chapter 4
4
羽衣の不安は、放課後には胸騒ぎに変わっていた。
雲がどんよりと黒く思い。
予報では雨が降らないことになっているが、それは外れそうである。
目の前には二本の分かれ道。
自宅へは左へ。
ウェスカーの家には右へ。
羽衣は――、
「ウェスカー……」羽衣はつま先を右へ向けた。
親友の自宅へは、なんども足を運んだことがある。なんでも、中島基地に勤務する兄と二人暮らしと聞いている。ただ、その兄とは一度も顔を合わせたことはない。
距離はそう遠くない。
そうと決めれば、羽衣の行動は迷いなく早かった。はじめ駆け足だった羽衣は、気づけば短距離走のように走っていた。
脳裏には親友の頼りない、子犬のような笑顔ばかりが浮かぶ。
気弱で、自分からは話しかけられないウェスカー。
困って眉を垂らしながら、それでも助けを求められないウェスカー。
それでいながら、気を許した羽衣には遠慮無い。
彼女の部屋には物が少なく生活感も感じられず、小物を増やすのが苦手だから、と笑っていた。本棚もないのに本は多くて、タワーになったハードカバーは、演劇関係がよく目に付いた。舞台を見るのが趣味だと言っていたが、いまだに一緒に見に行ったことがない。
今度こそ、約束しよう。
その約束が、二人を繋ぎ止める小指の糸になるはずだから。
嫌な胸騒ぎを晴らすため、羽衣はとうとうウェスカーの部屋の扉の前にたどり着いた。
久しぶりに全力で走って腹が痛い。
彼女の家は、ふつうの家族用団地の一階にある。
鼻から空気を吸って、深呼吸。
ベルを押す。
しかし、返事がない。
しつこいくらいにベルを鳴らしても無駄だった。
焦りだけが心に積もる。
ここまできてなんの成果も得られず、大人しく帰る羽衣ではない。彼女は裏手に回る。
駐車場に面する居間の窓から中が覗けるかもしれない、と思ったからだ。
もはやおせっかいを通り越して、犯罪の一歩手前のような気もしたが構わない。
何食わぬ顔で駐車場を通りつつ、ウェスカーの部屋の前でそっと視線を向けると、
「空き屋……」
カーテンはかかっておらず、中が丸見え。その部屋の内部に、家具の一つも見えなかった。




