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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第八章:彼女の選択(5)

 名を呼んでも、彼女からの返事はない。

 その行動を見ていたシャノンは冷ややかな笑みを浮かべて、ウィルを見下ろした。

「何をしているのかしら。そんなことしたって無駄だって、あなただって分かってるでしょうに。……もっと頭がいい人だと思ってたのに、残念だわ」

 シャノンはそう言って目を細める。

「さて。私たちもいつまでもあなた達に関わっている時間はないのよ。これが終わったら報告書をあげなきゃならないし、星祭にも行きたいし。その小さい子だって、限界でしょう? もう、打つ手なし。……さよならね。さあ、ソフィアさん。とどめよ!」

 シャノンは視線をウィル達に向けたまま、そう命令を下す。ウィルが小さく舌打ちをした。退避を告げようとして――気付く。ユートの詠唱が止まっている。

「……。はい……」

 俯いたまま、ソフィアが小さく頷いた。その表情は影に隠れていて、ウィル達からも確認は出来ない。

 ソフィアが、ゆっくりと手を上げる。そして、その唇が呪文を紡いだ。

「……空と大地を吹きゆく風よ。――……爆ぜよ!」

 古代術ではない詠唱に、シャノンがはっとソフィアを振り返る。ソフィアは顔を上げると、右手をかざした。――シャノン達に向かって。

「そんな!? 魔術が!?」

「エアロ・ボム!!」

 シャノンが驚愕の声を上げたのと、ソフィアが魔力を解き放ったのはほぼ同時。

「「きゃあああっ!!」」

「うわああっ!!」

「はわわわっ!?」

 魔術の発動とともに聞こえた悲鳴は、何故かよっつあった。

 ソフィアの放った魔術はそれほど威力の高いものではない。

 しかし、あるはずがないと思っていた方向からの攻撃に、天使達は対応出来なかった。シャノン達のすぐ近くで爆ぜた風をまともにくらい、天使達はその場から吹き飛ばされ、近くの木に衝突した。そして、何故か術者のソフィアもバランスを崩してウィル達の方に飛んでくる。

「……って、何でお前まで吹き飛んでんだよ!? 翼が戻ったなら魔力コントロール出来るはずだろが!」

 言うべきことは別にあるような気がしないでもないが、反射的にウィルの口をついで出たのはそんな突っ込みだった。もしかしたら、いつものソフィアが戻ってきたと感じたから、普段と変わらない言葉を口にしたのかもしれない。

「そのはずなんですけど……。翼がある状態が久々すぎて、感覚が掴めません~」

「ノーコンはデフォかっ!?」

「そんなことは! ない、はずです。……たぶん」

 ソフィアの声がどんどんと小さく、自信なさげになっていっているのは、気のせいではない。

 さっきまでは、ちゃんと魔力コントロールが出来ていた、という突っ込みをウィルは胸の奥にしまいこんだ。

 それは、さすがにソフィアに酷だろう。心が封じられていたとはいえ、彼女がウィル達を攻撃したという事実を突きつけるものだから。

 ふと、心を封じられ、無心というか何も考えていない状況だったからこそ、魔力のコントロールが出来ていたのかもしれないなどと思ったが、それも口にすることはなかった。

「く……」

 シャノンの呻き声に、ウィルは目を細めてそちらを見やった。

 木に引っかかった状態だったシャノンが身を起こしている。ステラは気を失っているのか、起き上がる気配はない。サイラスは意識はあるようだが、小さく咳き込み動こうとはしなかった。

 ソフィアの放った魔術自体はたいした威力はなかったが、木にぶつかった衝撃と、何よりもソフィアが古代術を打ち破り心を取り戻したという事実が、彼女達にダメージを与えているようだった。

「そんな……そんなはずないわ。術が破られるなんて……。魔族! あんた、何をしたの!?」

 ヒステリックに叫ぶシャノンに、ユートはふうっと額の汗を拭うと、へらりと曖昧な笑みを浮かべた。

「べっつに~? あえて言うなら愛を届けただけ? いやぁ、らぶパワーすっごいわ~」

「ば、馬鹿にしてっ! これだから、魔族は嫌なのよ!」

 シャノンが怒気を露わにすると、ユートは肩を竦めた。その動作がさらにシャノンの怒りを買う。その間に、ソフィアはウィル達の前にふわりと移動した。

「……何をしてるの? ソフィアさん」

 固い声音で、シャノンが問いかけてくる。ソフィアが顔を上げた。

「……させませんよ、シャノンさん。この方達は殺させません。絶対に」

 落ち着いた、けれど強い意思を感じさせる声が、はっきりと言い放つ。ウィル達を庇うように宙を舞うソフィアの姿に、シャノンは思い切り顔をしかめた。

「何を言ってるの!? あなたにだって見えているでしょう!? 彼らの命はここで終わりなのよ! 彼らの運命はここでの死を示しているんだから!」

 シャノンの言葉に、ウィルは目を細め、その横でティアが息をつく。リアとリュカが顔を見合わせた。ユートだけがいつもどおりの曖昧な表情を浮かべたまま、シャノンを見ている。

「それは、私が曲げてしまった運命です! それまでの、この方達の運命はここで潰えるものではなかったはずです! ……そうでなくとも、ここは譲れません」

 まっすぐなソフィアの声音と言葉に、シャノンは戸惑いと動揺の表情を浮かべたのだった。

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