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名前も知らない君に僕は恋をした  作者: 桐生桜嘉
君と過ごした日々 
10/13

君を知る ──君の過去──

娘の名前は〖櫻井さくらい 美琴みこと〗。

15歳でもうすぐ高校生になる。

美琴は、相手のことを考えて行動し、

誰かが困っていたらすぐに助けてやる。

そんな優しい性格の持ち主であり、

そしてどんなときも明るくて

いつも私や妻を笑顔にしてくれた。


毎日が幸せに満ちていたよ。



──しかしある日、私たちにとって

 つらい出来事が起きた。


私の妻、つまり美琴の母親が───



 ───死んだんだ。



胃がんだった。スキルス性胃がんっていうね。

見つかった時は、もう末期の状態だったんだ…。


──余命は…3ヶ月だと宣告された。


美琴は治ると信じてた。

…というより、治ることを願っていた。


しかしその願いも届かず、妻はこの世を去った。

──苦しみながら──……。

それが、ちょうど今から1ヶ月前のことだ。


娘は悲しむ素振りを一切見せなかった。

たぶん私のことを思ってのことだったんだろう。

美琴は優しすぎるからな…。


でも美琴が、自分の部屋で静かに泣いている声が

毎晩聞こえてきた。


美琴には兄弟がいないんだ。

ただじっと、自分自身の中にその悲しみを

一人で抱え込まなきゃならなかった…。



───そしてある日。



……美琴が倒れた。

 

救急車に運ばれ、ついた病院は

ここ〖国桜病院〗。


最初はストレスによるものだと思った。



…でも違った。



医師に告げられた病名は───



───〖スキルス性胃がん〗…。



末期の状態で見つかった。


母親と同じ状態で見つかったんだ。


ただ一つ違うところが、

残された日々だった。


美琴に残された日々は──



───1ヶ月もなかった……。



医師から『助かる確率は低い』と言われた。

それほど進行してしまっていたんだ。


私は、娘の苦しむ姿を見たくなかった。

美琴に、つらい思いをさせたくなかった。

母親のように、苦しみながら死なせるのは

嫌だったんだ。


だから私は、鎮痛剤で痛みを抑えるだけ

という方法をとった。


その日から美琴の、家でのターミナルケアが

始まった。


医療スタッフやカウンセラー、ケースワーカーの

人が、毎日のように家にやってきた。


美琴は常に笑顔だったが、

痛みが彼女を襲い、顔を歪ませることも

少なくはなかった。


そしてその日から、

美琴は星空を見上げるようになった。

きっと、母親を思い浮かべていたのだろう。

美琴は星空を見上げながら、

笑うこともあれば泣いている時もあった。


──ある時、美琴が星空を見上げて呟いた言葉を

私は耳にした。


それは──



──『もうすぐで会えるよ……ママ……。』



そんな言葉だった。


恐怖というものを少しも感じない、穏やかな声だった。

美琴は、自分の死を受け入れていたんだ……。




───そして3月25日。


そう、美琴が翼くんに出会った日のことだ。


……医師から『残り3日の命だ』と言われた。


その日の夜、9時ぐらいになって美琴がいきなり、

『外に出てくる』と言ったんだ。

『一人にしてほしい』と言われ、私はついていかなかった。


しかしその日を境にして美琴は変わった。

君と出会ってから、美琴は変わったんだ。


心から笑うようになった。

それに、痛みが美琴の身体を襲うことが

少なくなったんだ。


そして──



──3日の時が過ぎても


 ──その命の灯火が消えることはなかった…。



君は美琴に、生きる希望を与えたんだ。

生きたい、という強い思いをくれたんだよ──


   

   ───翼くん──……




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