墾させたのでは無いですか?」
「勿論、その目的も有りました。ですがもっとややこしい事情が有りました。少し長くなりますが、一部の家にしか伝わっていない昔話をしましょう。始祖達がこの惑星に来た頃の話です。まだ結婚前だった守春香は自分の能力を使って、自ら志願してグザリガ軍を偵察する役目をしていました。その時に一緒に行動した部隊が二つ有りました。その一つが関根二尉に率いられた自衛隊特戦群の小隊です。その部隊に藤田二曹、宮崎三曹が所属していました。そして守春香は彼らに情報をもたらすだけでは無く、度々一緒に戦闘に加わりました。太郎様にも言いましたが、彼女は生涯で200人以上ものグザリガ兵を殺害しています。行動を一緒にしていた彼らが彼女を『迷彩服を着たターミネーター』と呼んだ所以です」
春奈はちらっと藤田を見て付け加えた。
「藤田二曹と宮崎三曹は機関銃斑を組んでいたそうです。仲が良かったそうですよ」
宮崎親子を見てから彼女は話を続けた。
「そして始祖達はグザリガの領地を奪う形で今の新狭山市を建国しました。彼らはその時に逃げるグザリガ兵を待ち伏せして可能な限り射殺しました。この事は表の歴史には残りませんでした。確かに元はグザリガが悪い事は間違い有りませんが、我々の始祖達も大したものです。いくら戦力や戦法を知られたくないからと言っても、今ならやり過ぎと言われますね。しかし生き残っていた市民を含めた始祖全員がこの虐殺を知っていました。ですが、非難は出ませんでした。彼らにしたら自分達にされた事の報復という訳です。我々は血塗られた先祖を持つ子孫という事です」
春奈はストローに口を付けた。
その場に居た全員は自分達の始祖をあからさまに非難するかの様な春奈の話しに衝撃を受けていた。
市民であるなら、この様な話をした場合には必ず非難を受けるだろう。
ましてや有力家の彼女なら尚更である。喉を潤した彼女は続きを話し出した。
「さて、そこまでしてささやかな領土を得た始祖達は20年もの間、生き残る事に必死でした。始祖達も寿命や病気で減って行き、移民との混血が進んできた頃に、市は開拓済みの畑より更に遠方の地を特別に希望者へ開放する政策の実行を決定します。新市内への一極集中が弊害を見せ始めた事への対応と、定年以外では辞職を許さずに半強制的に勤務を続けさせた機動隊員と自衛官への論功行賞の筈でした。生存している彼らから志願者を募り、開墾地の所有を認める条件で開墾に送り出したのです。実はこの段階で問題が発生しました。元の計画を作ったのは守義弘でしたが、実行された政策は計画と違って全く酷いものでした。時限立法で期間の縛りを付けた上に、税の滞納をすれば、即没収する条件だったのです。更に市の支援は、当時も以後の予定も全くありませんでした。要するに独力で開墾しろ、失敗したら放り出す、しかも100年したら手放せ、と言っているに等しいものでした。守義弘はその頃は政界から引退して、現在の狭山工業の事業拡大に打ち込み始めた所でした。何とか修正しようと政府に働きかけたそうですが、その時の市長が無能な上に個人的感情から反発した為に、送り出される志願者は悲惨な条件のままで開墾地に向かう事になります。ここまでで何か質問はありますか?」
春奈は一息ついて聞いてみたが、特に無さそうだったので説明を再開した。
「彼は自分の財産を基に援助を決意しました。ただしその頃は先に言った通りにまだ事業が軌道に乗る手前だった為に、大規模な援助は不可能でした。やむなく関根家にも援助を依頼します。その頃にはもう自衛隊の特殊作戦群の群長になっていた関根昌幸と春香夫婦もかなりの額の援助をしていましたが、依頼を受けて全力で援助に乗り出します。H.S.F社さえも担保にしてかき集めた資金を開拓者に投入しました。手元資金が極端に少なくなった両家は、収益が出るまでの数年間は綱渡りの連続でした。最終的に両家が援助した開墾団は12に上ります。その中の一つが宮崎家でした」
利一は祖父が言っていた『関根家に足を向けて眠れない』と言っていた理由が分かった。そして、もしかしたら自分はその恩を軽く考えていたのかも知れなかった。
しかし、守家と関根家が何故そこまでの援助をしたのかが分からない。同じ思いだったのか、太郎が質問をした。
「何故、そこまでする必要が有ったのですか? 政府の失政なら政府に責任を取らすべきでは無いですか?」
「あれだけ機動隊と自衛隊にお世話になったにも拘らず、市民も見て見ぬふりをしました。はっきり言って見殺しです。市民は自分達の生活を優先しました。政府も守義弘以降の政治家に小粒な人物が続いた影響で、移民問題の処理に手間取った事と市の財政運営に失敗した為に有効な手が打てませんでした。彼は移民問題の発端が自分の引退が原因と云う事も有り、開拓者に余分な苦労を掛けたと責任を感じたのです。そして、彼の長男が市長になって、やっと今の修正法案が成立して少しはましになりました。関根家に関してはそれが家風としか言えません」
言い終わると、春奈はすっと立ち上がり急須にお湯を足した。誰も割り込めない程に自然な流れであった。
「皆さん、お酒は要りませんか?」
美月が太郎も含めて4人にマンゴー酒を注いで回った。この家のマンゴー酒は警護員達にも好評だった。美月自身は飲まないが、太郎は成人前だがいける口だった。開拓地ではその辺りは開放的であった。一口飲んだ太郎がまた質問した。
「さっきから気になっているのですが、始祖達を嫌っているのですか? 歴史上の出来事とは言え、余りにも淡々と説明していますが」
太郎には全くと言って良いほど春奈が理解出来なくなっていた。
関根春香の写真を見ていた時には、驚くほど感情が表に出ていた。リク達と遊んでいる時も演技をしている様には見えなかった。彼女は純粋に遊んでいた。
だが、今もそうだが、時々10歳という年齢を忘れさせる時がある。
春奈のケリュクは増えていない。流れも穏やかだ。それにも拘らず、むしろ今が一番気圧されていた。
太郎の方に向いた彼女は表情も変えずに答えた。
「まさか。太郎様が想像出来ない位に尊敬していますよ。特に春香おばあ様に対する尊敬は宗教じみていますよ。毎日、寝る前にはおばあ様の日記を4日分読まないと寝むれない位に」
「その割りには、平気で呼び捨てにしていませんでしたか?」
「だめですよ、太郎様。そんな表面的な事で判断していたら。最初に言いませんでしたか? 『関根家の使者としての話』と」
「とは言え、血塗られた先祖とは言い過ぎでは無いですか?」
「歴史の事実です。それを歪める方がおかしくありませんか?」
太郎は反論しようとしたが、出来なかった。畳み掛ける様に春奈は言葉をつないだ。
「先に一部の家にしか伝わっていない、と言いましたが、その家とは守家、秋山家、小島家、関根家の4つです。これらの家が強い理由が分かりますか?」
「それは始祖が有能だったからでしょう。全員が教科書に載る位です」
「違います。それだけが原因なら半世紀ももちません。この4つの家の始祖は全員が挫折を味わったのです。13年間続いた守義弘の長期政権への依存が大き過ぎて、市民の政治への無関心が進み過ぎていました。4家は民主主義を不完全だけども一番ましな政治制度と思っていました。ですが、建国二十数年で都合の悪い事は忘れたふりをした市民を見て失望を味わったのです。このままではあと半世紀もこの市は持ち堪えられないと。失望の余りに彼らは一つの決意をします。自分達の子孫を犠牲にすると云う決意です。何故なら自分達は血塗られている事を覚えている。だが、その事を忘れた市民はそれでも保護すべきものであり、本当の覚悟が無い者に市政を委ねるべきでは無いと考えたからです。この4つの家の教育は3歳から始まります。職業選択の自由? 思想の自由? そんなものは彼らにとっては、新狭山市が生き延びる事に比べたら何の価値も持ちません。そして政治への関心を取り戻す努力を行いました。彼らの数代に亘る努力は少しずつ実を結びました。ラミス内乱の影響もあって市民の意識も高くなり、覚悟を持った政治家が増えて来ました。4家の呪縛が消える日も近いかも知れませんね。でも、その時が来ても私自身の覚悟は無くなりません。例え春香おばあ様が浴びた血よりも多く血塗られても」
美月は彼女が言った言葉を思い出していた。
『おじい様は私が小さい頃は怖かったのよ。それこそ毎日毎日泣いていた記憶があるわ』
今の春奈を見れば、どれほどの教育をされたかが分かる様な気がする。
利一と太郎は目の前に居る少女が今まで考えて来た人間とは別人に見えていた。
関根家だけでなく、市民一万五千人を背負う覚悟を固めている少女。
それが当然の日々を物心が付いた頃から過ごして来た少女。
脈々と受け継がれて来た信念を体現する為に育てられた少女。
『自分では逆立ちしても勝てない』
ダントンと藤田は彼らのお姫様の本当の姿を初めて見た気分だった。
確かに年齢に似合わない大人びた所が有った。関根家の中で行われる教育を見た事は無かったが、これだけの覚悟を決めるからには余程の厳しさなのかも知れなかった。
ダントンの脳裏に今年6歳の娘の笑顔がよぎる。この出張から帰ったら遊びに連れて行く約束をした時の笑顔だった。俺に似ずに可愛くなったものだ。
無理だった。自分には出来ない。娘には一市民としての幸せを掴んで欲しかった。
もはや独演会と化したこの場の主人公はまた喋り始めた。
「おじ様、正式な村への昇格申請を8月中に済まして下さい。そうしないと承認審査の関係で12月の予算編成に間に合いません。当家が全面的に支援します」
利一は思わぬ方向に話が進んだ事に驚きながら、質問で返した。
「何故ですか?」
「急ぐ理由は後で説明します。支援内容ですが、関根家は宮崎家とH.S.F社との合同会社設立を提案します。その第一段階として、村昇格申請支援要員を1名、流通部門として中村屋を含めて2名、農業・林業開発支援班2名、H.S.F社支社社員2名の計7名とその家族を5月初旬にもこの村へ送り込みます。これで申請に必要な居住人数と発展性に関する基準はクリア出来る筈です。その上で第二段階として、本格的な合同会社を立ち上げます」
美月にも初耳の話しであった。春奈ちゃんはこの村をどうする積もりなのだろう。
太郎が美月の心を読んだかの様に質問をした。
「それだけの人員を使って、関根家はどうするつもりですか? まるで乗っ取りではないですか?」
「いいえ、それは違います。これだけの人員を動員しないと申請は却下されます。今後益々、承認審査は厳しくなる筈です。今は時間が命です。あくまでも、この村の発展を考えた提案です。そして、我が家が出来る最大限の支援です。さすがにこれ以上の支援は、父も反対しました」
確かに7名もの人間を動員すれば、関根家傘下の企業群といえども、しわ寄せは発生するだろう。昔のよしみで支援する様な規模では無かった。
更に一番の驚きは、春奈が父親に交渉した結果だという点だった。
「勿論、H.S.F社にも利益は有ります。作物の安定供給、戦略的な作物生産がより可能になります。今でもかなりの市場を押さえていますが、今後更に必要な事ですので投資する価値はあります」
春奈は一旦、言葉を切った。
美月は春奈の提案を聞きながら、ある疑問を抱いた。美月が見るところ、彼女はここの村人を好評価している様だった。その当たりはどう考えているのだろうか? この村を乗っ取るつもりなら、彼女の本心が分かるかも知れなかった。
「教えて下さい。春奈様はこの村の人達の事をどう考えているのですか?」
「ここ数日間の印象で言えば、勤労意欲も高く、宮崎家に対する忠誠心も高い。生活レベルが高い為か民度も高い。例えば道路を自発的に清掃する村人を当たり前に見掛けました。宮崎家代々の努力の賜物でしょう。ただ、それが諸刃の剣になりかねません。正式な村になった場合、この村は外の世界に開かれてしまいます。自分の為だけに働く余所者が流入しだした場合、以前からの住人との争いが発生し易くなります。そして、徐々に求心力が落ちて行き、それまでの様な一丸となった運営は不可能になります。結果として、旧住民の意欲も落ちてしまって、発展が歪になる事が有ります。それも管理する為の合同会社設立です」
確かに、昇格後に発展はしたが新旧の住民間の争いが起こり、予想より発展の速度が落ちた村の話は利一も聞いた事がある。治安も悪くなるので駐在所の新設が必要とも言える。利一はそこまで考えてくれているのかと納得すると共に、この提案に賛成する気になっていた。彼が口を開く前に、美月が更に発言した。
「でも、主導権は関根家が握る事になりますね。我が宮崎家はどうなるのでしょうか?」
春奈以外の四人が美月を見た。春奈にべったりだった美月がいきなり、反対している様な発言をしだした事に驚いていた。美月の考えは逆だった。自分の運命を春奈に託すなら、せめて自分の家に関しては安心したかったのだ。彼女なら分かってくれると確信しての質問だった。
「良い質問ね。普通に考えれば、宮崎家の力は削がれていく事になるもの。そこで関根家とは関係なく、私個人からの提案です。それを避けたければ、太郎様をせめて新狭山高校にだけは入学させて下さい」
突然の提案に利一も太郎も一瞬反応が遅れた。美月の方が早かった。
「それだけで兄が対抗出来るとは思えません。例え大学部まで進学しても、H.S.F社の様な大きな会社組織に勝てる訳が有りません」
もはや、美月と春奈の一騎打ちだった。太郎は自分の人生の分岐点に妹が絡んで来ると考えた事もなかった。彼女は何故、こんなに必死なのだ? 何故、春奈に反抗する? 彼には分からなかった。
「そうね、高校や大学部に入っただけでは対抗出来ないと思うわ。知識は重要だけどね。新狭山市の強さは教育レベルの高さと言っても良い位だもの。でも太郎様の場合、それ以外に目的が有るとしたら?」
「どういう意味ですか? 入学の目的が知識だけでは無いと?」
「そうよ。太郎様と同い年の人に守家の次男と小島家の長男が居るの。その他に何人も有望株が居るわ。人脈を築く為に入学をするのよ」
「人脈を築く?」
「知らない人よりは知っている人の方が信用出来るでしょう? ケリュクという分かりやすい基準が有っても、所詮は人間だもの。能力と同じ位に人脈は必要なの。おじ様は事情が有って高校に入学出来なかった。その代わり関根家が後ろ盾になっていた事で、人脈の面に関しては今までは問題になる事は無かった。でもね、太郎様が人脈を築く事によって宮崎家は更に強くなれるわ。人脈を築く事に関根家は介入しない。あくまでも私の提案だから、私自身は協力を惜しまないけどね」
美月は父親に目を向けた。彼女なりに春奈の真意を聞いたつもりだった。美月は自分の転校は諦めていた。兄が市内に行けば、自分は残らないといけないだろう。
だが、父親は違った様だった。
「よろしければ、美月もお願い出来ないでしょうか? 私は最近の娘を見て、中学校からでも春奈様の近くに行かせようと考えていました。こんなに楽しそうな美月を見るのは久しぶりでした。勝手なお願いとは思いますが、お願い致します」
美月は春奈よりも先に発言する為に急いで口を挟んだ。
「お父様を置いて行けません」
「いや、良いんだ。自慢じゃないが、一人で10年間を持ち堪えた事も有る。可愛い子供達の為なら、何という事もない。それに最近は気力が充実して来た所為か、体力も戻って来た様な気がする。まだまだ頑張れるよ」
太郎はその間に考えをまとめていた。
確かに今後の事を考えれば、独自の人脈は必要だった。
新狭山高校出身者は市役所に進む人間も多い。市役所内に知り合いが居れば相談事も手間が掛からなくなる。損な話しでは無かった。
卒業後に一緒に徴兵されるので、そこでも1年間は人脈を更に深める事が出来る。この村には19歳で戻って来れば良い。
むしろ問題は入学出来るかだ。ラミス王国からも入学希望者が居る位の登竜門だった。
だから、勉強が出来る人間は必死で受験勉強をする。
そして、入試倍率は常に3倍を超えていた。あと2年しか無い。もっと真剣に勉強すれば良かった。
だが決心は付いた。美月の件はまた家族で相談すれば良い。顔を上げた時に春奈と目が合った。
その目は言っていた。
『父親に心配を掛けさせるな。安心させてやれ』
優しいのか、厳しいのか、よく判らないお姫様だ。
「父さん、悪いけど俺が19歳になるまで頑張って欲しい。その後は俺がこの村の面倒は見る。美月に関しては後で話し合おう」
「任せておけ。まだまだ若い者には負けん」
春奈は親子の会話が終わった所で爆弾を落とした。
「残念ながら、美月ちゃんは明日頂いて帰ります」
利一と太郎の親子は今度こそぽかんとした顔をした。
美月は春奈の真意を図りかねた。春奈は皆をわざと混乱させている気がして来た。春奈は爆撃を続けた。
「美月ちゃんは、市にとって無視できない能力を持っています。私が預かります」
利一がようやく反応した。だが、無意味な言葉であった。
「春奈ちゃん?」
太郎の方がまともな質問をした。
だが、無意味な質問であった。
「何が言いたいのですか?」
春奈は笑って答えた。これも無意味な答であった。
「文字通りの意味ですが?」
仕方がないので、美月が代わりに答える事にした。
「私に特別な能力が有って、今後は市の監視下に置かれる事になったの。春奈様は私に保護宣誓をしてくれて、更に関根家に来ないかと言ってくれていたの」
「そして、グザリガが遅くとも来年の今頃に攻めて来るの」
春奈は絨毯爆撃を始めた様だった。皆の動きが一瞬止まった。
「だから、のんびりしていられないの。村の申請の件は、可能な限り早急に事を進めないと手遅れになってしまう。来年度以降の数年間は承認をしないと思うわ。戦時体制とその予算の手当で余裕が無くなるもの。もう一つの理由もそれに関連するの。美月ちゃんを強引に連れて行くのは、私が今しか時間が取れないからよ」
五人全員が黙ってしまった。
美月が最初に口を開いた。
「そんな事を言っても良いのですか? 国家秘密では無いのですか?」
「もう宣誓済みだし、この情報は私が独自に把握した情報だもの。勿論、必要な部署にはもう情報は流されているし、市は動き出しているわ。予想される兵力は1万人から最大で1万5千人規模。過去最大級ね。現在、奴らの首都近郊で編成中よ。その後でごちゃごちゃした準備が整うのがあと半年くらいなの」
グザリガは今までに4度の侵攻を企てて、全て失敗していた。
ただ36年前の第4次侵攻はラミス内乱と重なっていた為に、市も戦死者172名・戦傷者387名・市民の犠牲者37名と大きな被害を被っていた。その時のグザリガの兵力は5000人だった。今回は兵力が2~3倍である。
美月が春奈の様子から更に質問した。
「春奈様、何故情報を掴んだかとは聞きません。でも、時間だけが問題なのですか? 自信が有りそうですが?」
「そうね、次も厳しい戦いにはなると思う。即応は当然だけど予備も招集しての総力戦になるわね」
10歳の少女が、国の死活問題を語る異常な状況だと認識出来る者は、もはやこの部屋には居なかった・・・・・・・
如何でしたでしょうか?
よく喋る登場人物たちですね(^^;)
次回で本編が終了します。
その後、エピローグが2~3回ほど続きます。




