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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第三章:心一つあるがまま(5)

「……私、は……」

 その後の言葉がどうしても続かず、ソフィアは口を噤んだ。

 ソフィアが決めるべきだというウィルの言葉は正しい。古代術を必要としているのは、ソフィアだけなのだから。ウィルもリアもそれに付き合ってくれているだけ。

 二人の身の安全を考えるならば、ここで引くべきだ。むざむざと命の危険に晒すわけにはいかない。

 この先に何があるかは分からないけれど、ソフィアの本能が危険だと警鐘を鳴らしている。分かっている、けれど。

「私は……」

 知りたい。自分が、何者なのか。

 心の底からそう思った。

 その為には、この指輪に刻まれた古代術を解除しなければならない。そしてこの奥に眠る力は、この古代術を解呪することが出来る力なのかもしれない。

 諦めたくない。可能性を捨てたくない。

 この可能性を掴み取るためならば、たとえ一人でも。どれほどの危険が待ち受けていようとも。

 顔を上げたソフィアの薄紫の瞳に、強い決意の炎が灯る。

「私は……知りたいです。この奥に眠る力が何なのかを」

 そして、自分自身のことを。

 ソフィアの出した結論に、ウィルが笑みを浮かべる。

 彼にしては珍しい、皮肉気な様子も苦笑でもない。満足そうな優しささえ感じる微笑。

 それを見た一瞬、ソフィアは自分の頭が真っ白になった気がした。だがそれは刹那のことで、ウィルの言葉にすぐに現実に引き戻される。

「分かった」

 仄かな笑みは一瞬で消すと真剣な顔つきで腰のホルスターから銃を抜くウィルの姿に、ソフィアは瞳を瞬いた。

「ウィルさん……」

 危険だということはソフィアの言葉から十分に伝わっているはずだ。それでも、ソフィアに決断を委ね意志を受け入れて、当然のように付き合ってくれる。

 危険な目にあわせたくない。これは紛うことなく本音で。

 けれど、一緒にいてくれる事、共に戦ってくれる事を嬉しく思うこの気持ちも本音なのだ。矛盾しているのは重々承知しているけれど。

 ソフィアは柔らかな笑みを浮かべると、リアを見た。

「リアさん。……この先は恐らく危険です。ですから、さがって……」

「じょーだんでしょっ」

 ソフィアの言葉をリアの高い声が遮る。

「ここまで来て、一人仲間はずれなんて嫌だからねっ! あたしも行くよ~!」

 リアの腕の中で、ぽちもむぅぅと鳴く。

「……リアさん」

 ソフィアの声にリアはウィンクで答え、扉に視線を移す。軽い調子の声とは裏腹に、リアの琥珀色の瞳は真剣だ。

 ソフィアはウィルとリアを順に見て、それから笑う。

 自分は本当に幸せ者だ。

「……ありがとうございます。ウィルさん、リアさん」

 一度だけ、目を閉じた。緊張に高鳴る鼓動を抑えるために深呼吸をする。気が落ち着いたところですくっと立ち上がり、扉に一歩近付いた。扉に着いたこの赤い宝石が、扉を封じる鍵の役割を果たしているものだ。

「リア……気を抜くなよ」

「分かってる……!」

 ウィルが視線でソフィアを促す。ソフィアは小さく頷いて、目を伏せ息を吸った。床に刻まれた呪文はすでにソフィアの頭の中にある。

 そして、ソフィアの口から朗々と紡がれるのは、古代の言葉で構成された呪文。

 耳慣れないその言葉は、不思議なアクセントがつけられ、まるで異国の唄のようだ。この唄がソフィアの記憶を取り戻すうたになるかどうかは、分からないけれど。

 ソフィアの澄んだ歌声に応じるように、扉を封じていた赤い宝石が光を帯びる。その光は徐々に強さを増し、そして。

 ぱきんという高い音を立てて砕けた。同時に、扉の中央に一筋の割れ目が生まれる。

 先程まで、触れてもびくともしなかった扉が重々しい音を立てて、開く。

 同時に三人に叩きつけられるのは、強い魔力と風の嵐。

 ソフィアは顔を腕で庇いながら、扉の奥に視線を凝らす。そして、その奥に封じられていた大きな力の正体に息を呑んだのだった。

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