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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第六章:帰る場所(15)

 嘘で誤魔化す気にはなれなかった。何となくではあるが、この男に嘘は通じない気がする。ならば正面からぶつかったほうがましだ。

 ユートの問いに、ウィルは肩をすくめつつ、そんな事を思う。

 身分の違い、記憶がないことへの不安。推測ならば色々と立つが、どれが真実かなどウィルに分かるはずがない。

「分かるわけねーだろ、そんなの。……まあ、一線引かれてはいるようには感じる時があるけど」

 ソフィアの思いがどういった種類のものであれ、嫌われているとは思わない。けれど、どこか踏み込まないようにしているように感じているのは事実だ。

 ガジェストールに戻って以来それを強く感じるのは、ウィルが自分の気持ちに気付いたからか。

「でも、まあ分かったところでどうするわけでもないけど」

 その言葉に、ユートが面白がるような笑みを浮かべる。

「え? どうもしないの? 何で~? 好きになってほしくないの?」

 ウィルは息を吐いた。

「……なって欲しいか欲しくないかで言えば、欲しいんだろうけどな」

「わお、めっちゃ他人事!」

「……俺は、母上の状態を見てるからな。……ガジェストールの王子としては、好きになってほしくない」

 冷静な物言いに、ユートは片眉をぴくんと上げた。

「んん? どーゆーこと?」

「……この国って父上が王位に就く前は身分差別と貧富の差が激しかったんだよ。そこに平民出身の王妃だぞ? 身分至上主義の奴らの母上へのあたりは酷かった。……ああ、俺や兄上に陰口叩く奴もいたな。子供だから理解できてねえって思ってたみたいだけど」

 冷めた笑みを見せるウィルに、ユートはふうんと目を細める。

「そーいや、御大のとーちゃんは色んな改革を成し遂げた賢王ってことで有名だっけねぇ。平民の地位向上に尽くしたんだっけ? うわ、嫌われてそ~……今もいるの? 身分至上主義なひと」

「いるな。力があるから、完全には排除できてない。少しづつ、力を削いでいるところだ。……あとは、兄上の王位就任のタイミングでどうするか、だな」

 あっさりと内部事情を暴露するウィルに、ユートは目を丸くする。

「あっら~、だいぶ込み入った内部事情聞いちゃったわ! 大丈夫なの?」

「……盗聴対策なら、ここは万全。ユート、お前ここで聞いたことは忘れろよ?」

 にやりと危険な笑みを浮かべるウィルに、ユートはわざとらしく身を震わせた。

「おお怖い。りょうかーい。……まあ、俺様の愛は御大に向いてるから安心してよ。どこぞの貴族のおっさんなんて知らないし~」

「……何か、逆に不安だ。愛はいらねえ」

「え~? 俺様の愛は無償よ? 安くしとくよ?」

「無償なのに安くしとくっておかしいだろ!」

 律儀に突っ込んでから、ウィルは小さく息をつく。

「まあ、ともかく! ……この国の民だった母上だって相当苦労したんだぞ?」

「あー。まあ、身分大好きな人達から見たら、お姫なんてどこの馬の骨とも知れない奴! ……みたいな?」

 ウィルは不快そうに眉をしかめながらも、頷く。

「そういうことだ。……覚悟があったって相当きつい。それに、王族の一員になれば責任も色々負うことになるな。……安易に選べる道じゃない」

 傍にいて欲しいと願う自分がいる。そして、それと同じくらい、この道を避けて欲しいと思っている自分がいるのだ。それは矛盾した思いだけれど。

 だから、気持ちを伝える意思はない。例えソフィアの記憶が戻っても、自分から積極的に行動を起こすことはないだろうと思う。

「……タイムリミットもあるし」

 ウィルの小さな呟きを、ユートは聞き逃さなかった。

「タイムリミット? 何それ?」

 それに答えるウィルの口調は、若干うんざりとしていた。

「何か、うちの家族恋愛結婚推進派なんだよな」

「……あー」

「普通なら俺くらいの年齢なら許婚がいてもおかしくないんだが、そんな事情でそれもなし。……けど、そんな内輪の事情、諸外国に通じる訳がないからな。何とか誤魔化して二十歳になるまで待たせてる現状だ」

 実際のところ、公式でないだけで内々ならば、何度か見合い話も持ちかけられていたりする。

 その言葉に、ユートは頭をぼりぼりと掻く。

「……つまり、二十歳過ぎれば強制的に誰かとお見合いして、そのままゴールインってこともありえるってこと?」

 ウィルはあっさりと頷く。

「そういうわけだ」

 そして、二十歳になる日はそんなに遠いわけではないのだ。

「……御大って、不毛な恋ばっかりだね~!」

「うっせぇ! 明るい声でにこやかに言うな!!」

 王族として色々と覚悟は決めているものの、そんな風に言われるとさすがに悲しくなってくる。

「……じゃあ、そんな御大に俺様とっておきの情報をあげちゃう!」

「は?」

「お姫の記憶を封じている指輪。……あれ、かかってる魔術、ひとつだけじゃないよ」

 さらりと述べられた言葉に、ウィルは顔をしかめた。

「……どういうことだ?」

「そのまんまの意味。あの指輪から、二種類の魔力を感じるんだよね~」

 そう言ってユートはびっと指を二本立てた。

「ひとつめは、記憶の忘却術」

「……もうひとつは?」

 真剣な声音で尋ねるウィルに、ユートはへらりと笑った。

「さあ? 俺様、古代術苦手だし~。……でもね」

 ユートはすっと目を細める。そこに宿る、今まで見たことのない鋭さに、ウィルは微かに息を呑んだ。

「お姫が魔力のコントロールが出来ないのは、指輪のせいな気がするんだよね~。何かが邪魔してる……ような、そうでもないような?」

 すぐにいつもの調子に戻るユートに、ウィルは疲れたように肩を落とした。

「……どっちだよ。……まあ、分かった。気にかけとく」

 ウィルの返答に、ユートはへらりと曖昧な笑みを浮かべた。

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