chapter 11
11
「冷や汗ものだが、落ち着いたようだな」宝亀将軍は事実、額に冷や汗を浮かべていた。
「よもやおもちゃの人形が天女様の依り代だったとは、衝撃ですなあ」そう言って、平田大佐はソファーに体重をあずける。
宝亀将軍の私室にて、二人は応接テーブルを挟んで座っている。テーブルには、まだ湯気が立つカップが二つ。室内には二人だけだ。
ジュリエットと織の戦闘からすでに数時間経過していて、二人は詳細を受けた後だった。
「しかしジュリエットの言い分も理解できる。天女様の目的がわからないのはこちらとて同様で、最大の不確定要素である。ことを早急に進めてしまったのではないだろうか」
「〈ツバメ〉――、いやパック殿の独断先行によるものですが。作戦成功ののちには、彼には充分な抗議が必要でしょう」
「大佐、そんな次元の話でない。パックどころか、異世界のだれもが天女様の力を余している、それそのものにある。やはり期日の延期を打診も視野に入れなければ――」
「将軍」平田大佐の細い目が大きく開き、宝亀将軍を見据える。「勝利は目前にたじろぐのは素人のやることです」
宝亀将軍は瞬間、口元に運ぶカップの手が不自然に止まる。
だが、「うむ、貴官の言うとおりだな」と何事もなかったようにコーヒーを一口含む。
「とは言うものの、今回、天女様が打って出た一手は我が方の中心部に雷のごとき比類無き鉄槌でした……。いつでも我々を握りつぶす手立てを持っている、という我々への警告ともとれます」
「では、計画を第一段階進めるかね。小うるさい赤毛の魔女は眠っていることだ」
「賛成です、将軍。我々がなすべき身支度は調いました。せいぜいがお披露目会の台本を用意することくらい。つぎに赤の魔女が目を覚ますのは、すべての役者が定位置に立ち、幕を開く準備が出来たころでしょう」平田大佐は口を斜めに、だれもが恐怖する悪魔の笑みで呟いた。「楽しみですなぁ、スターシステム――」
※
そのころ中島の中心部では、事の成り行きを見守る彼女がいた。
白鳥のような美しい長髪が床まで流れ、身につけた着物も、雪山のように白い。
入り口には、活動を停止した織が手足を投げ出して横たわっている。
そして、彼女の膝元には、世界でもっとも安心できる母の膝元で横になる青年がいた。
駿河は細く目を開き、天女に問う。
「ぼくは、ちゃんとできるでしょうか……」
彼女は答えず、そっと優しく、撫でるようにして彼の両目を閉じさせた。
第十二話「輝け スターシステム: vs. SURUGA Mikadou」へ続く。




