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記憶のうた  作者: 藍原ソラ
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第三章:心一つあるがまま(1)

「……凄い崖ですね。……これが、ロム山……」

「ウェード側一面が崖になってるんだな。魔跡があるのは……中腹の洞窟か。あんな位置にあるんじゃ、誰も手が出せないはずだよな」

 ロム山の標高はかなり高い。その中腹にあるのでは、頂上からロープを垂らすこともロッククライミングでよじ登ることも難しいだろう。魔術で飛んだとしても、あの場所に辿り着く前に魔力が尽きそうだ。

「今度こそ、あたしの出番だね~っ」

 リアが楽しそうに笑って、一歩前に出た。

「ああ。……頼んだぞ、リア」

「まっかせて! ……天翔ける翼持つ者よ、大いなる天空の覇者よ! 我が呼び声に応えてここに来たれ! 我、召喚士の名に於いて命ず――出でよ、飛竜!」

 リアの呼び声に応じて飛竜が現れる。その背によじ登ったリアが、満面の笑みで振り返った。

「さ、乗って乗って!」

「はい! 何だかわくわくします~」

「……そうか?」

 ソフィアは嬉々として、ウィルは淡々と飛竜の背に乗る。そんなウィルの様子に、リアが振り返ってにやぁっと笑う。

「あ、ウィルちゃんもしかして怖い~?」

「馬鹿か、さっさと行け」

「む~っ……飛竜ちゃん、ゴー!!」

 リアのアバウトな命令に応じ、飛竜が力強く羽ばたいた。


 ふわりと、身体が宙に浮かんでゆく感覚。頬を撫でる風の感触に、眼下に広がる景色。

 懐かしい感覚だと思って――その思考のおかしさに気付く。

 だって、今の自分には記憶がないのに。

 それに、こんな普通の人ならば中々体験できないような感覚に懐かしさを感じるなんて、変だ。

 エアーバイクに乗った時は、こんな感覚は持たなかった。あの時は、風を切って走る中でも木や土の匂いを感じて、新鮮で、楽しくて――……。

 ならば、自分は何を懐かしんでいるのだろう。

 私は――……誰?


「……おい、ソフィア!」

 強く呼びかけると、ソフィアの肩がびくりと震えた。虚ろだった瞳に、光が戻る。

「……え? ……あれ?」

「着いたぞ。……とっとと降りろ」

 そう。飛竜はとっくに洞窟の入り口に到着していたのに、ソフィアは心ここにあらずの状態でまったく動こうとしなかったのだ。

「ええ? わわわ、すみませんっ」

 慌てて降りるソフィアに、リアが心配そうに声をかける。

「大丈夫? ソフィアちゃん。……怖かった?」

「いえ、違うんです。……高くて、びっくりしちゃって」

「……それを怖いって言うんじゃないか?」

「そうなんでしょうか?」

 ソフィアは首を傾げながら、飛竜から降りる。その様子はもういつもと変わらない。ソフィアが降りるのを確認したリアは、飛竜に礼を言ってその首筋を撫でている。

「……何があった」

 ウィルが低く尋ねると、ソフィアの肩が小さく揺れ、視線が逸らされた。

「……何でもないです。本当に、ちょっとびっくりしただけで……何もなかったでしょう?」

 確かにここに上がるまで、特に何も起こらなかった。風に煽られる事もなく、平穏無事に飛竜はここまで飛翔した。だが、ウィルは見ていたのだ。飛竜が飛び上がった直後から、彼女の様子がおかしかったことを。だが。

「……なら、いいけど」

 嘘だと分かっていて、そう言わざるをえなかった。何と言えばいいのか分からなかったのだ。こういった対等な付き合いというのはしたことがないから、どう声をかければいいのかどうしても戸惑ってしまう。

 視線を逸らすと、ほっとソフィアが安堵の息を小さく吐いた音が聞こえた。

「わー。入り口おっきい~」

 リアの声に二人ははっと我に返る。洞窟の奥には、大きな金属製の扉があった。魔力で守られているせいだろう。長い年月を風にさらされてきたはずの扉は、少しも風化している様子はない。

「……これが、魔跡……」

 ソフィアの呟きが思いのほか大きく、洞窟の中に反響した。

「未調査の魔跡だからな。当然、罠も生きてる。……気を抜くなよ」

「はい!」

「りょうかぁいっ」

「むぅ!」

 ウィルの言葉に三者三様の返事が返ってきたのだった。

「……行くぞ」

 小さく呟き、扉に手を触れる。ぐっと力を込めると、扉は重たい音を立てて開いた。

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