君との別れ ──最後の日──
君の親父さんから聞いた話は、
あまりにも衝撃的なものだった。
でもその話のおかげで、
君を知ることができた。
なぜ星空を見上げていたのか。
そして、僕らが初めてあったあの日、
君が言った言葉の意味。
君の病気のこと……。
〖櫻井 美琴〗という君の名前───……。
ただ一つ、僕にはまだ疑問が残っていた。
なぜ、君は僕に名前を教えてくれなかったのか、
ということ。
「あの…もう一つ聞いてもいいですか…?」
「なんだい?」
「娘さんはどうして僕に、その……
名前を教えてくれなかったんですか……?」
「あぁ…そのこと…。
きっと美琴は、
君に名前を呼んでほしくなかったんだと思う。」
「なぜ──」
「──この世を去るのが…
君に会えなくなるのが、
一層つらくなるからだと思う。
ただでさえ、美琴は君と出会ってから
死ぬことを恐れるようになった。
親友である君に名前を呼ばれれば、
この世を離れたくないと強く思うだろうよ。」
「………………」
……──バカだ……僕は……。
──傷ついてる──……。
……親父さんの──
──〖親友〗という言葉に……。
「───〖親友〗……ですか……。」
「あぁ。美琴が言ってたんだよ。
翼くんは優しい人だって。
自分の中では親友──
──大切な人だと……。
誇りに思っていたよ。
──君に出会えたことを。」
「──そう……ですか…。」
その時、手術室のドアが開き、
中から医師が出てきた。
僕と親父さんは立ち上がり、
医師のもとに駆け寄る。
「──先生っ!!娘は…娘はっ…!?」
そう問う親父さんに、医師は──
「──残念ながら──……」
そう言って、静かに首を横にふった。
手術室から出てきた君は、別の部屋のベッドに
移される。
ベッドに横たわる君は、
まるで眠っているかのようだった。
「……──美琴……?」
君の名前を呼んでみるが、君は目を覚まさない。
僕は何度も何度も君の名前を呼んだ。
──さっき知ったばかりの君の名を。
──今まで呼ぶことができなかった君の名を。
──大切な君の名を──……
「……守ってあげられなくて……ごめん……。
約束……果たせなくて──……。」
涙がとめどなく流れ落ち、
僕の頬を濡らしていく。
僕は涙を拭い、ぼやける視界をはっきりさせる。
その時、君の閉じられた目から流れる一粒の涙が、
日の光に反射して輝いた。
「───来世でまた会おう……美琴……。
その時は、僕が絶対に守る──……。」
そう言った僕の目には、
君が笑っているように見えた──……。




