この身を君に捧げる ~4月11日~
君がこの世を去ってから10日が過ぎた。
今日は僕が通うことになった高校
〖櫻雲学園〗の入学式。
ふと目が覚めて時計を見ると、
まだ5時前だった。
再び眠りにつこうとした時、
僕は君の言葉を思い出した。
──そう、タイムカプセルのことだ。
『これ、ここに埋めとくから、2週間後ぐらいかな?
翼の高校の入学式の日に掘り返してね。
いい?』
──僕の足は自然とあの公園に向かっていた。
君との思い出の場所
〖桜ノ宮公園〗に──……。
……2週間なんて、あっという間だと思ってた。
それなのにこの公園に来るのは、
3ヶ月ぶりのような気がする……。
公園は桜の花びらで埋め尽くされ、
まるで桜の絨毯のようだった。
僕は2つ並んだブランコに歩み寄り、
そしてその間に変わらず置かれていたシャベルに
手を伸ばす。
シャベルには桜の花びらが積もっていて、
持ち上げると花びらは宙を舞うように
地に落ちていった。
僕はシャベルのあった場所を掘り返す。
すると、見覚えのある缶の箱が
その姿を現した。
──タイムカプセルだ。
蓋を開けると、
中には手紙と共に、僕が君にあげたしおりと絵、
しだれ桜の花たち、
そして僕があの時あげたペンダントが入っていた。
僕は手紙を手に取り、封を開ける──……
『 翼へ
私の名前は櫻井 美琴。
今まで黙っててごめんね。
──私が櫻井 美琴として翼に会えるのは、
4月1日が最後だと思う。
私、がんだったんだ。
余命宣告までされちゃってね、
1ヶ月もないって言われちゃったの。
──でも私、死んでもいいって思った。
私のお母さんもね、同じ病気で死んじゃって、
先に天国に行っちゃったの。
だから、ママに会える…。
それなら死んでもいいって思ってた。
でも翼に会ってから、楽しいって…
もっと生きたいって思えた。
もっと、翼と… 一緒にいたいって……。
それで私…神様にお願いしたの。
もうちょっとだけ、この世にいさせて下さい
って。
そしたら、余命宣告の1ヶ月を過ぎても生きて、
翼に会うことができたの。
でも…31日にね、神様…なのかな…
声が聞こえたんだ。
……明日が最後だって。
だから思う存分楽しみなさいって……。
ごめんね。
翼ともっと一緒にいたかったけど、
ムリみたい……。
だから、この手紙に私の想いを託すね。
──来世でも会おうね。
約束だよ……?
その時は私、健康な身体で
ずっと翼のそばにいるよ。
だから来世では、
いい思い出をたくさんつくろうね。
それとね、もう一つ翼に伝えたいことが
あるんだ。
──翼──
──大好きだよ──……。
翼の彼女になりたかった……。
一緒に過ごせて、
すごく楽しかったよ。
───ありがとう───……
美琴 』
この手紙を書いた時、
きっと美琴は泣いていたのだろう。
ボールペンで書かれた『ありがとう』という文字が、涙で滲んでいた。
手紙を読み終わった僕の目にも、
涙が溢れていた。
──なんだ……。
あの時の君の言葉は、そういう意味だったのか…。
僕は何気に、しだれ桜のもう一つの
花言葉を思い出した。
それは──
──〖ごまかし〗──……。
「本当…しだれ桜に似てるよ……君は……。」
そう言いながら、僕は満開のしだれ桜を見上げる。
そして呟いた。
「──僕もだよ……。
──美琴──……。」
******
櫻雲学園には桜並木がある。
ソメヨシノが連なる中に、最後の対になっている桜だけは、
しだれ桜だった。
桜並木を通り抜け、
下駄箱へと向かおうとした時───
『──入学おめでとう──
──翼──……。』
そんな声が聞こえた気がした。
そう……君の声が──……。
僕は振り返る。
──僕等は来世でも、きっと会えるよ。
その時僕は、この身を君に捧げよう。
僕は───
───君を守る。
そのためだけに生きよう──……




