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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第六章:帰る場所(3)

 城門を抜ければ、さすがに警備の兵士がいない、ということはない。

「ウィリアム殿下! お帰りなさいませ」

 城門を潜るなり、変装道具一式を外しまとう空気さえ変化させたウィルに、城門の先を警備していた兵士が、ぴっと敬礼をし迎え入れる。兵士の視線が一瞬だけソフィア達を見た。

「……殿下。その方々は」

「私の知人だ」

「はっ。失礼致しました!」

「構わない。……それが仕事だろう。しっかり勤めてくれ」

 微かな笑みと共に労われた兵士は、感極まった様子で、再度ウィルに向かって敬礼する。

 しばらく歩いたところで、さすがに圧倒されたらしいティアが、ぽつりと呟いた。

「……すごいな」

 その言葉にリュカがこくこくと頷き、リアがちらりとウィルに視線を送る。

「……王子様なんだって、実感するねぇ」

「確かにね~。さっきの兵士なんてなーんかきらきらしちゃってるし……御大ってば罪作り~」

「誰がだっ!」

 ユートにいつもよりも小声で、ウィルが返す。ウィルの少し後ろを歩きながら、ソフィアがぐるりと辺りを見回した。

「でも、みなさんウィルさんのこと見てらっしゃいますよ。ウィルさん大人気なんですね~」

「……違うだろ」

 ソフィアのずれた発言に、ウィルは小さく肩を落とした。王位継承権第二位とはいえ、ウィルは王子なのだ。姿を消していた王子が一般人を引き連れて帰還したとなれば、注目を集めないわけがない。

 ふと、ティアが視線を右に動かした。同時に、早足でウィル達に向かってくる足音が聞こえる。

「ウィリアム様!」

 そう言いながらウィル達に近付いてくるのは、中年の男性だ。

「うわ、セバスチャン」

 ウィルは小さく呟くと、表情を改める。「王子」の顔だ。

「……誰なんだ?」

 リュカの問いに、ウィルは視線はセバスチャンに向けたまま、早口で応じる。

「セバスチャン。兄貴付の執事」

「へぇ~。セバスチャンって名前の執事って本当にいるんだねぇ。俺様感動」

 随分とお手軽な感動だ。

「……全員、黙ってろよ」

 その言葉と同時に、セバスチャンがウィルの元に辿り着いた。

 セバスチャンは灰色の髪に口髭を蓄えた中年男性で、鼻の下に生えた髭の毛先は綺麗にカールしている。黒を基調とした、アイロンの効いた服に袖を通した男は、ウィリアムに深々と頭を下げた。

「まずは、無事のご帰還をお慶び申し上げます。お帰りなさいませ。お元気そうで、安心致しました」

「ああ。……いらぬ心配をかけたな。すまない」

「とんでもありません」

「ところで……急いでいたようだが、用件は?」

「はい。お疲れのところ大変申し訳ありませんが、アレクシス殿下がお呼びでございます。旅装のままで構わないのでお連れするように、と申し付かって参りました」

 ウィルは、微かに眉を上げた。

「兄上が? ……分かった」

 申し訳ありません、とセバスチャンは再度頭を下げる。

「それから……ご友人方もぜひお連れするように、と」

「「「えええ!?」」」

 予想外の展開に、ソフィア・リア・リュカの三人が声を上げる。

「え? ……私達も、ですか?」

「はい。そのように申し付かっております。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

「構わない。……兄上は執務室に?」

「はい」

 セバスチャンはようやく頭を上げると、一同を先導するように歩き出した。ウィルを先頭にソフィア達は黙って後についていく。

 途中でエレベーターに乗り、しばらく歩いた後。一同は大きな扉の前に辿り着いた。扉の両脇を兵士が固め、天井には監視カメラが回っている。兵士がウィルに向かって敬礼をする。

 セバスチャンはぴたりと足を止め、ウィル達の方を振り返ると、また頭を深く垂れる。

「申し訳ありません。これよりさき、武器の携帯はご遠慮いただいております」

 ウィルは既に、銃をホルスターごと外しセバスチャンに渡した。

「……私の部屋に転送しておいてくれ」

「かしこまりました」

 ウィルはちらりとソフィア達を振り返ると、視線だけで促してくる。

「えっと~……メイドちゃんにこれ渡すのはきっついよね~」

 一番初めに動いたのはユートだった。鞘ごと大剣を外し、近くの兵士に押し付ける。

「ほい。おっもいから気をつけてね~」

 いつもの軽い口調と共にユートが手を離すと、兵士が足元をふらつかせた。

 リュカとティアも、それぞれ装備していた剣や双剣を外して近くに控えていたメイドに渡す。リアは困ったようにぽちを見下ろすと、ぽちがむぅ~と鳴き声をあげ、手をぱたぱたっとさせた。兵士とメイドからざわめきが起こる。

「……あの。この子は一緒じゃ……だめですか?」

「……失礼ながら、預からせていただけませんでしょうか」

 セバスチャンの答えに、ウィルは内心そうだよなと頷く。兄の身辺に怪しい物を近づけさせないのも、執事の役目だ。武器を隠せそうなぬいぐるみの持込みを、セバスチャンが許可するわけがない。さらにぽちは鳴いたり動いたりするのだ。どう考えても怪しさ満点だ。

「……じゃあ、お願いします。……いじめないでね?」

 少し不安そうな顔で、リアはぽちをメイドに預けた。

 それを見届けたセバスチャンが、扉の横に設置されたパネルに手を触れ、パネル脇のマイクに話しかける。

「アレクシス殿下。ウィリアム殿下とそのご友人方をお連れしました」

「は~い。どうぞ~」

 どこか場違いな声がパネル脇のスピーカーから聞こえた。セバスチャンが、流麗な動作でパネルを操作し、そして。

 ウィル達の目の前の大きな扉が、音も立てずに開いた。

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