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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十二話 「輝け スターシステム : vs. SURUGA Mikado」
96/112

chapter 1


   1


「こちらでは試作品の様々な運用試験を行っております」所長は自慢げに案内する。すべての作業員・研究者・試験担当の騎士が手を休め、第三王女に最敬礼をした。

 コーディリアは片手を挙げながらカーテシー。エドマンドは答礼する。

 二人は密告とも言えるケント伯の助言から、王立宇宙研究機構グロスタ研究所に偵察へ向かっていた。当研究所は、〈エラガントキメラ〉にて鬼石きせき専門の最高の基礎・応用研究所である。研究内容は多岐にわたるが、根幹としては、コーディリアの母・亡き王女メアリーが推し進めていたリユース実験や、人体と鬼石の適性の相関、合理的な運用、ならびに人工鬼石の生産に関などである。

「まだ試験段階にも通せておりませんが、最高で耐久性は二倍、レスポンスは六倍。従来品をはるかに上回るスピードとパワーの鬼石を――」

 と説明する所長の傍らで、コーディリアはその鬼石が手のひらで砂になった。

「ごめん遊ばせ。ちょっと力を込めただけなのですが。エドマンド、あなたは」

「砂です」

「――で、そうですわ」

「お、恐れ入ります。筆頭騎士とコーディリア姫殿下の適性には敵いませんな……」

 つぎに案内されたのは、より実践的な鬼石の運転室であった。天井は二十メートル以上あり、室内側から光学系の防隔が展開できる仕様になっている。

「十年前の手痛い教訓、ですわね」コーディリアが呟く。

 その意味することを読み取った所長は反応に困った様子で、曖昧に苦笑う。

「試作品の生産に試験・運用……。保管はどちらに」

「それはこちらです」

 所長の横に並び、コーディリアは彼の説明を聞かされながら歩く。この研究所がどれほど国益に寄与しているかだとか、他国の国家基幹技術よりも優れいるだとかである。つまり自慢だ。

 コーディリアは微笑みを絶やさず、ときには軽く頷いて聞き流した。

 そうして我慢した甲斐もあり、コーディリアの真の目的の場所へ到達する。

 そこは研究所の地下に位置している。

 保管棟は薄暗い、古い神殿のようだった。

 白い支柱が高く天井へ伸びている。その天井は見えない。室内は目に見えるほど広くはないかもしれないし、逆にずっと広いかもしれない。

 その柱の一つ一つが、鬼石の厳重な金庫なのだ。

「ここには試験まえの鬼石が保管されいます」

「すべて、人工の」コーディリアが質問する。

「左様でございます。同等の品質の鬼石を数百と量産し、試験を待っています」

「そんなに作って、なんの試験をされますの」

「様々ですが、主に破壊実験です。どれほどの適正値まで絶えられるかとか、耐久使用時間とか、R1状態で外部からの圧力をかけて限界負荷を測定するだとかです」

「なるほど」

 つまり壊す前提だから、ということか。しかしそれほど人工の鬼石を国家が強く推進していても、天然の鬼石には品質はまったく届かない。

「R2状態を維持できる人工の鬼石の開発目処は立っているのですか」

「恥ずかしながら、我々の力不足です……」

「そうでしょうね」

 期待はしていなかったが、これが現在の〈エレガントキメラ〉の科学技術の限界だった。

 コーディリアほどの適性値ならば、人工の鬼石はR1状態すらままならず、それこそ一合の斬り合いにも絶えられない。といっても、コーディリアの適性値は十億人に一人の超高適性で、さらに数千万人に一人の戦闘センス――、乗じて10の16乗分の一の天才であるのだらか、彼らの努力を安易に非難できる話ではないだろう。

「主を失った天然の鬼石も、この支柱に保管されているのですか」

「いえ、リユース実験用はまた別に。いまはまだ、再起動も叶わず眠りにつく天然の鬼石ですが、これらは王から叙勲された勲章そのもの」所長は一瞬、顔を上げた。「より厳重に丁重にお預かりさせていただいております」

「よい心がけです。外部から守りは万全ですか」

「堅牢ですとも。アクセスはいま我々が通った経路一つのみ」

「その経路の外側からは」

「それも不可能です。ご覧下さい」所長は見上げる。「肉眼では映りませんが、天井を覆う外壁にも、内と外の二重で防隔が張っております」

「ほう……」コーディリアの顔に、淑女の仮面が剥がれかかり、本性が覗く。

「仮に侵入に成功した不届き者がいたとしても、まず脱出ができません」

「こんなにたくさんの鬼石があるのに、ですか」

「それ以上の防隔で、唯一のアクセス経路を遮断してしまいますので」

「皮肉ですわね。強力な鬼石の開発をしているのに、より強力な楯によって守られているというのは」

「いやはや、コーディリア姫殿下のおっしゃるとおり。純粋な研究者の夢としては、どんな盾をも破壊する鬼石の開発でありますが、そうなるとどんな檻を持っても閉じ込めておくことができません」

「できることといえば、登録者と鬼石を分断することだけですわね。でないと、みな気が気でない。〝悪夢〟を見てしまいますもの」コーディリアの声色が変わった。本性が漏れつつある。

「……え、ええ」薄暗くとも、所長の顔が青ざめているのがはっきりとわかった。

「次回の銀河舞踏会には、是非とも……」

 所長が息をのむ。

「新型の鬼石をお借りできますか。実地試験も兼ねて」コーディリアは小さな頭を傾けて微笑んだ。

「あっ、はい。筆頭騎士エドマンド様自らとは、光栄の至りです」所長は安堵に表情を緩ませる。

「壊してしまったらごめんなさい。彼、力加減は苦手なの」コーディリアは所長の肩に手をぽん、と置いて耳元で囁く。「そんなに怯えないでくださらない。よもやわたくしが『アレ』を取り戻しにきたとでもお考えでしたか」

 所長の躰が再び震えだした。彼の肩に手を乗せる必要も無いほど、はっきりと震えている。

 コーディリアはよそ行きの声色と仮面を被り、丁重に礼を申し上げた。

「ありがとうございました、所長。では近々、受け取りに参ります。灰炎のジュリエットが舞踏会を開催する周期はほぼ決まっておりますから。あのせっかちな娘は、情報の海が落ち着くとみるやすぐ踊り出すのですから……、ね」

 研究所を出たコーディリアとエドマンドは、王室のエアラインを使って私邸へ向かっていた。

 亜音速で飛行する外の景色を長めなら、コーディリアは呟く。

「あったな」

「姫さま、悪いお顔です」

「これは生まれつきよ」コーディリアは口の端を持ち上げた。物語のヒロインにはなれない、むしろそのヒロインの敵役たる悪役令嬢の微笑みで彼女は言う。「天然の鬼石は、天井。防隔の内側。わかりやすい隠し方で助かるわ」

「はい、所長の反応を見るに。おそらくアンドロメダも」

「いいえ、まさか。わたしにはあの男の顔を見ずともわかるわ」コーディリアが胸を指さす。「ここに呼びかける声が聞こえるのよ。アンドロメダが、わたしを呼ぶ声が」

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