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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第二章:めぐり逢う世界(1)

「わぁ、いい天気です! 旅日和ですよ、ウィルさん!」

 ホテルから出たソフィアが気持ちよさそうに伸びをした。つられてウィルも空を見上げる。確かに、真っ青な空が視界いっぱいに広がっている。

「まずは買い物、ですねっ」

 どこかそわそわと落ち着きのないソフィアを、ウィルは半眼で見た。

「そうだけど……。店の中で迷子になるなよ」

 あまりの落ち着きのなさについ口を出た忠告だったが、ソフィアには不満だったらしい。むっとしたように眉を寄せる。

「ひどいです、ウィルさん! 私を何歳だと思ってるんですか!」

 ウィルはソフィアを見て首を傾げた。

「……何歳なんだ?」

 訊かれたソフィアも困ったように首を傾げる。

「ええと……何歳でしょう? じゅ、十六? 十七、くらい? ……って女性に年齢訊くなんて失礼ですよ!」

「お前が先に訊いたんだろ」

「うう、そうでした。……ちなみにウィルさんのおいくつ何ですか?」

「十九」

 短い返答に、何故かソフィアが落ち込んだ。何か色々と思うところがあるらしい。何事か小さく呟いており、微かに内容が聞こえてくる。

「……三年。あと三年で……こんな落ち着いた人になれるんでしょうか……?」

 無理っぽいなと思ったが、顔にも声にも出さずにウィルは別のことを口にする。

「なーにぶつぶつ言ってんだ。行くぞ!」

「……はーい」

 ちなみにこの後入った百貨店でソフィアが案の定迷子になりかけ、ウィルに叱られたというのはまた別の話だ。


◇ ◇ ◇


 レフェルトを出た先に広がる、草原の海。

「うわぁぁ~」

 感嘆の声を上げるソフィアの横で、ウィルも息を呑んでいた。

 外交でこの国を訪れたことはあったが、当然の如く乗り物の窓越しにしか景色を見ることはなかった。国も何も関係なく訪れたテーゼルはひどく広くて自由だと感じる。

「何だかうきうきしますっ」

「……気を抜くなよ。魔物だって出るんだからな」

「はい! 分かってますっ」

 ソフィアはレフェルトで買った杖を抱えなおして頷いた。微かに頬が紅潮しているのは気分が高揚しているせいだろう。

「ミルネスまではどれくらいかかりそうなんですか?」

「レフェルトとはそんなに離れてないはずだ。遅くとも夕方には着くだろ」

 そうですかと頷き、ウィルの横を歩いていたソフィアが、いきなり足を止めた。

「……ソフィア?」

 その表情が緊張を帯びているのを見て取ったウィルも、足を止めホルスターの銃に手を伸ばす。

 同時に殺気が走った。

 ウィルたちの前に飛び出してきたのは、ガジェストールで遭遇したものよりも一回り小さいタイプの狼型の魔物だ。その数、十匹。この魔物は常に群れで動くのだ。

「……多いなっ」

 ウィルは小さく舌打ちをした。射撃の腕はそこそこだとは思うのだが、何しろ数が数だ。これだけの数を対応できるとは言いがたい。

 はっきり言えばウィルはそれほど強いわけではない。元々インドア派で体力は皆無だし、体術もからきしだ。射撃の腕も、他の戦闘術が護身術レベルにすらならないことを自覚しており、せめて自身の身くらいは守れるようにと鍛えたからに他ならない。おかげで、動体視力と瞬発力は上がったが。

「ソフィア、魔術! ……今度は外すなよ」

「は、はい!」

 ソフィアの返事と同時にウィルは三度トリガーを引き、魔物の足を狙撃した。足止めと威嚇だ。ソフィアが呪文の詠唱を開始する。

「重力の楔よ、彼の者たちを戒め裁きの鉄槌を下せ! グラヴィティ!」

 魔力が放たれる。魔物たちは重力に押さえつけられ、身動きひとつ取ることができない。やがて重力の檻の圧力に負け、押しつぶされた。

「わぁい、やりました~!」

「っっっやりました~じゃねぇぇぇぇっ!」

 喜ぶソフィアの額に電光石火の速さででこピンがとんだ。

「ひゃっ!?」

「てめー俺の足元見てみろっ!」

「え? ……あ」

 確かにソフィアの魔術は魔物たちを全滅させていた。そしてその魔術が展開したのは、ウィルのつま先から五センチ前方でのことだった。その証拠に、ウィルの少し前方の地面が五センチほど陥没している。

「俺の鼻先で魔術を展開させるなぁぁぁっ! って言うか何なんだお前っ! 感電死の次は圧死か!? お前暗殺者か!?」

「ご、ごごごごごごめんなさいぃっ!」

 王子にあるまじき険しい形相をするウィルに、ソフィアは既に涙目だ。

「わ、わざとじゃないんですっ! ……ただ、あの……昨日から薄々感じていたんですが……魔力のコントロールが出来ないみたいで……」

 ソフィアのあまりにもあまちな告白に、ウィルが半眼で呟く。

「うわ……役に立たねー……」

「うう……た、確かに……」

 ウィルの言葉に自身も納得してしまったらしく、落ち込むソフィア。

 ウィルは疲れたため息をついた。

 魔物よりも味方の方が恐ろしい気がするのは、悲しいことに気のせいではない。

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