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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十一話 「魔法使い 対 魔法使い: vs. Valkyrie Ori」
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chapter 7


   7


 天宮羽衣の帰りはすっかり遅くなっていた。親友に加え、最近仲良くなった子がそろって欠席のため、ふだん絡まない友人とついつい長話をしてしまったためだ。廊下でばったり会って、ちょっと挨拶程度の会話のハズだったのだが、すでに日が暮れつつある。将来有望なお喋りおばさんだ。

 そうして急ぎ足で帰宅に急いでいると、正面玄関で赤毛の少女が地べたに膝を抱え座り込んでいるのを発見した。腰まで届く長い赤髪が床に流れ、スカートは整えず広がっている。いわゆるパンツ直座り。小さな小学生くらいならよくあるが、高校生にもなってそんな座り方はいただけない。

「おい、ジュリ恵。あんた授業サボってなにやってんの」

「うぃー……」なんだか、いまにも泣き出しそうな顔である。

「な、なんだかわからんけど、まあ話だけでも聞いたろか……」ということで、羽衣はジュリエットをグラウンドの土手へ連れ出した。

 野球部の男子達の練習姿を眺めながら、羽衣はジュリエットに尋ねた。

「で、どうしたん。ウェスカーは一緒じゃないの」

「ウェスカー……」ジュリエットの声は震えている。

 その反応を見て、羽衣は感づいた。

「もしかして、ウェスカーとケンカでもした。あの子、あんまり我を主張するタイプじゃないけど、さすがのウェスカーもあんたの自由っぷりに我慢の限界を迎えたとか」

「いやぁ、ウェスカーとは朝以来会ってないし」

「そうなん。一緒にサボったんじゃなくて」

「どういうこと」

「どうもこうも、ウェスカー、今日休みよ。あんたと一緒に」

 ジュリエットはそれを聞き、言葉を失っているようである。

「ほら、あんたが急用を思い出したとかでいなくなったじゃない。その後を追いかけて、ウェスカーまでサボったんよ。二人でなにしてたんだかっ」

「うぃーってば、ウェスカーとお友達になってから、なんかなかった」

「なんかって」

「その、彼女の命を助けたとか」

「なんの話なん」ジュリエットの漠然としたよくわからない質問に、羽衣は眉をひそめた。

「返しきれないご恩があるとかないとか……」ジュリエットはそのまま、黙って膝を抱えて小さくなった。

「あー、そういえば、話変わるけど『羽衣伝説』の続き、思い出したけど聞きたくない」

「聞きたーい」ぐわっと顔をジュリエットが近づける。

「ホント顔近い子やね……」羽衣はジュリエットの顔を手で押しのける。「えっと、どこまで話したっけ」

「ワルキューレ様の力が欲しい他国の皇族・貴族に法具を集めさせたのと、小国である母国の人達は、戦争を回避するのと同時に、天女様の国外流出をいかにして防ごうかってところ」なおもジュリエットはぐいぐい顔を近づけるから、羽衣は仰け反る姿勢になった。

「わかったからちょっと離れなさい」

「どうなったん」

「あーはいはい。じゃあ、まずは他国側の話ね。このうち『大地を穿つ光の剣』を命じられた皇子様だけが、手に入れられなかったのよ。焦った皇子様は、代わりに『前翼竜の化石』を持参した皇女様からそれを奪って、まるで自分の手柄のように天女様に献上するって悪巧みを考えた訳よ」

「なん、だって……」

「いやあんた驚きすぎ。まあリアクションあったほうが、話し手のあたしとしては嬉しいけど」

「それで、どうなるの」

 まるで絵本を読み聞かせる母親と子供のような光景だ。が、真実は羽衣が思うほど楽観できない状況であった。

「でー、えっとなんだったかな。あれ思い出したんだんだけどー、うーん……」

「ちゃんと思い出してよ。しっかりして、うぃー」

「あっ、そうそう。『前翼竜の化石』を持ってきた皇女様はとうぜん奪われまいと戦います。これを『赤の魔女の外套』を持参した賢者も助太刀します。状況は二対四です。ところで、母国側では戦争の回避と天女様の流出を同時に防ぐ妙案がありました。その妙案とは、各国の求婚者たちに、天女様の代わりとして側付きの少女を人質に差し出しすことです」

「人質……、って」

「この人質の受け渡しに訪れた天女様の世話係や側付きの少女も、他国の争いに巻き込まれてしまってさあ大変。天女様を巡る各国の争いは増すばかりでしたが、実はすべて、予知能力を持つ天女様の思惑通りなのでした。

「ところで、そこまで強力な予知能力があるんだったら、自分でなんでもできるだろ、って思うじゃん。でもね、天女様の予知能力にも弱点があるの。自分の未来だけは予知できないだわ。だから自分が関与するほど未来が読めなくなって、微妙なラインで他人をうまく操らなきゃならいのよね。もどかしー」

「〝世界戯曲説〟――」

「は……」羽衣は聞き慣れないジュリエットの単語に、小首を傾げる。

「いや、なんでもない。それで、続きは」

「うーん。ごめん、ここまで」羽衣は照れ笑いで誤魔化した。「話の続きはこれまでだけど。ほら、もう一つ法具があるって言ったじゃん」

「思い出しだん」

「だから近いってのっ」

「このあいだの話では、六つまで聞いた。『蓬莱の大樹の杖』と『人形の二個の心臓』。『前翼竜の化石』と『大地を穿つ光の剣』。それに『赤の魔女の外套』」

「そーそー。よう覚えてんね」

「最後の一つは」

「『世界地図』」

「やっぱしなー……」ジュリエットは喜ぶどころか、むしろしゅんと気落ちしたような反応だった。「そっか。いや、ありがとう。だいたいわかった。ぼくがいま、なにをすべきかね」

「なんかのタイミングで思い出すのよね。それまではさっぱり忘れてるんだけど、なんでだろ」

「うん。なんでだろうね」ジュリエットの青い瞳が遠くを見据えている。たぶん、視線の先は湖だ。「もしウェスカーに会ったら、伝えてくれるかな」

「いいよ。なに」

「ズッ友だよ」

「おけー」

 ジュリエットは立ち上がって、地面を強く蹴って駆けいていった。

 彼女の長い赤髪が風に乗って流れている。

 美しくて、彼女の後ろ姿が見えなくなるまで、羽衣は目で追い続けた。

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