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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第三章:心一つあるがまま(2)

 魔跡の内部の空気は乾いてはいたが清浄だった。微かに風の流れを感じるから、どこかに通風孔があるのかもしれない。もちろん、魔力に守られていることも理由のひとつではあるのだろう。

 魔跡内は思っていた以上に明るい。壁の石に暗闇で光る石が使われているためだ。普通に歩く分には懐中電灯は必要ない程の明るさである。

 通路は狭いため、三人は縦一列になって歩く。先頭は、もちろんウィルだ。基本ドジっ子のソフィアや、天真爛漫で何をしでかすかいまいち読めないリアを先頭に出すなど、自爆行為に他ならない。

「いいか? 壁には絶対に触るなよ。……どこに何が仕掛けてあるか分からねーんだからな」

 ウィルは後ろに忠告を投げかけて、床を懐中電灯で照らす。歩くには支障のない明るさだが、罠を発見するには暗すぎるのだ。

 照らされた先に見えるのは、一面の石畳。その中の石のひとつが、ほんの僅かではあるが他のものより浮いて見えた気がして、ウィルは足を止めた。

「ウィルちゃん?」

「黙ってろ」

 ウィルは膝を付いて、足元の石を見下ろす。間近でじっくりと見ると、やはり微かではあるが浮いている。それに他の石よりも若干色が濃い。ウィルはそのままの体勢で懐中電灯の光を壁に向けた。左右の壁に気をつけないと気付かないような細い溝が走っている。この浮いた石を踏むと両側の壁が迫ってくるという、魔跡にはよくあるタイプの罠だ。

 踏まなければ問題はない。問題はないのだが。

 ちらりと後ろの二人を見て、ウィルはため息をついた。

 解除しておいたほうが無難だろう。踏むなと言っている傍から踏みそうだ。どちらかががうっかりと石を踏んで壁が迫ってくる情景がありありと想像できる。

 気付いている罠に掛かって危機に陥るなんて、そんな間抜けな状態は嫌だ。

 さらに壁をよく見ると、床のスイッチと同じ色の石が右側の壁の溝の近くにあった。これもまた分かりにくいところにあるが、分かりやすいところにあっては、罠の意味がないだろう。

 ウィルは立ち上がって迷いなくその石をぐっと押し込んだ。がこんという音と共に石が壁にめり込み、カチンと軽い音が響く。

「なになに!? 罠発動!?」

 何故か楽しそうに言うリアを半眼で見て、ウィルは冷めた返答をする。

「んなミスするか。……解除音だ」

「本当? 凄いねぇ、ウィルちゃん。トレジャーハンター?」

「……そう見えるのか?」

「ううん。全っ然! インテリって感じ。肌白いし」

 若干偏見が入っている気がするが、ウィルがインドア派なことは事実なので、特に突っ込まないでおく。

「トレジャーハンターじゃないならなおさら凄いよ~。何で罠があるってわかったの?」

「本当ですよね。今もほとんど迷いなく罠を解除していましたし。……なんで分かるんですか?」

 ソフィアとリアの問いに、再び歩き始めながらウィルは応える。

「……こういう魔跡のトラップって大抵どこも似たようなものなんだよ。……まあ。地域とか時代とかで特色があったりもするが……基本は大体一緒だな。だから、知識があって応用が出来れば、この程度のトラップなら問題ない」

「「ほえ~……」」

 ソフィアとリアが同時に間の抜けた声を上げた。

「……すごーい」

「むぅ~」

「本当ですね。……あれ、でもこの程度のトラップ……ということは、これ以上の罠があるっていうことですか?」

 ウィルは前方に注意を向けたまま頷いた。

「そうだな。……なかには、魔力がないと破れない罠もあるし。……それに、魔跡には必ず設置されてる罠、というか侵入者対策があるんだよ」

「……それは?」

「侵入者が魔跡の奥に封じられているものに近付いたときに発動するヤツでな。そのものを守る役割を与えられた魔物とか機械とかが襲い掛かってくる。……キーワードを言うと敵と認識されなくなるらしいんだが……。キーワードは魔跡ごとに違うし、襲い掛かってくるヤツを相手にしつつキーワードを探せるわけがない。……つまり、解除不可能だ」

 解除不可能の言葉に、リアが息を呑んだ気配がした。

「……もしかして、ここにもいるの?」

「……恐らく、な。……だから気を抜くなって言ってる」

 背中越しに、ソフィアとリアの緊張感が増したのが、分かった。


◇ ◇ ◇


「? 何、これ?」

 奥に進むことしばし。頓狂な声を上げたのはリアだ。ウィルは呆れたような視線をリアに向けた。

「何って……見たまんまだろ」

「エレベーター? え? 何で? ここ古代遺跡でしょ? エレベーターって機械でしょ?」

 ウィルは目を閉じて額を押さえた。

「リア。……お前、何歳だ?」

「え? 十三」

「……十三にしてはちっさいな。……てか、遺跡と魔跡の違いに関しては初等教育の範囲だろう?」

 ガジェストールほどの教育制度が確立している国は少ないとはいえ、大抵の国が初等教育は義務付けられているはずだ。十三歳ならば、初等教育は終えているはずである。

「うるさいなー! ちっさいって言うなぁ! ……召喚術のお勉強の方が大事だったしっ! お勉強嫌いなのっ!」

「いばって言うことじゃねーよ」

 呆れたため息をついて、ウィルはソフィアに視線を送った。

「ソフィアは知ってるか?」

「あ、はい。基本的なことは。……古代文明は、魔術と機械が融合した文明だったんです」

「ん~? ……ガジェストールとクラフトシェイドが合体した感じ?」

 ソフィアが柔らかく微笑む。

「そうですね。いいたとえだと思います。……伝説では、古代文明はその行き過ぎた技術により神の怒りに触れ一夜にして滅んだといわれています。僅かに残った人々で北に逃げた人が機械の国を、南に逃げた人が魔法の国を、神に従った人が天に昇り、神に反した人が地底に堕ちたそうです。それぞれ、ガジェストール、クラフトシェイド、エアリアル、グランボトムの起源ですね」

「あ、だからフューズランド四大国って言うんだ~」

 感心したように言うリアに、ウィルは冷めた視線を投げかけた。本当に勉強が嫌いだったらしい。

「はい。……実際に何故滅びたのかは分かりませんが、古代文明が物凄い技術を持っていたのは事実です。……魔力で動く機械に、人工的に魔力を発生させる装置もあったらしいですから。そして、その文明の技術や強力な魔物や魔術を封じたのが魔跡。……つまり、ここです」

 ふうと息をつくソフィアに、リアは目を瞬かせた。

「すっごいソフィアちゃん。良く知ってるね~」

「だから一般常識だっての」

 ウィルは律儀に突っ込みながらエレベーターに近付いた。

「……で、これがソフィアの説明にあった、魔力で動く機械な」

 そう言いつつ、ソフィアを手招きして呼び寄せ、ボタンの脇のパネルを示す。

「ここに触れ。魔力があれば反応するはずだ」

「はい」

 ソフィアが手のひらを押し当てると、ウィルたちの声以外何の物音もなかった空間に、機械の低い起動音が響いた。

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