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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第五章:真実の行方(3)

 蜘蛛の目が妖しく輝く。その視線の先にいるのは、ウィルとリュカだ。再び突進してくる蜘蛛に、二人は同時に回れ右をして駆け出した。

「うっわぁぁぁぁ! こっち来たーーー!!」

「何とかしろよ、リュカ! その腰の剣は飾りかっ!?」

「あ、そうか!」

「剣士が剣を忘れるなーーっ!!」

「わー、だって僕、ああいう足がわしゃわしゃした奴、苦手なんだよーーっ!」

 言いながらも、リュカの手が剣の柄に伸び、銀色の光が走った。

 ちらりと後ろを振り返ったリュカが息を呑んだのが分かった。本当に苦手らしい。

「俺のレーザー銃じゃ大したダメージにならねーんだ、いいから行け! 百足じゃないだけましだろ!」

 自分で言っておいてそれはどうだろうと思ったが、リュカは納得したようだ。そうだよねと頷き、息を吸う。

「よ、よーし! 行くぞっ!!」

 駆ける勢いのまま、右足を軸に回転をかけ、そのまま蜘蛛に横薙ぎの剣を浴びせる、が。 がきんっという大きな金属音と共に、リュカが小さく呻いた。

「~~~っ。いったぁ~……」

 リュカに遅れて立ち止まったウィルは、冷めた目でリュカを見やった。

「……効いてねーぞ」

「だ、だって! こいつものすっごい硬い! そりゃ、光気は使ってなかったけど、僕の剣を弾くなんて~っ! あー、手が痺れる~」

 それでも、その攻撃で蜘蛛を一時停止させる程度の威力はあったようだ。センサーアイを動かし、標的を探すような仕草を見せる。

 センサーアイを破壊すべきかと一瞬考えたが、熱感知機能があった場合は厄介だ。相手が誰を狙っているのか分かりやすい分、この状態の方が戦いやすいかもしれない。

「――雪解けの水よ、冷たき流れよ。彼の者の頭上より、押し流せ!」

 ソフィアの詠唱に、ウィルとリュカは瞬時にその場から飛び退き、蜘蛛から距離をとる。離れていても危ない時は危ないのだが、気持ちの問題だ。

 ソフィアの使う魔術は、その詠唱から察するに水系の魔術のようだ。機械相手なので、基本的な弱点攻撃ではある。相手に耐水加工がされていなければ、だが。

「……ストリーム!」

 杖を掲げソフィアが魔術を放つと同時に、水の臭いがした。そして。

「ひ、ひゃぁぁ!?」

 大きな水音と共に頭から水を被ったのは、ソフィア一人だった。

「さ、さささ寒いです~っ!」

「……当たり前だ」

 両手で身体を抱え震えだすソフィアに、ウィルは項垂れた。周囲を壁に囲まれているとはいえ、こんな吹きさらしの崖の上で冷水を被ったなら寒いのは当然だ。放置しておけばまず間違いなく風邪をひく。

「……何してんだよ、お前は……」

 ソフィアが魔力をコントロール出来ていないことは承知していたはずだが、まさか自爆するとは思わなかった。それでも、他人を巻き込まないだけましなのかもしれない。

 そんなことを思った時だ。知らない男の笑い声が響いたのは。

「く、くくく……。もう耐えらんない……。面白いよ、君達! あっははは!」

「ど、どどどどちら様です?」

 寒さのあまり舌の根も噛み合わないソフィアが、周囲にある壁の一方向を見上げて首を傾げた。ウィル達もソフィアを習ってそちらに視線を向ける。すると、そこに大きな人影があった。

 リュカとティアが息を呑んだ気配に、ウィルは気を引き締める。ウィルやリアはともかく、相当の手練であるはずのこの二人もその存在を感知出来なかったのだ。相手も只者ではないだろう。

 男がへらりと笑った気配がした。逆光のせいで顔はよく見えない。

「おぉ!? 俺様、気配消してたのに~。よく気付いたねぇ。すごいすごい~」

 そう言って三メートル近い壁から身軽に降り立った男を見て、リアが一言感想を述べた。

「でかっ!」

 長身だと予想はついていたが、改めて同じ地面に立つと、それをますます痛感する。恐らく二メートル近くあるであろうその男の髪は銅色で長く、それを首の少し上辺りでで無造作に一つに括っている。褐色の瞳が面白そうにウィル達を見回した。

 背には一メートルほどの刀身の大剣を帯び、それを使うに相応しい程よく引き締まった筋肉に、精悍な顔立ちだ。しかし、男はその精悍さをどこに忘れてきたんだと突っ込みたくなるような、気の抜けた表情を浮かべた。

「よっ! 俺様、ユートレッドっていうの。ユートって呼んでね~」

 片手を上げての呑気な挨拶とともに、へらりと笑う。

「あ、どうも~」

「んな得体の知れない奴に頭下げんなっ!」

 会釈をするソフィアに、ウィルが叫ぶ。

「失礼だなぁ~。ちゃーんとユートで~すって名乗ったじゃ~ん」

「いい大人がじゃ~んとか言うな! 気色悪ぃ! ってか、名乗ったところで得体が知れねーのは変わらねーだろうがっ!!」

 ウィルの叫び声に紛れて、がちょんと機械音がした。ウィルは慌ててその場から飛び退く。すると真横を蜘蛛が通過していった。

「うお!? ……やっべ。忘れてた」

 あと少し気付くのが遅かったら、危なかった。敵を目の前に迂闊すぎるとは思うのだが、それでも目の前の得体の知れない男から目が離せない。あの機械は動きが数パターンしかないようなので、慣れてしまえば倒すことは造作もないだろう。しかし、このユートと名乗った男は。

 だが、ユートはウィルの警戒など気付いていないかのように軽い口調で言った。

「あ、俺様にお任せ~。倒すから」

「……あいつ、硬いよ?」

 リュカも警戒を解かないまま、ユートの大剣に視線をやり忠告する。けれど、ユートの気の抜けた笑みは変わらなかった。

「ふつーならね~。平気平気~」

 そして、ユートの口から紡がれた言葉に、全員の目が丸くなった。

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