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名前も知らない君に僕は恋をした  作者: 桐生桜嘉
僕は君を守る、そのためだけに生きよう
12/13

この身を君に捧げる ~4月11日~

君がこの世を去ってから10日が過ぎた。


今日は僕が通うことになった高校

〖櫻雲学園〗の入学式。


ふと目が覚めて時計を見ると、

まだ5時前だった。


再び眠りにつこうとした時、

僕は君の言葉を思い出した。


──そう、タイムカプセルのことだ。


『これ、ここに埋めとくから、2週間後ぐらいかな?

 翼の高校の入学式の日に掘り返してね。

 いい?』



──僕の足は自然とあの公園に向かっていた。


君との思い出の場所

〖桜ノ宮公園〗に──……。



……2週間なんて、あっという間だと思ってた。


それなのにこの公園に来るのは、

3ヶ月ぶりのような気がする……。


公園は桜の花びらで埋め尽くされ、

まるで桜の絨毯じゅうたんのようだった。


僕は2つ並んだブランコに歩み寄り、

そしてその間に変わらず置かれていたシャベルに

手を伸ばす。


シャベルには桜の花びらが積もっていて、

持ち上げると花びらは宙を舞うように

地に落ちていった。


僕はシャベルのあった場所を掘り返す。

すると、見覚えのある缶の箱が

その姿を現した。


──タイムカプセルだ。


蓋を開けると、

中には手紙と共に、僕が君にあげたしおりと絵、

しだれ桜の花たち、

そして僕があの時あげたペンダントが入っていた。



僕は手紙を手に取り、封を開ける──……



『 翼へ

 私の名前は櫻井 美琴。

 今まで黙っててごめんね。


 ──私が櫻井 美琴として翼に会えるのは、

  4月1日が最後だと思う。


 私、がんだったんだ。


 余命宣告までされちゃってね、

 1ヶ月もないって言われちゃったの。


 ──でも私、死んでもいいって思った。


 私のお母さんもね、同じ病気で死んじゃって、

 先に天国に行っちゃったの。

 だから、ママに会える…。

 それなら死んでもいいって思ってた。


 でも翼に会ってから、楽しいって…

 もっと生きたいって思えた。


 もっと、翼と… 一緒にいたいって……。


 それで私…神様にお願いしたの。

 もうちょっとだけ、この世にいさせて下さい

 って。

 

 そしたら、余命宣告の1ヶ月を過ぎても生きて、

 翼に会うことができたの。


 でも…31日にね、神様…なのかな…

 声が聞こえたんだ。


 ……明日が最後だって。

 だから思う存分楽しみなさいって……。


 

 ごめんね。


 翼ともっと一緒にいたかったけど、

 ムリみたい……。



 だから、この手紙に私の想いを託すね。



 ──来世でも会おうね。


  約束だよ……?


 その時は私、健康な身体で

 ずっと翼のそばにいるよ。


 だから来世では、

 いい思い出をたくさんつくろうね。



 それとね、もう一つ翼に伝えたいことが

 あるんだ。



  ──翼──


  ──大好きだよ──……。



 翼の彼女になりたかった……。



 一緒に過ごせて、

 すごく楽しかったよ。



    ───ありがとう───……



                美琴 』 



この手紙を書いた時、

きっと美琴は泣いていたのだろう。


ボールペンで書かれた『ありがとう』という文字が、涙で滲んでいた。



手紙を読み終わった僕の目にも、

涙が溢れていた。



──なんだ……。


あの時の君の言葉は、そういう意味だったのか…。



僕は何気に、しだれ桜のもう一つの

花言葉を思い出した。


それは──


  ──〖ごまかし〗──……。



「本当…しだれ桜に似てるよ……君は……。」


そう言いながら、僕は満開のしだれ桜を見上げる。


そして呟いた。



「──僕もだよ……。



   ──美琴──……。」




******


櫻雲学園には桜並木がある。

ソメヨシノが連なる中に、最後の対になっている桜だけは、

しだれ桜だった。


桜並木を通り抜け、

下駄箱へと向かおうとした時───



 『──入学おめでとう──


   ──翼──……。』



そんな声が聞こえた気がした。


そう……君の声が──……。



僕は振り返る。



──僕等は来世でも、きっと会えるよ。


 その時僕は、この身を君に捧げよう。


僕は───


 ───君を守る。


  そのためだけに生きよう──……




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