君を知る ──君の過去──
娘の名前は〖櫻井 美琴〗。
15歳でもうすぐ高校生になる。
美琴は、相手のことを考えて行動し、
誰かが困っていたらすぐに助けてやる。
そんな優しい性格の持ち主であり、
そしてどんなときも明るくて
いつも私や妻を笑顔にしてくれた。
毎日が幸せに満ちていたよ。
──しかしある日、私たちにとって
つらい出来事が起きた。
私の妻、つまり美琴の母親が───
───死んだんだ。
胃がんだった。スキルス性胃がんっていうね。
見つかった時は、もう末期の状態だったんだ…。
──余命は…3ヶ月だと宣告された。
美琴は治ると信じてた。
…というより、治ることを願っていた。
しかしその願いも届かず、妻はこの世を去った。
──苦しみながら──……。
それが、ちょうど今から1ヶ月前のことだ。
娘は悲しむ素振りを一切見せなかった。
たぶん私のことを思ってのことだったんだろう。
美琴は優しすぎるからな…。
でも美琴が、自分の部屋で静かに泣いている声が
毎晩聞こえてきた。
美琴には兄弟がいないんだ。
ただじっと、自分自身の中にその悲しみを
一人で抱え込まなきゃならなかった…。
───そしてある日。
……美琴が倒れた。
救急車に運ばれ、ついた病院は
ここ〖国桜病院〗。
最初はストレスによるものだと思った。
…でも違った。
医師に告げられた病名は───
───〖スキルス性胃がん〗…。
末期の状態で見つかった。
母親と同じ状態で見つかったんだ。
ただ一つ違うところが、
残された日々だった。
美琴に残された日々は──
───1ヶ月もなかった……。
医師から『助かる確率は低い』と言われた。
それほど進行してしまっていたんだ。
私は、娘の苦しむ姿を見たくなかった。
美琴に、つらい思いをさせたくなかった。
母親のように、苦しみながら死なせるのは
嫌だったんだ。
だから私は、鎮痛剤で痛みを抑えるだけ
という方法をとった。
その日から美琴の、家でのターミナルケアが
始まった。
医療スタッフやカウンセラー、ケースワーカーの
人が、毎日のように家にやってきた。
美琴は常に笑顔だったが、
痛みが彼女を襲い、顔を歪ませることも
少なくはなかった。
そしてその日から、
美琴は星空を見上げるようになった。
きっと、母親を思い浮かべていたのだろう。
美琴は星空を見上げながら、
笑うこともあれば泣いている時もあった。
──ある時、美琴が星空を見上げて呟いた言葉を
私は耳にした。
それは──
──『もうすぐで会えるよ……ママ……。』
そんな言葉だった。
恐怖というものを少しも感じない、穏やかな声だった。
美琴は、自分の死を受け入れていたんだ……。
───そして3月25日。
そう、美琴が翼くんに出会った日のことだ。
……医師から『残り3日の命だ』と言われた。
その日の夜、9時ぐらいになって美琴がいきなり、
『外に出てくる』と言ったんだ。
『一人にしてほしい』と言われ、私はついていかなかった。
しかしその日を境にして美琴は変わった。
君と出会ってから、美琴は変わったんだ。
心から笑うようになった。
それに、痛みが美琴の身体を襲うことが
少なくなったんだ。
そして──
──3日の時が過ぎても
──その命の灯火が消えることはなかった…。
君は美琴に、生きる希望を与えたんだ。
生きたい、という強い思いをくれたんだよ──
───翼くん──……




