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名前も知らない君に僕は恋をした  作者: 桐生桜嘉
君と過ごした日々 
7/13

君の親父さん ~3月30日~

次の日も、僕は早めに家を出て公園に向かった。

公園には8時半についてしまった。

やはりそこに君の姿はなかったが、僕はブランコに座り、

君が来るのを待ち続けた。


……──もうすぐ11時になる。

それなのに、君の姿は見えなかった。


そろそろ帰らなければいけない時間だ。


僕は諦めて公園を出ようとした…丁度その時。

君が現れた。

君は走ってきたのか、息があがっていた。


「──ごめ…」


苦しそうに肩を上下させながらそう言った君に、

僕はほほえむ。


「大丈夫だよ、気にしないで。

  …とりあえず、休もっか。」


頷いた君をブランコに座らせ、

僕は君の顔を覗き込むように目の前にしゃがんだ。


「…何かあったの…?」


静かに首を振った君に、僕は笑いながら


「そこまでして来なくてもよかったのに──」


そう言って


「──ありがとう。」


と、つぶやいた。


そして、やっと落ち着いた君が言った言葉に、

僕は何も考えられなくなってしまった。



 「──会い…たくて……。」



その言葉に……。



しばらく目を見開いていた僕だったが、

やがてほほえみ、



 「──僕も。」



そう返した。


僕たちは笑いあった。


君の笑顔がすごくいきいきしていて、

とてもきれいだった…。




──本当はその日、

次の日となった出かける日の予定を話そうと思っていたのだが、

時間も時間なので、電話ですることにした。



──家に着くと、僕は早速電話をした。


  ……プルルルル…プルルルル…


お馴染みの音が繰り返される。

そして──


    ガチャ……


『──はい。』


電話に出たのは、優しい声音をした男の人だった。


「あ、あのー…僕、佐藤 翼といいます。

 えーと……」


君の名前を知らない僕は、その後の続ける言葉が

わからなくなってしまう。

だが、代わりに電話の相手が続けてくれた。


『あぁ!翼くん?

 いつも娘から聞いていますよ。

 私は父です。』


ホッとした僕は、少し不思議に思った。



 ──なぜ、名前を言わないんだろう…。



せめて、名字ぐらいは会話に出てくると思っていた僕は、

名字さえ一度も出てこなかったことに疑問をもつ。


「あの…どうして、名前を言わないんですか?」


『え?あぁ…私たちのこと?…だよね。』


「…はい。」


君の親父さんはしばらく黙っていたが、

少しだけ僕に教えてくれた。


『──あの子に…頼まれたんだ…。』


「娘さんに…ですか?」


『そう。翼くんには、名前を教えないでほしい、ってね…。』


「どうして──」


『それも教えられない。

 そのうち…わかるさ…。』


[そのうち]って──……。


『──翼くんは明日のことで電話をしたんだろう?

 今、娘はいないから、代わりに私が伝えておこう。』


「どうしてそのことを?」


『そりゃ親だもん。』


その一言から、彼が君のことを

どれだけ大切に思ってるか、わかるような気がした。


「じゃあお願いします。 

 えっと、待ち合わせ場所はいつもの公園で、

 10時に。

 持ち物は自由で。」


『おわりかな?』


「あ、はい。」


『了解。いちを確認ね──』


そして僕が言ったことをそのまま繰り返す。


僕が「大丈夫です」と答えると、

『じゃあ伝えとくね』と言われ、

僕はお礼を言って電話を切った。



──いろいろと気になる点はあったが、

深く考えることはせず、ただ明日の準備をして

僕は眠りについた。

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