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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第八章:彼女の選択(3)

 リアの渾身の呼びかけに応え、ウィル達を囲むように四体の精霊が出現した。北に水の精霊・ウンディーネ。東に土の精霊・ノーム。西に風の精霊・シルフ。そして南に火の精霊・サラマンダー。

 四大元素を統べる精霊には、それぞれ最大限に、そして安定してその力を発揮できる方位がある。それぞれが在るべき方位に配された時、そこには安定した力の流れが生まれ、秩序が生まれるのだという。

 ウィルはその安定した力の発現を目の当たりにしていた。

 四体の精霊の身体が強く光を放った瞬間、力が巡りウィル達を包み込むのが魔力のないウィルにも感じられた。

 四大精霊の築いた光の膜に、ソフィアが放った光の雨が降り注ぐ。だが、織り成された光の膜はびくともしなかった。

 昨日、ユートが発動させた防御魔術よりも強い守りに、リュカがうわぁ、と感嘆の声を上げる。

「す……凄い! 凄いよ、リア!!」

「物凄い防御術だな」

 ティアも目を見張って周囲を見回しながら呟く。

 その言葉にリアは小さく笑うが、言葉は発しなかった。その頬に一筋の汗が落ち、ぽちを抱きしめる片手に力がこもる。結界の維持でそれどころではないのだろう。

 そもそも召喚術自体が高度な術なのだ。その中では一番難易度の低い精霊召喚であるとはいえ、四大精霊を同時に召喚してその力を同時に行使しているのだ。召喚者であるリアの消耗と負担はかなりのものだろう。

「……四大精霊によって安定した力と秩序の場を生み出し、不安定な力を拒絶するってところね。召喚術は初めて見たわ。やるじゃない、そこの小さな子。でも……長くは保たないんじゃないかしら?」

 シャノンが驚きに目を見張りつつも、余裕を残してそう言う。

 小さい子、という言葉にリアとその言葉に過剰反応気味なリュカのこめかみが同時に引きつったが、それどころではないとどちらも無言を通した。

 何となくそんなリアとリュカの様子を視界の端に入れつつも、ウィルは内心舌を打つ。

 確かに、シャノンの言うとおりだった。

 この防御術は威力が高いようだが、それだけリアの負担も大きいはずだ。ソフィアが使用したこの術を防ぎきることは可能だろうが、その後に攻撃がきたとしてもリアの消耗具合を考えれば、同じ術での防御は難しいだろう。

 それくらいは、魔術に疎いウィルでも簡単に判断がつく。

 最後の時間稼ぎだ。この後には、撤退以外にもうとるべき手段はない。

 それでも少しでも時間を、と願ってしまう自分は諦めが悪いのだろう。先程覚悟を決めたくせに、手があると分かればそれに縋りたくなってしまう。

 だが、どれだけ願っても、ウィルは最後の判断を誤るわけにはいかなかった。右手を強く握り締める。手のひらに感じる痛みが、彼の冷静さを繋ぎとめてくれる。

「……っ!」

「むう……」

 リアが小さく息を呑む気配がした。結界の維持が相当に苦しいのだろう。だが、リアは泣き言も苦悶の声も漏らさなかった。そんなリアをぽちが心配そうに見上げている。

「……御大」

 同時に、極限まで押し殺したユートの声に、ウィルは視線を動かさずに、小声で応じる。シャノンにユートとの会話を勘付かれたくはなかった。

「……どうした?」

「手応え的にはもちょっとって感じ。ただ、後ひと押し足りない感じなんだよねぇ」

「ひ、ひと押しって……」

「一体どうすれば……」

 リュカとティアが同時に唸る。

 ユートが使っているのは、どちらかといえば精神に作用する魔術らしい。上位術である古代術の解呪は現存の魔術では難しいため、ソフィアの魔力に同調し、精神に語りかけ、彼女の心を揺り起こすのだそうだ。

 最後の最後、術を解くのはソフィア自身ということになる。

 ユートの言葉通りなら、ソフィアとユートの魔力の同調は出来ている。手応えがあるということは、精神への語りかけも出来ているのだろう。けれど、ソフィアは依然として人形のような、空虚な眼差しのままだ。

 それだけ、ソフィアにかけられた術の効力が高いのか、それとも――……。

 ユートの額にうっすらと滲む汗に、ウィルは切迫感を覚える。

 光の雨が止んだ。同時に光の膜も消失し、リアが大きく息を吐く。ぐらりと傾いたリアの身体を、ティアが支えた。

「リア!」

「むう!」

「……だい、じょぶ」

 時間が、ない。

 ウィルは小さく舌打ちして、弾かれたようにソフィアを仰ぎ見た。

「……っ! いつまで、そこで突っ立ってるつもりだ!? ソフィア! 行くぞ! ぼけっとしてんな!!」

 ソフィアの意思を聞きたくて、彼女がここに残る選択をしても構わないと思っていたはずなのに、行くぞだなんて矛盾している。

 心の片隅で冷静な自分がそんな突っ込みを入れていたりもするが、どれだけ理論武装したところで、これが本心に違いない。

 何も考えず、反射的に叫んだその言葉にいつか同じ台詞を言ったかのような既視感に襲われながら。

 ウィルは、その名前を呼んでいた。

「応えろ! ソフィア!!」

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