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名前も知らない君に僕は恋をした  作者: 桐生桜嘉
君と過ごした日々 
8/13

君と過ごした特別な日 ~3月31日~

待ちに待った土曜日が、ついに来た。


「…ちょっと早かったかな…。」


予定より30分ほど早く来てしまった僕は、

ブランコに座り、空を見上げながら君が来るのを待った。


その日の空はいつもと違い、眩しいくらいの晴天だった。


咲き乱れるしだれ桜の間からは、

いろいろな形をした雲が流れていくのが見える。



 「──ごめんっ!待たせちゃった…?」



突然そんな声が聞こえ、その方向に目を向けると君がいた。


いつもは部屋着のような服装だが、

今日はオシャレに力を入れたようだ。

──僕と同じように。


「ううん、今来たとこ。」


僕は決まり文句を言い、そして歩き出そうとしたとき、

君の持っていた缶の箱に気づいた。


「…その箱、どうしたの?」


すると君は照れるような表情で、


「タイムカプセルにしようと思って…。」


と言った。


「でも僕、手紙とか書いてないよ?」


「大丈夫。

 これ、ここに埋めとくから2週間後ぐらいかな?

 翼の高校の入学式の日に掘り返してね。いい?」


そう言いながら持って来たシャベルを使い、

その缶の箱を2つのブランコの間に埋めた君は、

そこにシャベルを置き、

「これが目印ね」と言った。


タイムカプセルにしては2週間という短い日数や、

なぜ僕が今年高校生になるのかを知っているのか気になったが、

君の笑顔を見たら、僕は頷くことしかできなかった。


「じゃあ いこ?どんな所に連れて行ってくれるの?」


「それは行ってからのお楽しみ。」


「遊園地は行くでしょ?一番最初は何に乗る?」


「ジェットコースターとか?」


「え…。─コーヒーカップとかにしよーよっ!!」


そんな会話をしながら、僕たちは目的地へと向かった。


最初はやっぱり遊園地。

いろんな乗り物に乗って騒ぎまくった。

そこで思い出の品を買って、

次はゲームセンター。

全てが初めてだったのか、君は慣れない手つきで遊んでた。

君が欲しがってたくまのぬいぐるみを僕がとってあげると、

君はそれを抱きしめたまま放そうとしなかった。

その後は僕も初めてだったプリクラを一緒にとって

思い出の一枚にした。



──僕たちが桜ノ宮公園に戻った時には、

すでに日が落ち、空にはたくさんの星たちが

輝いていた。


そこで僕は、ある計画を実行する。



「──これ、プレゼント。」


そう言って僕が君に差し出したのは、

金色に輝く、桜の模様が施されたペンダントを

下げたネックレスだった。


「え…?」


動揺する君に、僕は「後ろ向いて」と言い、君の首にネックレスをやり、

金具をとめる。

君はペンダントを持ち上げ、僕に問いかけた。


「…これ、もしかして開けられる?」


僕は頷き


「開けてみて。」


と言った。


扉状のふたを開けた君は、目を見開き


「──すごい…。」


とつぶやいた。



──僕は息を整え、

ゆっくりと自分の気持ちを伝える。



「──君のことが好きなんだ。

  僕が君を守る。

 だから、付き合ってほしい。」



……──しばらくの間、沈黙が続く。



そしてようやく君が口にしたのは───



    「──ありがとう──」



ただ、その一言だった。


でも僕にはわかってしまった。

君が言ったその一言には、

もう一つの言葉が込められている、ということが。



 『──気持ちには、こたえられない──…』



そんな言葉が──…




「──じゃあ、また…」


そう言ってその場を離れた僕は、少し後悔した。



  ──気持ちさえ伝えなければ


      いい思い出になったのに──



                と……。

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