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姫様来訪5日目 1

さあて、もうお分かりでしょうが、今回も地味に進みます。

 まあ、変化を一点だけ上げれば、ある登場人物の心理の変化でしょうか?

 考え方なり性格なりを理解している筈の同僚や友達が、意外な一面を見せたり意外な発言などで、分からなくなったりしますよね?

 まあ、mrtkも自分で何を言っているのか分かりませんが・・・・(^^)

新星暦83年3月26日日曜日【姫様来訪五日目】


 “バーベキュー”は盛況だった。

 子供達は最初こそ遠慮をしていたが、目の前で焼かれる肉の匂いと利一の一言が呪縛を破った。


「私より食べない子はリク隊長に怒られるぞ。さあ、競争だ」


 美月はせっせと肉を鉄板の上に載せていた。

 春奈も玉ねぎや野菜を載せては焼け次第、子供達の皿に入れて上げていた。美月も手伝った春奈お手製のタレは好評だった。味噌と醤油が中心の和風味で、子供に合わせた甘口だった。

 警護員達には今日は完全に回って来ないだろう。おいしそうな匂いが漂う中で、交代で食べる“サンドイッチ”だけが彼らの昼食だった。


 美月も時折つまみながら、視線は兄の太郎についつい向いてしまう。その太郎はヨウの為にお肉を一口大の大きさに小さく刻んで上げていた。

 信じられない光景だった。

 目下の者に優しい言葉を掛けた事も、優しい態度を取った事も無かった兄が、切った肉を更に冷ましてあげていた。

 勿論、利一も気付いていた。この数日間の変化は考えられないものがあった。

 そういえば、最近はエキ夫婦に八つ当たりやきつい言葉を言っている所を見ていなかった。彼らは決して利一に告げ口をする様な人間ではなかったが、二人の態度を見ている限り、太郎のいびりは無くなった様だった。


 今までどうしようもなかった事態が大きく好転に向かっている気がした。自然と利一の顔には笑みが浮かんで来た。


『関根さん、ありがとうございます。これ以上は無い良薬を送ってくれました』


 その『良薬』の春奈は自分の薬効を分かりつつも、心の底から喜んではいなかった。

 この段階では、まだすり傷に消毒液を塗って絆創膏を貼った程度であった。


 彼女の本当の治療、すなわち『手術』は、未だ始まってもいなかったからだ。

 


 昼食の片付けが終わった後で、美月は春奈と一緒に水着に着替えた。あらかじめ昨日の内に春奈と一緒に泳ぐ約束をしていた為に、今日は水着の準備をしていた。

 お気に入りの水着だったが、去年作った水着だったので少し小さくなっていた。この時代の水着は木綿製だったので圧迫感が有ったが、仕方がなかった。


 二人は例の岩へ歩いて行った。水温が冷たくて気持ち良い。


「美月ちゃん、良い物を貸して上げる」


 春奈が手に持っていた黒っぽい物体を美月の方へ差し出した。初めて見た物だった。長方形の箱で、透明な“ガラス”に黒っぽくて柔らかい材質が周りに取り囲む様に付いていた。


「守工業製の最新型水中眼鏡よ。今年発売予定の試作品を借りて来たの。同級生に社長の孫が居ると、こういった時に便利ね。二つ返事で貸してくれたわ。付け方はこうするのよ」


 春奈がお手本を示す為に上半身を折り曲げた。下向けた顔にその水中眼鏡を付ける。


「この時に髪の毛が挟まらないように注意してね。そして後ろの紐をこうやって留めるの。これを付けたら水の中で目を開けても平気よ」


 付け終わった春奈の顔は上半分が“ガラス”に覆われていた。春奈がおどけて商品説明ごっこを始めた。


「お客様、この新製品は我が守工業の自信作でございます。去年の製品より更にフィット感が向上しております。その秘密は我が社だけが開発に成功した“ゴム”の改良に成功したからでございます。お客様、インドゴムの木をご存知ですか?」


 美月も付き合う。


「いいえ、その様な奇怪な木はご存知でありません事よ」

「ああ、お客様。インドゴムの木は大変すばらしい木なのです。でも原材料を採取する事は大変なのです。たらりたらりと垂れる樹液をかき集めて、我が社の秘密技術でこねこねすると、あら不思議! このような魔法の“ゴム”が出来上がります。魔法の“ゴム”ですから水を通さず、しかも柔らかい。本当に不思議な木でございます。もう駄目。人様の所の製品を売り込むのは難しいね」


 売り子ごっこを打ち切って、春奈は美月の装着を手伝ってくれた。


「あ、髪の毛が挟まっているよ。動かないで」


 春奈は痛く無いように根本の方を左手でつまんで、右手で挟まった髪の毛を優しく取り除いてくれた。

 続いて後頭部の紐を留めてくれる。


「うん、これで大丈夫。ちょっとのぞいて見ようよ」


 二人は水面に顔を付けてみた。川の底にある小石が思ったより近くに感じられて、一旦顔を上げた。美月は思わず笑っていた。


「あー、びっくりした。思ったよりきれいに見えるね」

「だね。これは面白いかも」


 二人は息が続く限り潜った。美月は水中を見る事が出来るが、その時は色が抜けた視覚だった。

 だが色付きで見る水中はもっと躍動的だった。

 川の中の世界では時折上流から流されて来る川藻や小石が混じる。

 大き目の石を引っくり返すと、川虫が慌てて川底を逃げて行く。15センチほどの魚が素早い動きでその川虫をくわえて身をひるがえした。

 美月は目の前の光景に感動した。顔を春奈の方へ向ける。彼女も今の魚を見ていたようだった。顔が笑っている。

 立ち上がった二人は何故か笑い声を上げた。


「今の魚、素早かったね」

「この前はよくもまあ釣れたと思うよね」

「そうだね、水中ではお魚さんには勝てないね。知恵で勝負するしかないって事だね」


 次に二人は上流に歩いて行き、川の流れに身を任せて下った。水中眼鏡の威力は絶大だった。水面の下の別世界を思う存分楽しめる。

 1時間たっぷり楽しんだ後で、川原に戻る事にした。


 利一が川から上がった子供達を大きめの“タオル”で身体を拭いて上げたり、おやつを分けて上げたりしていた。目尻が下がりまくっている。

 美月はヨウをひざの上に乗せた太郎の横に座った。ヨウはまたもやすやすやと寝ていた。彼女にとって太郎のひざの上は安心出来る場所なのだろう。


「お兄様、ヨウがすっかり懐いたね」

「リクに聞いたら、父親が居ないからだと言われた。俺はそんな事も知らなかった」

「私は知っていたよ。でも、寂しそうなそぶりを見た事は無かったわ。考えようによっては私もお兄様と同じ。この子が寂しかった事を知らなかったんだもん」

「いや、俺の方がもっとひどい。正直、名前も知らなかったんだ。子供の中の一人としてしか見ていなかった。もっと子供達の事を知っておくべきだったんだ」


 美月は太郎が自分の非を認めた事に気付いた。

 左隣の太郎の横顔を見た後で、右隣の春奈へ顔を向ける。

 春奈は顔を真正面に向けて、川の流れを見ていた。その顔は穏やかだが、何を考えているのかは窺えない。

 あれだけ喋ったし、一緒の時間が有ったのに、春奈の事を知っていると言い切れない自分が居る。


『そう、ヨウと同じで彼女の心の中を掴めていない』


 美月の中で初めて疑問が生じた。


『春奈ちゃん、何を考えているの?』


 気が付くと目が合っていた。


「美月ちゃん、目が怖いよ」


 そう言った春奈の目は笑っていた。その時、太郎が春奈に声を掛けた。


「市内では、そんな水着を一杯売っているのか?」

「うん、売っているよ。女の子用の水着に興味が有るの?」

「まさか。そんな趣味は無い。美月の水着を選んで送ってくれないか? 中村屋に持たせてくれたら、送料込みで俺が払う」

「いいよ。美月ちゃんに似合う可愛い水着を選んでおくね」

「お兄様、別に良いよ。これも自分で作ったし、新しいのも自分で作るから」


 美月は慌てて口を挟んだ。心の中は突っ込みを入れていた。『何を言い出すの?』


「いや、いつも家事で忙しい妹にプレゼントするのに、水着の一枚くらいは安いもんだ」

「美月ちゃん、もう注文は聞いたので取り消しは出来ないよ。それ以上断ったら“フリル”が沢山付いている、見ただけで恥ずかしくなる様な水着を選ぶよ?」

「いや、それだけはやめて。出来るだけ普通のにして・・・・」

「お客様のご注文にぴったりの水着をお送りさせて頂きますわ、おほほほほ」


 美月は顔を伏せていた。彼女の心の中は様々なものが渦巻いていた。

 自分で遊ばれてしまった恥ずかしさ。兄の心配りに対する驚き。そしてそれを引き出した春奈の影響。


 そう、全ては彼女に結び付く。彼女が来てから、宮崎家は凄い勢いで方向転換が起こっている。

 美月の心にまた一つ、疑問が湧いた。


『何故、あなたはここに来たの?』


 それは以前に太郎が春奈に訊いた疑問だった。

 彼女が考え事をしている間に、兄と春奈の会話は変な方向に向かっていた。


「でも、わざわざ水着を用意して来るなんて、泳げなかったくせによっぽど水遊びが好きなんだな」

「悪い?」

「別に悪くは無いけど」

「もっと肉感が有る方が良かった?」

「誰もそんな事は言っていない」

「仕方ないのよ、私の場合」

「もしかして病気なのか?」

「私の場合、食べた栄養は全て脳に行くの。そうでないと脳が耐えられないの」


 美月も太郎もそんな話は初めてだった。

 だが、春奈級の保持者になると有り得そうな気がする。確かに身体も小さい。身体がケリュク発生量に見合う様に栄養の配分をしているのかも知れなかった。

 二人が無言になった途端に春奈は噴き出してしまった。


「ごめんなさい。嘘だよ。さすがに脳に全ての栄養が行く事は無いよ。でも、もうちょっと背が高くなりたいな。遺伝具合から150cmちょっとで止まりそうだけど」

「何の遺伝だ?」

「春香おばあ様。おばあ様は150cm位だったわ。あの写真を見て確信したの」


 150cmの身長では、ラミス系人との混血成人女性の平均身長が168cmになっているこの時代では、かなり小さい部類になる。


「でも、それも良いかもね。大好きなおばあ様の遺伝なら構わないわ」

「本当に好きなんだな」

「うん、大好き」


 美月にとっての関根春香に対する思いと違う重みがその言葉には有った。

 自らに流れている血に対する盲目的な愛情が垣間見えた。

 さすがに、そこまでの感情は美月には無かった。

 

 だが昨日の夜に訊いた問いに対する答えはまだ聞いていない。


『春香様の子孫ってどんな気持ち?』


 明日の夜は何と答えてくれるのだろう?


如何でしたでしょうか?

 ほのぼのし過ぎて、のたうちまわりそうです(^^;)

 うー、戦闘シーンを書きたい・・・

 よし、次の休みは「リトマス紙」の方で、ガルパンSSを書く事にしよう(^^)

 書きたいな(^^) 書けるかな(^^;)

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