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H.E.L.R  作者: アラック
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第二話 立花万里夫

 立花万里夫(たちばなまりお)という男がいる。


 火花のいう「前パパ」こそが、その人物だ。

 職業は売れないライトノベル作家。

 彼がどういった人物であるかを端的に表現するならば、若干古風ではあるが「うらなり瓢箪」というのが適当だろう。

 俺も実際に会ったことは何度かあり、そのたびに気の小さい人物だなという印象を抱いていた。


 だが、気が小さくはあるが、気が弱いわけではない。

 ひとり娘に火花などと名前を付けるあたりがそうだ。

 以前命名の理由を聞いてみたことがあるのだが、「立花火花(たちばなひばな)なんて、韻を踏んでいて、しかも花の字がふたつも名前に入っているなんて、素敵じゃないか」などと答えが返ってきて、そのときの俺はかけていた眼鏡を外して目頭を強く押さえたことをよく覚えている。

 さすがはライトノベル作家、などとその道の作家すべてを敵に回すような事を言うつもりはないが、この男に多大な懐疑を抱くには充分すぎる出来事だった。

 いやな方向に信念が強い人物であり、その信念の強さに振り回される人物が少なからずいるのだ。

 母や妹や、そして父。俺もそのひとりだ。


 さて、なぜそんな「前パパ」の話をしているのかというと、火花が「ぷち家出」する時はこの「前パパ」のところにいることが多いからだ。

 他にも、クラスメイトの御宅やよくわからない筋の人間のところにやっかいになっていることもあり、立花さんのところにいなかったとなれば、そういった途方もない筋をひとつひとつ当たっていかねばならない。

 家出前、火花は金を必要としていた。親に小遣いを前借りせず、アルバイトまでして。

 普段なら親に小遣い前借りするのをためらう火花ではない。

 そうしないということは、親に対して何らかのプレゼントを用意するための金が要る、ということだろう。

 俺にも借金の要求をせず、そしてこの時期、となると、答えはもう導き出せたようなものだ。

 身内ならすぐにわかるような簡単な話で、両親の再婚記念日を数日後に控えているのだ。


 今回の件に関して、友人をはじめ知り合いに金を借りる、という選択肢もあいつの中にはないだろう。

 これは火花のクラスメイトに聞いた話なのだが、あいつは人に頼られることはあっても人を頼るということは決してしないらしい。

 普段はあんないい加減な態度であるにも関わらずだ。

 俺はそのクラスメイトの言葉に疑念を持っていたのだが、火花の知り合いに聞くと口を揃えて同じことを言われるもので、これはもはや真実か、あるいは洗脳の類ではないかと頭を悩ませる種となっている。

 家では事あるごとに俺や両親を頼ってくる姿が普通となっているだけに、素直にその言葉を信じる事ができないのだ。


 しかし、そういった火花の友人知人の言と照らし合わせると、今回のあいつの行き先は容易に特定できてしまうのだ。

 普段家族を頼る火花が家族にその真意を明かさないということは、当然友人知人にも相談することはないだろう。

 まして、金を借りに行くなどとは考えにくい。

 知人に緊急でアルバイトを斡旋してもらっている、という線も無きにしも非ずだが、この線はひとまず置いておくとしよう。


 そこで登場するのが「前パパ」こと立花万里夫さんだ。

 普段の「ぷち家出」の行先が彼のところということもあり、火花が家族以外で唯一頼れる人でもあるからだ。

 立花さんの方も娘が訪ねてくるのがうれしいようで、よく小遣いを与えたりどこかへ遊びに行ったりしているのだという。

 もちろんうちの父には内緒だ。毎度フォローしている俺の心情を察していただきたい。

 というわけで、まず潰しておく可能性のひとつ、というよりは最有力候補に挙げられるのが、立花さんの自宅兼仕事場なのである。



 ◇



 電車でふた駅ほど。

 といっても地方の片田舎となると、そのふた駅がひどく遠い。

 ふた駅過ぎても町から町で、市になるのはもうふた駅過ぎてから、という地域もある。

 幸いなことに我が家は都会と田舎との中間あたりに位置しているため、アクセスはそれなりに良好だ。

 ただ、田舎の電車は天候に左右されるのが常であるため、台風や大雪で足が断たれる事が難点ではある。

 今はそういった季節ではないので、これも幸いであるというべきだろか。


 3連休初日の電車内は、まだ朝も早いというのに込み合っている。

 大半は市内に遊びに行く学生たちだが、家族連れや、老夫婦の姿も見られる。

 父と母と、そして3歳くらいの男の子が仲良くボックス席に座っている光景を、俺はつり革越しに見ていた。

 俺があの子くらいの歳頃には、俺を産んだ母はこの世にはいなかったという。

 その頃の事も俺はよく覚えていない。

 もし母が存命だったら、俺もああいった風景の中にいたのだろうかと、複雑な気持ちになってしまう。

 過ぎてしまった事、まして自分の力ではどうしようもなかった事だというのに。

 母とまともな言葉を交わせた記憶など当然なくて、かといって父に俺と母がどういったやり取りをしていたかと問うことも、なんとなく躊躇われた。父もあまり母の話をしなかったという事もあったからだ。

 今ではちゃんと母がいて、莫迦な妹までいるので聞く機会を逸してしまっている。

 今はそれでいいと思っているし、いつか自然と聞けるときが来るだろう。


 視線を電車の外に移すと目的地であるマンションが見えてくる。

 駅を出てすぐの場所に立花さんの自宅マンションはあるのだ。

 駅から徒歩5分もかからないため、火花曰く「超便利」。

 朝に弱い火花が一時期立花さんのマンションから学校に通おうかと気だるげ呟いていたが、父の心情と俺の心労を考え全力で阻止した経緯がある。

 そういえば、朝に弱いはずの火花が早朝にはいなかったというのは、いまさらながら不思議なものだと気付く。

 昨夜は日付が変わるまで俺を格闘ゲームに付き合わせていたので、終電で出かけたという線はない。

 休日の俺が朝早く起きることを知りつつ、それより先に起きて身支度を整え出かけたというのであれば、今回の再婚記念日を余程大事に思っているということだろう。

 自分の言葉で父を傷付けてしまったと、一時期頭を抱えていた火花の姿を俺は目にしている。

 理由はわかったが、なぜ俺に相談しなかったのかと憤慨する気持ちもある。

 まったく莫迦な妹め。



 ◇



 莫迦な妹め。

 そういうわけで、俺はマンションの最上階にいる。

 最上階への階段を上がって一番奥の部屋が立花さんの自宅だ。

 朝陽のまぶしい通路を歩きながら下を見ると、駐車場にはいつものように黒塗りの車が3台ほど止まっている。

 眩暈を覚えるが、いつもの事だ。


 立花万里夫氏は売れないライトノベル作家であるにも関わらず、彼の周囲にはSPが常に詰めている。

 彼の自宅である最上階一番奥の部屋、その前の部屋を、まるでドラマや映画に登場するような黒服の人間が貸し切って詰所代わりにしているのだ。

 立花さんの離婚の原因である「僕は命を狙われているから、別れたほうがいい」という言葉に説得力を持たせるための自演だとしたら、作家は売れずともそれだけの事をする財産を持っていることになるのだが……。

 残念ながらこれは立花さんの自演ではなく、本当に警視庁警護課の人間が詰めているのだ。

 エキストラという線もあるだろうが、さすがに本物そっくりのバッヂを付けての演技はできないだろう。

 明らかに違法だ。実際に通報して確かめてみたが、今もこうして彼が詰めているということは、彼らは本物のSPなのだろう。


 ではなぜ立花さんはSPに警護されて生活しているのだろ

う。

 彼の言うとおり本当に命を狙われているのか、それとも別の理由があるのだろうか。

 事実がどうであれ、俺にはさほど関係のないことだ。

 妹の所在を確かめることができればそれでいいし、それ以上は関わり合いになりたくないというのが本心だ。


 玄関の前に立つと、チャイムを押すより早く扉が開かれた。

 扉を開けて現れたのは黒スーツにサングラス姿の女性、確か立花さんが佐伯(さえき)さんと呼んでいた人だ。

 監視カメラで俺がやってくるのを見ていたのだろう。

 以前ここを訪れたのはひと月前だから、もう一ケ月以上この現場に詰めている事になる。

 警護となればホテルの部屋で半ば軟禁という形を想像するものだが、立花さんは余程好待遇なのか自宅のマンションを離れることがなく、それどころか普通に外出している始末だ。

 娘と遊びにいったりもする。当然、警護する側の人間としてはリスキーな警護対象のせいで心身にかかる負担は多大なものだ。

 そのなのせいか、または専属の人間を付けておくことができない決まりでもあるのか、警護の人間はちょくちょく入れ替わる。

 少なくとも黒塗りの車3台分の人数はこの付近に詰めていて、俺はその全員に会ったことなど当然ないのだが、以前警護に当たっていた人と再び顔を合わせるということは一度もなかった。なので、とっさに言葉が出てこない。

 若干の間があり、ようやく俺が「どうも、お久しぶりです」と口にする頃には佐伯さんのほうも俺の事を思い出してくれたらしく、会釈とともに中に入れてくれた。

 どうやら俺は「中に入れても安全な人物、客人」と認識してもらっているようだ。


 玄関を上がると長いフローリングの廊下があり、その途中に客間がふた部屋用意されている。

 佐伯さんはそこを素通りして、奥の部屋に案内してくれる。

 そして扉の前で振り返ると、どうぞとばかりに道を開けてくれた。

 本当にVIPに会うかのような動作に辟易しつつも、俺は会釈を残してその扉を開けた。



 ◇



「ちょっと、次のお話をどうするか迷っている部分があってね?」


 俺が部屋に入るなりそんな疑問の声が生まれた。

 声は俺の発したものではない。

 目の前、窓を臨む壁際に机を置き、こちらに背を向ける形で座椅子に腰かけている人物が発した声だ。

 立花万里夫氏の声だった。


 俺の後ろで扉が静かに閉じられると、立花さんはノートパソコンのキーを打つ手を止めて一息。

 手元に置いていたコーヒーカップを手に取って、俺の方へ座したまま向き直った。


「やあ、久しぶり。よく来たね。ゆっくりしていっておくれよ。ほら、まあ、座って」


 にこやかに、若干上目使いで立花さんは言って、部屋に入ってきた俺に座布団をすすめてくる。

 簡単に会釈した俺は、すすめられるままに座布団を受け取り、部屋の隅にそれを敷いて座る。

 畳の敷かれた四畳半の個室は相変わらず閉塞感を感じさせるもので、窓と扉に面していない両脇には本棚に隙間なく本が詰められている。

 軽い地震でも来ようものならすぐに逃げ出せないような狭さだ。

 その部屋の主である立花さんはこちらを向いたままで、何故だかひどく上機嫌に見える。

 何か話を切り出そうとしているのがまるわかりなので、その先を促すことにした。


「次のお話というのは新作ですか? それとも、既刊の続編?」


 立花さんの書籍というものを俺はあまり読んだことがない。

 妹が偶然読んでいた1冊をなぜか読まされた事があったのだが、その1冊に限っていえば、中身は非常にチープなものだった。

 ファンタジー世界での男女の出会いと戦い、そして成長の話。

 誰でも思いつきそうな王道な話なのだが、しかし中身がない。

 話の盛り上がりがなく、主人公の心情を淡々と描写し続けたような平坦なものだったのだ。

 相手はきっとこう思っているに違いない、でも違っていたらどうしよう。

 そんな内面のループが繰り返される場面が幾度もあり、結果主人公はヒロインに思いを伝える事すらできていないのだが、それでもヒロインは主人公の意思を、まるで心を読む力があるかのごとく看破して、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのである。


 チープだといったが、思い出してみるとそれ以上に気持ち悪さのようなものがが込み上げてくる。

 内臓の調子を害した時のような気分の悪さだ。

 主人公の「こうなればいいな」という、かすかで弱々しい願望を、物語がいちいち汲み取ってかなえてくれるかのような、自分の夢の中で都合のいい物語を演じているかのような、そんなうすら寒さを感じずにはいられないのだ。


「ううんとねえ、新作といえば新作なんだけれど。でも僕は、自分の書いたものはどの作品にも何かしらつながっている部分があると思って書いているから、完全な新作なんてないと思っているのだけれどね」


 得意げな立花さんの声でふと我に返り、マイナスに傾いていたメンタルをすっとフラットに戻した。

 今日の立花さんはやけに饒舌に語る気がする。

 俺が何度も訪ねて顔見知りとなったからか、それとも誰にでもいいから話したかったことがあったのか。


「本当に簡単なことなんだけれどね。舞台は現代の日本、主人公は、君たちと同年代くらいの少年少女たち。ただ、超能力を使ったバトルものにするか、甘酸っぱい青春ラブコメにするか、迷っていてね?」


 そこは最初に決めておくべきことなのではないだろうか。

 どんな話が来るのかと一瞬でも身構えてしまった自分が情けない。

 俺はため息とともに「じゃあバトルものでどうですか?」と、気のない返事をする。

 そろそろ自分が得意げに語りすぎていて俺が辟易していると気付き、縮こまってしまうというのというのが普段の立花さんなのだが、どうしたことか、今日はそうはいかなかった。


「なるほど、君ならそういうと思っていたよ。さっそく続きがかけそうだ」


 若干声を上ずらせてそう告げると、立花さんは再びノートパソコンへと向き直って執筆作業を始めてしまう。

 客人が目の前にいるというのに、こちらの顔色をうかがうような素振りは今日は見せていない。

 その変化にどこかうすら寒さを感じ、俺は早々にこの場を離れるべく、ここを訪れた本来の目的を切り出すことにした。


「火花がこちらにお邪魔していませんか?」

「あれえ? またぷち家出かい? しょうがない子だなあ……」


 立花さんの声色に呆れているような響きはない。

 その声は上機嫌のテンションのまま可愛い一人娘を褒める親莫迦のものだ。

 この回答だけ聞いても、ここに火花が来ているのかどうかさえ明らかではない。

 すぐに答えてくれればいいものを、なぜこうして焦らすのか。

 ノートパソコンに向き直ったまま鼻歌交じりにキーを叩き、こちらの神経を逆なでするかのように「ううんとねえ」などと間延びした言葉を続ける。

 この人は俺の質問に対しどうしたいのだ。

 答える気があるのか、それとも挑発して俺の神経を逆なでしたいだけなのだろうか。


 何かがおかしいと感じたのは、そうして沸々と怒りが込み上げてきている最中だった。

 違和感ではなく、既知感。

 俺は以前にもこの光景をどこかで見たことがあるのではないか?

 しかし、立花さんのこの人をおちょくったような態度など、そうそうお目にかかれるものではないはずだ。

 これが火花を探している最中でなかったら、俺は怒りを感じる前に立花さんの身に何かがあったのではないかと逆に心配している事だろう。


 待てと、自分自身を静止する言葉が出てきた。

 既知感の正体はまさにそこだと、直感のようなものが告げている。

 この光景を目にするのは本当に今日が初めてだろうか?

 俺が忘れているだけで、以前にも同じような事があったのではないか?

 俺は何度も立花さんのところに「ぷち家出」した火花を探しに来ているはずだ。

 そのたびにどんな事があっただろうか、そこが思い出せない。

 お茶を出してもらっただろうか、その時した話の内容は、結局立花さんのところから火花を連れて家に帰るという結末がいつも通りのはずなのだが、その結末に至る経緯が完全に思い出せない。


 まずい、何か手を打たなくては。とっさにそう考えて座布団から立ち上がるが、しかし何をすればよいのかが分からず立ち上がったまま動くことができない。

 何かを成さなければならないという事だけははっきりとしているのに、具体的に何をすればいいのかがわからない。

 目的のために取る手段をど忘れしてしまったかのようなもどかしさが、胸を焼くように渦巻いている。


「ほんとうに、キミはいい子だね。火花の事を心配してくれるし、別れた妻や僕にまで気を使ってくれるなんて。だからこそ、キミは主人公にふさわしい」




『僕にはね、紙上に書き上げた物語を現実世界を舞台として再現する特殊能力があるんだ。そのせいでとある筋の人たちから命を狙われていて、そんな人たちから僕を守るためにSPさんがわざわざこうして詰めていてくれるんだ』



 立花さんの「主人公にふさわしい」という言葉の後に、そんなセリフが脳内で再生された。

 音声は立花さんのもので、続いて立花さんと初めて会った時の事が思い出される。

 確かそんな事を言われて握手を求められ、俺は首を傾げつつもそれに応じたのだ。

 なぜ今まで忘れていたのだろうか……!


 何が気の小さそうなうらなり瓢箪だ、目の前にいるのはたちの悪い詐欺師ではないか!

 何をすべきかがはっきりした。立花さんを止めねばならない。

 立花さんに小説を書かせてはならない!


「……さすがは主人公だ。たった数回の体験から既知感に至り、僕の事を思い出すなんて。でも、もう遅いよ?」


 せわしなくキーを動かしていた立花さんの手が止まる。

 すでに作業は終了してしまったのか。

 いや立花さんの背中越しにノートパソコンの画面をのぞき見れば、ご丁寧に「入稿」と書かれたタブにカーソルが合わせてあり、あとはエンターキーを押すだけという状況になっていた。

 たった一挙動ですべて相手の思うつぼとなってしまう歯がゆい状況だが、そんなこと気にならなくなるほど、俺の怒りを呼び起こすものが目に入ってきた。

 「入稿」タブの奥の文章の羅列に「火花」という名前を見つけたのだ。


「立花さん、あなたは自分の娘に一体何をする気なんだ! いや、これ以上何をする気なんだ!」


 俺が声を荒げた事で背後の扉がノックされる。

 扉の向こうに佐伯さんが待機していて、今のやり取りを聞いていたのだろう。

 それで、険悪な怒声を聞きつけ、介入しようとしているのだろうか。俺は構わず、立花さんに掴みかかろうとする。

 だが、立花さんがエンターキーを押す方がはるかに速かった。


 瞬間で、目の前が真っ暗になり、音が消える。

 何かごわごわしたものに包まれているかのような気持ち悪さ、そして虚脱感と浮遊感とが全身を襲う。

 あと一歩のところで彼の企みを阻止することができなかった悔しさが湧き上がる。

 五感奪われ、耐え難い眠気に襲われる中、脳裏に小さく立花さんの声が聞こえてきた。


「今回も期待しているよ、主人公くん」


 罵声を投げ返してやりたかったが声を出す事が適わない。

 ならば、いいさ。家出した莫迦な妹を探して毎回こんな事に巻き込まれていたというのだ。

 今回も期待通りに掌でダンスして、そのうえで高い場所から余裕で見物しているあなたに一泡吹かせてくれようではないか。

 意識を失う直前にふと浮かんだ言葉は、火花が彼のマンションを訪れたかどうかくらい誠意をもってちゃんと答えろ、という悪態だった。




つづく

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