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姫様来訪6日目 2

春奈の暴走が始まります(^^)

 この村での最後の晩餐は宮崎家の涙ぐましい努力によって、和やかなものになっていた。


 利一は今では春奈を自分の娘の様に思っていた。本当の娘の美月は確かに可愛いと思う。とは言え、たった6日間でここまで馴染まれては、関根春奈が帰った後が寂しくて仕方が無いだろう。

 しかも、彼は娘の為に一つの決意を胸に秘めていた。


 太郎は彼女が来てくれたおかげで立ち直ってくれた。

 それは間違いない。彼は一日ごとに変っていく太郎を目の当たりにしていた。魔法を見ているかのようだった。

 今も今日の遊びの事で会話に花が咲いていた。こんな太郎を見る事が出来る日が来るとは思ってもいなかった。ここで悲しい顔は出来なかった。彼は必死で楽しそうな顔をしていた。

 それが彼の出来る最大の礼儀であった。


 太郎は春奈の来訪を今では好意的に捉えていた。

 彼女が来てからの自分は明らかに変ったと思う。見えなかったものが見える様になって、それまでの自分が如何に狭い箱に自ら閉じ篭もっていたかが分かった。一度その箱から出てしまうと、もう戻れなかった。

 何故なら、その箱よりかなり大きくなってしまった自分をはっきりと自覚出来るからだった。

 そして箱自体が使い物にならない程に壊れていた。よくこんな箱に入っていたものだと、自分で笑える余裕も持つ様になっていた。

 だが、彼は新しい心配を抱えていた。妹の美月の事だった。

 美月はあまりにも春奈に近付き過ぎていた。今日一日、彼は彼女達二人を見ていた。

 その結果、導き出された結論は想像以上の同化が進んでいるというものだった。昨日よりも更に進んでいた。朝一番で繰り広げられたリクとの話し合いが顕著な例であった。勿論、声は聞こえなかったが内容は推測出来た。リクの態度から春奈の正体がばれた事は明らかだった。

 美月が先手を打った事は驚きだった。まるで春奈を守る為に行動しているかの様であった。春奈が帰った後で美月が耐えられるのかが心配になっていた。


 その美月は春奈がいつ、どの様に切り出すのかが心配と言えば心配だった。父親も兄も反対するだろう。自分は市内に行く覚悟は出来ている。むしろ行きたい。春奈と一緒に過ごす時間がもっと欲しい。

 だが、二人の反対を押し切ってまで行く事は避けたかった。監視を受けての生活は嫌だが、すでに春奈の保護下に入っている以上、考えられる限り最大限の後ろ盾は有る。

 後は春奈の出方次第だった。


 宮崎家の三人の思惑をよそに、夕食は楽しいとさえ言える雰囲気で終わった。


 そして、春奈が宣言をした。


「おじ様、6日間お世話になりました。本当に楽しかったですわ。そして、有意義な時間を過ごさせて頂きました。一生の思い出になる事でしょう。私達は明日のお昼頃にここを発つ予定です。でもその前に私には二つほど済ませておかなくてはいけない事が有ります。この後、一時間してからもう一度ここに来て頂けますでしょうか?」


 利一はこの申し出の意味を捉えきれないままに返事をした。


「ええ、良いですよ」

「ありがとうございます」


 春奈は優雅にお辞儀をして、自分の部屋に戻った。


 美月は一旦、自分の部屋に戻ったが、気になって春奈の部屋に行く事にした。兄の太郎がもうすぐ春奈の部屋に尋ねる筈だった。それまでに彼女と少し話をしておきたかった。ダントンに挨拶をして、春奈の部屋に入った彼女は棒立ちになってしまった。


 姿見の前に新聞を広げて、その上に置いた椅子に彼女は座っていた。首から下は白い“シーツ”で覆われていた。藤田がはさみを不器用に使って髪の毛を切っている。彼が手を止めて、春奈が椅子を回して美月を見た。


「な、何をしているの? どうして髪の毛を切っているの?」

「美月ちゃん、半分自分で答を言っているよ。理由はこれからする事に邪魔だから切るしかないの」

「これからする事? お父様とお兄様の説得じゃ無いの?」

「うん、勿論そうだけど、その前にする事が有るの。もし良ければ藤田さんの代わりに髪の毛を切ってもらえないかな? 屋敷で練習したけど、どうも苦手な様で注文どおりに切って頂けなくて困っていた所なの」

「春奈さん、素直に下手くそと言って頂いて結構ですよ」

「淑女はその様な下品な言葉を使いません事よ、藤田さん」


 美月は藤田からはさみを渡してもらった。渡してもらったが、どれだけ切るのかが分からない。春奈があっさりと注文をした。


「ばっさりと切って。肩のラインより短くしないと危険なの」

「危険? 何が?」


 美月は訊きながらはさみを入れていく。

 春奈の髪の毛はさらさらとしていて、美月自身の髪の毛よりかなり細く感じる。はさみを入れる事が勿体無いくらいだが、彼女の願いでは仕方が無かった。


「長いとね、巻き込んじゃうの。屋敷では髪の毛を前で結んで更にタオルで押さえていたけど、見られたら恥ずかしいのよね。そんな姿は誰にも見せられないわ」

「巻き込む? 春奈ちゃん、何を言っているの?」


 美月は混乱していた。春奈が何をしようとしているのか分からない。


「ヒントは春香おばあ様の写真にあるの。おばあ様も短かったでしょ? 同じ理由なの」


 手を機械的に動かしながら、美月は写真を思い出していた。

 彼女の手が止まった。


「まさか? 本当の事なの? 【彼女達は空中を踊っていた。それは特撮でも無く、目の錯覚でも無かった。多分20cmほどは浮いていただろうか? ペアスケートの様にお互いの手を取り、遠心力を使って離れる。そして磁石の様に音もなく、滑らかな動きで近付いて手を取り合う。皆はそのダンスを魅入られた様に見詰めるしか出来なかった。約3分間の演技が終わった時に座っていられた者は皆無であった。この1年間、確かに噂は有った。さもなければ、周辺の情報がこれだけ広範囲に集められまい。そして初めて目にした彼女達の能力に我々は熱狂した。何故なら、我々には魔女さえも必要であったからだ】・・・・・・」


 美月は去年読んだ関根春香関連の古書に書かれていた文章を丸ごと暗唱した。

 読んだ当時は不思議な文章と思った。空中を踊るようにダンスをした事を大げさに書いていると考えながら読んでいたら、広範囲な情報やら魔女やらの言葉が続く。

 結論としては本当に空中に浮くか飛んでいたかしか無かった。

 でも、その後に書かれた『春香』ではその場面は滑らかなダンスシーンになっていた。だから、きっと解釈の違いとして片付けていた。


「【我々には魔女さえも必要であったからだ】ってひどいと思うでしょう? 春香おばあ様も優梨子様も、皆を勇気付ける為に踊ったのに。でも普通はそう思われても仕方無いわね。もっとも今の文章は、第二版では修正になっているわ。マンガも最初の原稿では飛んでいるシーンだったけど、結局は修正版になっているし。だって、禁断の能力が書かれているもの。美月ちゃんに本の注文を頼まれた中村屋はわざと初版の本を持って行ったのね。でもね、魔女という言葉は結構当時では使われたみたいね。他には天使という表現もあったわ。おかしいのは米軍の中で何故か、CHISEとも呼ばれたみたいね」

「始祖達は知っていた。自分達が魔女達に守られている事を。しかし生き残る為に途中から隠したという事?」

「そう。彼らは生き残る為に情報を隠したのよ。それによって、周囲から恐れられる事を狙って。だって、知らない内に軍の動向情報や作物の豊作不作情報が筒抜けになっている事ほど恐ろしい事はないものね。それにいつかは彼女達も死ぬ。何故、情報が漏れるか分からなければその死後も相手の動きを牽制出来るもの」


 美月は春奈の表情を鏡越しに見た。目が合ってしまった。

 彼女の目にはほとんど感情が浮かんでいなかった。


「うん、ありがとう。これだけ短ければ大丈夫」


 春奈が礼を述べながら、“シーツ”に引っ掛かっていた髪の毛を落とす。

 そしてシーツを外しながら、美月の方を見ながら提案した。


「きれいに髪の毛を切ってくれたお礼に、美月ちゃんだけに春香おばあ様の能力の一端を見せて上げる。前に話した春香おばあ様が編み出した剣術の秘密をね」


 美月は驚きよりも疑問を抱いた。そんな美月に構わずに、春奈が枕の下から守り刀を取り出す。


「昨日も言ったけど、この刀は特殊な構造をしているの。もっとも、その事を知っている人は少ないし、理解している人なんて10人も居ないわ。ましてや、その恩恵を蒙れるのは数人だけ・・・」


 春奈が守り刀を鞘から抜いた。

 鞘を“ベッド”の上に丁寧に置いて、更に言葉を繋ぐ。


「これが春香おばあ様の秘密の一つよ・・・」


 春奈がそう言った途端に守り刀が宙に浮かんだ。更に、春奈が伸ばした右手を中心としてらせんを描くように舞う。

 美月の疑問は更に濃くなった。気付けば、勝手に唇が言葉を紡ぎ出していた。

 だが、全てを言い切れなかった。


「どうして?・・・・」

「えっと? 原理かな? ごく一部にしか知られてないけど、この惑星は地球と違う物理法則が混じっているの。多分、始祖たちをここに転移させた技術は、その辺りと絡んでるみたいだけど、詳しくは分かって無いわ」


 春奈はその間も、守り刀を空中で躍らせていた。


「で、具体的にどういう物理法則が混じっているかというと、地球には有り得ない元素がこの星に混じっているの。森家と関根家では、それを『UK』と呼んでるわ。そうね、地球で言う炭素みたいなモノ。いろんな特性を持っているけど、ケリュクはその特性に影響を与えられるの。今使っているのは、『認識』と『固定』と『作用』という能力」


 守り刀は春奈の周りで益々アクロバティックな舞をしていた。


「守り刀に含まれる『UK』を『認識』して、結びつきを『固定』して、慣性に『作用』する。これをグザリガが使っていた只の鉄剣に応用することで、春香おばあ様は無敵と言ってもいい程の剣術に仕上げたの。で無ければ自分の身長ほどの鉄剣を片手で扱える訳無いもの」


 美月がやっと、自分の疑問をちゃんとした言葉にした。


「どうして、私に、そんな秘密を教えるの?」


 春奈は笑顔を浮かべながら答えた。


「これから、もっと凄い秘密を公開するから」




 太郎は時間通りに春奈の部屋を訪れた。その手には手紙が握られていた。部屋の外には珍しくダントンと藤田の二人が居た。ダントンに声を掛ける。


「こんばんは。約束があるんだけど、入っていいかな?」


 ダントンの問い掛けに美月の声が答えた。部屋に入って、微笑んでいる春奈を見た時にデジャビュを覚える。


 場所も違う。服装も違う。年齢も違う。更に言えば人種もかなり違う。それなのにそこには戦場に立つ、あの写真の関根春香が居る様な気がした。

 太郎は動揺をすぐに抑え、さりげなく声を掛ける。


「悪いね、夜半に訪ねて。その髪型も似合うよ」

「ちょっと理由があって切ったのだけど、お褒め頂くと嬉しいわ」

「いやいや、本当にそう思うよ。ところで、部屋に入れて頂くお礼にこれをお見せしようと探したんだ。君の春香おばあ様からの手紙が残っている事を思い出してね」


 美月はその様な手紙が残されている事を知らなかった。

 春奈が浮かべている笑みが広がった。


「わー、ありがとう。見せてもらっても良い?」

「どうぞ」


 時間が無かったので、太郎は手紙の内容はぱっとしか見ていなかった。新星暦36年に宮崎家始祖宛に出された手紙は太郎達の父親の利一の誕生をお祝いする内容で、特に特筆すべき事は書いていなかった。春奈は手紙を食い入るように読んでいた。読み終わって丁寧に手紙を畳みながら、春奈は太郎に尋ねた。


「太郎様、手紙は読んだ?」

「目を通しただけだけど、かなり親しかったみたいだね」


 春奈の手が止まった。ゆっくりと顔を上げながら太郎を見据える。


「太郎様、それだけ? それじゃ駄目だよ。この手紙の本当の意味はもっと深いの」


 太郎には春奈の変化の理由が分からなかった。美月は彼女の変化を先に知っていたおかげもあり、何となく推測する事が出来た。春奈は兄を更に目覚めさせる気なのだ。


 だが、目覚めたら何処に居るのかは、彼女にも分からなかった。



 春奈が太郎に近付きながら手紙を差し出す。


「もう一度、しっかり読んで」


 手紙を受け取った太郎は尚も考えていた。

『何が問題なんだ。初孫のお祝いと自分の初孫が自分の血を濃く引いているのが心配だが嬉しい、という内容じゃ無いか?』

 折角の好意を踏みにじられた気分だった。太郎は今度こそしっかりと読んでいった。


【お久しぶりです。まずは初孫ご誕生、おめでとうございます。初孫は嬉しいですよね。私も昌樹を初めて見た時は自分の子供達より可愛いと思ったものです。これは子供達には内緒にして下さいね。本当に、目の中に入れても痛くないって言葉を実感しています(心配しないで。いくら私でもしませんよ)。

利光さんもお元気だと聞いてうれしいです。お互いにもう孫が生まれる歳になったのだから、悠々とした老後を送りたいですね。ただ、桜ちゃんとこが10年以内にごたつきそうなのが心配です。出来るだけの手を打ちますが、そちらは計画通りに頑張って下さい。

 そうそう、昌樹が私の血を濃く受継いでしまったようです。私と違って穏やかな子に育って欲しいのですが、どうなる事やら心配です。第二のターミネーターにならずに済めばいいのですが・・・・・

 秋には時間が取れそうなので、一度お伺いします。今から楽しみです。

 気温の変化が大きい季節なので、身体に注意してご自愛なされますように。

                  迷彩服がもう似合わないターミネーターより】   


 読み終わって、手を差し出した美月に手紙を渡したのに合わせて春奈が説明をする。


「あなたのおばあ様が半年後に亡くなったので、旧交を温める為の旅行がお葬式出席になった事は知らないと思うわ。問題は桜ちゃんところが、と云うくだりなの。ラミス内乱の可能性を9年前に掴んでいた証拠よ。あなたのおじい様と私の曽祖父が死んだ誘因を作った、あの内乱の事よ」

「何が言いたい? 第一、この桜ちゃんって誰なんだ?」

「守家養女、守・ラミシアス34―7・桜。当時のラミス王の末娘よ。始祖の時代の歴史書にはよく出て来る名前よ」


 太郎にとって、歴史は興味の沸く分野では無かった。開墾に役立つ知識では無かったからだ。

 だが少なくともミドルネームに入っているラミシアスはラミス王家縁の名前であった。それ位は週刊誌でも載っている。


 美月にとっては、一級の資料だった。


 守桜。ラミスの姫様。

 だが、彼女が読んだ本の知識では、実際は守家始祖の義弘個人に押し付けられたと言っても良い。結婚出来ないならと彼の養子になってしまった様な変ったお姫様だった。春香様とは仲が良かったらしい。

 そして、この文面からは春奈ちゃんのおじい様も能力者として生を受けた事が読み取れた。美月自身の運命を変えつつある『能力』を受け継いだ現市長。この新狭山市の裏の顔の一部を知ってしまった彼女にとって、他人事では無くなっていた。


「昌樹が、と云うくだりは私のおじい様に春香おばあ様の力が遺伝した事を書いている訳だけど、二人の間柄なら分かる言葉で伝わる様にしてあるの」


 春奈は封筒を差し出して、美月に手紙を中に入れさせた。


「春香おばあ様は生涯で200人以上のグザリガ兵を殺しているわ。当時、宮崎三曹だったあなた達の始祖が名付けたあだ名が『迷彩服を着たターミネーター』なのよ。民間人だったから本来はしてはいけない事なので、かなりの部分は歴史書やマンガにも出していない黒歴史の部分なの。表に出しているのは、他の民間人に目撃された数例と『双剣士』の名称を当時のラミス王から頂いた一連の出来事くらいのもんね。むしろ、ラミス王国の方が詳しく伝わっているわ。彼らからしたら、春香おばあ様は有り得ない存在だったもの。でも、本当の正体やその特殊な力は分からない様にしながらも、一部の歴史書に書かれている事もあるわ。そこで書かれた春香おばあ様は」


 春奈はここで一旦言葉を切り、両手を後ろで組んで太郎から離れる様に背中を見せた。彼女はゆっくりと遠ざかりながら、歩調に合わせる様に言った。


「魔女だったの。信じる?」


 太郎には春奈の顔が見えなかったので、表情が分からなかった。彼が中学校で習っている『歴史』には出てこない話だった。

 確かに関根春香はその功績ゆえに『新狭山市建国の母』とも言われている。ラミス王国との同盟を成立させる事に成功した初訪問時のエピソードもそうだが、彼女が発見した植物・鉱物によって新狭山市が受けた恩恵は計り知れなかった。

 彼女がいなかったとしたら、新狭山市自体が存在していなかったという評価は今では定説になっている。

 だが、それとこれとは別だ。市で流行っている空想小説の話でもしているのか?

 美月の方を見た。彼女はこの会話に疑問を持っていない様だった。目が合った時に頷いた。彼女の目は何かを知っている事を物語っていた。


 春奈はくるりと振り返り、太郎を挑発する様に微笑みながら話しを続けた。


「ここに来た理由を教える約束だったわね。後で教えて上げる。その前に私の秘密を少しだけ教えて上げる。知れば何故、市警察本部と自衛隊が私に護衛を付けたかの一端が分かるわ。食堂に行きましょうか?」


 と言って、さっさと部屋を出て行った。

 美月も後を追いかける。

 太郎は呆然としていたが、ダントンに肩を叩かれて、我に返った。慌てて春奈達を追いかけて下へ降りた。

『何が魔女だ。ほうきに跨って空でも飛ぶのか?』


 太郎は本気で怒っていた。彼女が自分の始祖に誇りを持っているからあの手紙を見せたのに、訳の分からない事を言い出した挙句に始祖を魔女呼ばわりだ。

 春奈には気付かれていたが、彼は自分では気付いていない内に自分の始祖に誇りを感じていた。

 だからこそ春奈の言動が理解出来なかった。


 太郎が食堂に着いた時には、藤田とエキ夫妻を除いて全員が集まっていた。

 春奈が利一に声を掛けた。


「おじ様、我侭を言って御免なさい。私からも謝りますが、エキ夫妻によろしく言っておいて下さいね」


 春奈は全員の顔を見渡し、念を押す様に声を低めて宣告した。


「それとこれは絶対に守って貰いますが、今夜の事は全て市警察と自衛隊から来た四人の公務以外では他言無用です。おじ様も太郎様も宜しいですか?」

「構いませんが宣誓は誰にするのですか?」


 春奈は懐から一枚の小さな金属プレートを取り出して利一に見せた。利一はしばらくしてからその意味を理解した。この村で見る事など無いと思っていた物がそこには刻印されていた。彼は片膝を付いて首を垂れた。


「いいですよ、普通にして下さい」


 利一は立ち上がりながら首を振っていた。


「ありがとうございます。ですが、いや、びっくりしました」


 市警察から来ているスタンレイが手を上げて質問をした。


「我々にも確認させて頂きたいのですが?」

「いいですよ。どうぞ」


 春香は2番地と3番地の警護員に見える様にそれをかざした。それを見た瞬間に4人は一斉に姿勢を正し、声を揃えて発言した。


「失礼しました、殿下」


 そして10度の敬礼をした。それは見事なほど揃った敬礼であった。

 一連の動作や声音には、彼らが治安維持組織の一員だと思い知らされる何かが含まれていた。

 美月も太郎も驚いていた。父親の反応もだが、それまでの警護員からは想像出来ないほどの規律だった。


「お父様、あの小さなプレートは何なの?」

「ラミス王家の紋章入り身分証明だ。ラミス王国に行けば、市長並みに歓迎されるな」

「そうよね」


 ぽつりと呟いた美月の言葉に利一が反応した。


「驚かないのか? もしかして知っていたのか?」

「はい」

「先に言っておいてくれ。心臓に悪かったぞ」

「ご免なさい。宣誓したから今まで言えなかったの」

「え、お前・・・」


 春奈が親娘の会話に割り込んだ。


「おじ様、後で全て説明しますわ」

「ええ、分かりました」


如何でしたでしょうか?

 守り刀に関するシーンは、今回の掲載に合わせて追記したパートです。

 元々の設定では、『UK』と呼ばれる物質は新狭山市では知られた存在としていましたが、改設定では秘密とされている事にしました。

 理由は・・・

 銃器の使用に障害となるからです(^^;)

 『認識』してしまうと、下手をすれば『固定』と『作用』してしまいかねませんから(^^;)

 さあて、春奈はみんなをどこに連れて行くんでしょう?

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