君の親父さん ~3月30日~
次の日も、僕は早めに家を出て公園に向かった。
公園には8時半についてしまった。
やはりそこに君の姿はなかったが、僕はブランコに座り、
君が来るのを待ち続けた。
……──もうすぐ11時になる。
それなのに、君の姿は見えなかった。
そろそろ帰らなければいけない時間だ。
僕は諦めて公園を出ようとした…丁度その時。
君が現れた。
君は走ってきたのか、息があがっていた。
「──ごめ…」
苦しそうに肩を上下させながらそう言った君に、
僕はほほえむ。
「大丈夫だよ、気にしないで。
…とりあえず、休もっか。」
頷いた君をブランコに座らせ、
僕は君の顔を覗き込むように目の前にしゃがんだ。
「…何かあったの…?」
静かに首を振った君に、僕は笑いながら
「そこまでして来なくてもよかったのに──」
そう言って
「──ありがとう。」
と、つぶやいた。
そして、やっと落ち着いた君が言った言葉に、
僕は何も考えられなくなってしまった。
「──会い…たくて……。」
その言葉に……。
しばらく目を見開いていた僕だったが、
やがてほほえみ、
「──僕も。」
そう返した。
僕たちは笑いあった。
君の笑顔がすごくいきいきしていて、
とてもきれいだった…。
──本当はその日、
次の日となった出かける日の予定を話そうと思っていたのだが、
時間も時間なので、電話ですることにした。
──家に着くと、僕は早速電話をした。
……プルルルル…プルルルル…
お馴染みの音が繰り返される。
そして──
ガチャ……
『──はい。』
電話に出たのは、優しい声音をした男の人だった。
「あ、あのー…僕、佐藤 翼といいます。
えーと……」
君の名前を知らない僕は、その後の続ける言葉が
わからなくなってしまう。
だが、代わりに電話の相手が続けてくれた。
『あぁ!翼くん?
いつも娘から聞いていますよ。
私は父です。』
ホッとした僕は、少し不思議に思った。
──なぜ、名前を言わないんだろう…。
せめて、名字ぐらいは会話に出てくると思っていた僕は、
名字さえ一度も出てこなかったことに疑問をもつ。
「あの…どうして、名前を言わないんですか?」
『え?あぁ…私たちのこと?…だよね。』
「…はい。」
君の親父さんはしばらく黙っていたが、
少しだけ僕に教えてくれた。
『──あの子に…頼まれたんだ…。』
「娘さんに…ですか?」
『そう。翼くんには、名前を教えないでほしい、ってね…。』
「どうして──」
『それも教えられない。
そのうち…わかるさ…。』
[そのうち]って──……。
『──翼くんは明日のことで電話をしたんだろう?
今、娘はいないから、代わりに私が伝えておこう。』
「どうしてそのことを?」
『そりゃ親だもん。』
その一言から、彼が君のことを
どれだけ大切に思ってるか、わかるような気がした。
「じゃあお願いします。
えっと、待ち合わせ場所はいつもの公園で、
10時に。
持ち物は自由で。」
『おわりかな?』
「あ、はい。」
『了解。いちを確認ね──』
そして僕が言ったことをそのまま繰り返す。
僕が「大丈夫です」と答えると、
『じゃあ伝えとくね』と言われ、
僕はお礼を言って電話を切った。
──いろいろと気になる点はあったが、
深く考えることはせず、ただ明日の準備をして
僕は眠りについた。




