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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第三話 「白鳥処女 : vs. Iachimo」
9/112

Bパート

     Bパート


     4


「頻繁に外出されるジュリエット嬢のために、我が軍勢から優秀な護衛を手配した」宝亀将軍は表情を変えずに宣言する。「いついかなるときも、君の身辺を離れず警護する、猟犬という名の護衛をな」

「改めて紹介するよ」続いて基地の副官――、平田大佐が愛想よく紹介する。「猫山曹長と兎田軍曹だ」

 ジュリエットはニコニコ少年のように笑顔で答えた。

「猟犬なのに、猫と兎なんですか。おもしろいですね」

 ぷっ、とすかさず、真顔のまま駿河(するが)少尉が小さく吹いた。

「少尉……」隣席の観月博士(かんげつはくし)が白い目でつぶやく。

 顔を見合わせ、無言でうなずき、背後に立っていた猫山と兎田の二人は左右からジュリエットの赤い髪を引っ張った。

「痛い痛い。ごめんなさい。すみませんした」

 基地に連れ戻されたジュリエットは、小会議室で簡単な打ち合わせを始めていた。会議のメンバはジュリエットのほか次のとおり。基地指令の宝亀将軍および平田大佐。ジュリエットともに銀河舞踏会へ参じる駿河少尉と、民間協力者の観月博士。そして、新たに警護役(監視役)に抜擢された、猫山曹長と兎田軍曹。以上、六名である。

「さて、まじめモードに切り替えて、今回の作戦のため協力を願いたい」ジュリエットは宝亀将軍をまっすぐ見据え提案する。「ぼくの目的が、いまだ銀河舞踏会をさまようロメオ様救出すること、とは先刻説明のとおり。そのぼくを捕獲しようと第二世界側が動き出して、間違いなく、彼らは銀河舞踏会に探知機を設置している」

「過去二度とも、待ち伏せを喰らっていた、とのことだな」将軍が確認する。

「しかし、明らかに向こうが準備万端で待機していたのは、どういうことだい。到着が早すぎる。探知機というより、未来予知機のほうがしっくりくるくらいだ」質問しながら、観月博士はコーヒーに砂糖を大盛りで三杯も注いでいる。

「ほぼ同時にゲートをくぐっても、銀河舞踏会に到着するタイムラグは発生するんだ。こっちのゲートは整備されていないからね。三次元的にたとえれば、寄り道と移動速度に起因するタイムラグさ」

「じゃあ、先回りは不可能か……」

「この状況を打開する方法はただ一つ」ジュリエットは細い人差し指をピッと立てる。「その探知機を探し出して破壊すること」

「協力とはそれか……」将軍が重たそうに頷く。「我々は文明が最も進んだ第一世界傘下の第二世界の、そのさらに後進的な世界とは君自身が指摘したことである。適当な技術的支援ができるとは思えんがね」

「そうかもしれない。けれど、そうじゃないかもしれない」

「教えてもらおうか」

「きっと単純な探知機としての技術は、そんなに高度なものではないと思うんだ」ジュリエットは両手で頬杖をつき、手品の種を得意げに明かす少年のように口元を緩めた。「その推定探知機、なにを探知するものだい」

「そうか。ジュリエット、君専用機だ」ぽん、と古いジェスチャで手を打って、観月博士は得心がいったようだ。

「第二世界で主流の探知技術は、重力子を検地する質量探知法というものだ。第一世界でも主流なんだけど、第二世界はこれの精度が悪い。人間大の小さな質量を探知するのは、やや実戦に耐えかねる」

「ほう……」と観月博士が膨らんだ腹を撫でながら、興味深そうにうなづいた。質量探知、いや、重力子という単語に反応した様子だ。

「だから、探知機そのものの技術は、もっと枯渇した既存の技術が使われている可能性が高い。というか、決まりきった条件下で特定の対象のみを探知する機材なんて、この世界の科学技術ですら余りあるほどだ」

「逆を言えば彼らの探知機、このヒダカミドウでの超科学は銀河舞踏会と通常宇宙との通信に関わる技術、とジュリエット殿はお考えですね」冴えた発言をするのは駿河少尉だ。

「なるほど。我々の電子戦技術でも、あるいは対抗可能かもしれん」

「うん」ジュリエットは大きくうなづく。「それが探知機と呼ばれる代物なら、根底にある技術的概念はどこの世界だって変わらない。今回、ぼくが協力して欲しいのは、電子戦支援――、すなわち逆探知。オーケイ」

「了解した。考えうる最高の装備を手配しよう。ただし、ジュリエット嬢も我々にご協力いただけるのならばな」抜け目ない宝亀将軍は、頭髪のない頭を輝かせて対価を要求した。

「そう言われると思って、これを進呈しましょう」ジュリエットは両手の人差し指をほっぺに指して「美少女の、とびっきりの笑顔っ」と元気いっぱい、満面の笑みをその顔に作って見せたが……。

 生ゴミの袋から臭気がむーん、と漂うような、なんともいえない微妙な空気が充満した。

「お笑いライブでスベッた若手芸人のようですな、ジュリエット殿」なぜかわくわくしている少尉である。

「フォローする気ないよこの人。さすがのジュリエットも固まってるよ」すかさず観月のツッコミ。

「ごほん」大きな咳払いは将軍。「あいにくとジュリエット嬢、この世界でスマイルは無料なのだよ」

「はい、ごめんなさい……」肩を落としてしょぼくれながら、ジュリエットは何気なく昆虫の触覚のように一房だけ飛び出たアホ髪を掴むと、ぶすっ、と引っこ抜いた。

 ほかの四人はギョッとなって腰が浮く。

「ジョークはこれまで。本当はこれを差し上げるつもりだったんだ……」

「え、それ、抜けるの。てか、抜いちゃってよかったの」控えめに観月博士が質問する。

「バイオ・ステート・ストレージだよ。別に頭がさびしい将軍にぼくのを分けてあげようってわけじゃなくて」

「いらん世話だ」

「記憶媒体なのか。ジュリエット、でも……」

「読取装置は提供しません」両腕をクロスさせ、大きなバツ印を作るジュリエット。

「いいだろう。それはこちらでどうにかするし、また君が協力を仰ぐ際に要求する」

「交渉成立、だね」

「平田大佐。早急に電子戦の容易を。整い次第、出撃で構わんね」

「ぼくはいますぐにでも」にっと口元を吊り上げたジュリエットが振り返る。「銀河舞踏会、参加してみない。猫さん、兎さん」

「だから兎ゆうな言ったろ」ジュリエットの頬を両方から引っ張る兎田軍曹。

「まだ引っ張れば抜けそうですね。そのアホ髪、でなくて外部記憶」しれっと澄まし顔の猫山曹長は赤毛を引っ張る。

「もう抜けない、もう抜けないから。ほか地毛だからあー」


     4


 日が沈み、凍えた空気の中、羽衣(うい)は冷たくなった頬をさすってから望遠鏡のファインダを覗き込んだ。澄んだ空気。雲のない空。天に輝く小さな粒はすべて星。

 田舎のよいところは、光害がすくないことだろう。これに尽きる。

 山頂のホテルへ続く道路のわきに、公衆トイレと広い駐車場があった。見晴らしがよくて、昼も夜も車どおりがほぼなく、羽衣お気に入りの天体観測スポットだ。彼女はよく、ここに装備一式を相棒の低排気量スクータに積んで足を運んでいた。

 きっと都会の子供たちは、自分たちが排出した地上の光のせいで、薄い夜空しか見たことがないだろう。だから、興味も沸かないだろうし、この感動だって、一生知ることなく年老いて死んでいく。そう思うと、自分がいかに幸運な少女か、特別な乙女かと錯覚してしまう。

 まるで異世界に紛れ込んでしまったヒロイン。隣に微笑んでくれる美少年さえいれば文句ないのに……。まあ、それは妄想が過ぎるというものである。

 誰にでもなく咳払いをしてから、羽衣は手元のステンレスのコーヒーカップに手を伸ばす。だが、伸ばしても宙を掴むばかりで見当たらない。

 ない。ないなー、とふと顔を上げ、羽衣を飛び上がって驚いた。

「うおぉー、出たよジュリエ恵。あんた毎度々々、神出鬼没すぎ」

「ウィー、これ苦すぎぃ。あげるぅ……」

「あげるってかあたしのだし。勝手に飲むなし」

 そこへ、さらに加わる男女の声。

「おっ、嬢ちゃん若いのにいいもん乗ってんなぁ。これ年季モンだぜぇ」

「わたし隠れバイクファン。このお尻のラインが最高なの」

「っておーい。そっちは昼間の軍人さん。人の相棒に気安く触るなし」

 とどめに最後の二人。

「天宮、君のおにぎり塩辛くないかい」

「若いうちから濃い味だと、将来困りますよ、天宮殿」

「トモこの野郎、あたしの夜食を喰うなよ。あ、でもイケメン軍人さんはどうぞぉ」

「ウィー、落ち着きないね……」心の底から同情する顔でジュリエットが言った。

「だれのせいでツッコミで忙しいと思ってのよ」羽衣はこめかみを引くつかせる。「てかホントなんなの。みんなして。人の邪魔しに来たの」

「ちょっと時間が空いてね。散歩中に、ウィーの匂いがしたから」

「お前は犬か」と言って、ジュリエットのこめかみを軽く指で弾く。

「うへぇ……」

「知らなかったよ。天宮にこんな趣味があるなんて」何気なく口にして、観月は望遠鏡をしげしげと眺めた。

「わ、悪かったわね。見た目によらず、乙女チックな趣味してて……」

「そんなふうには言ってないだろう」

「そんなふうには思ったくせに」

「短気なやつだよな」

「パーソナルタイムにずかずか入り込んだあんたらが悪いんでしょう」

「なんだよ、パーソナルタイムって……」

「固有結界の無断進入お断り。早く帰って。ここはわたしの場所よ」

「また小学生みたいな。あきれたやつだよ。ところで腹減った。おにぎり、まだない」

「ねーよ」

「だから怒るなって」

「だいたいトモっていつも――」

「ねえねえ、そんなことよりさぁ、ウィー」

「ウィー、じゃなくて羽衣よ」

「これ、なぁに」

「あんた望遠鏡も知らないの」

「ボウエンキョ。ああ、星を眺める機材か……」と納得しかけてから、急に不審げな顔をして「え、こんなんで……」

「もっと立派なのは高いのよっ。くそう」と天を仰いで羽衣は叫んでから「そこ、だから人の相棒に跨るなっ」

 いつの間にか兎田軍曹が羽衣のスクータを乗り回してたから、彼女は昼間の恨みも込めて低空ドロップキックをかまして突き落とした。

 ――と、こんな慌しい一騒動も落ち着いて、各人、ミッション前のわずかな猶予に躰を休めた。

 兎田軍曹と猫山曹長は、乗車してきた小型トラックに戻って待機している。観月と駿河少尉はベンチに座り、そのすこし離れたところで女子二人、羽衣がジュリエットに望遠鏡の使い方を教えていた。

「おおー。意外とやるじゃん、ボウエンキョ」覗きながら、小さな子供のようにジュリエットが喜んだ。

「ほら、よく見えるでしょう」まるで自分の娘のように、羽衣は優しげにジュリエットに声をかける。普段、やや落ち着きがなく、何事にも大雑把でぞんざいな印象の彼女だが、こうしている二人の姿はなんとなく親子のようで、本当は思いやりのある少女のなのだ。

「あらためて見ると月かっけぇ。なんか、いいね、これ。クラシカルで、手づかみで星を探すところがおもしろいよ、ウィー」

「手づかみ。まあ、自動導入式に比べれば、たしかに手づかみかしらね」くすっ、と羽衣が笑う。「そんなにおもしろい」

「おもしろいよう。ぼくのとこには、こんなんないもん」

「聞いてもいい。あんた、どこからきたの」

「情報の海の世界」ファインダから目を離さず、ジュリエットは答える。

「それは昼間も聞いた。それ以外」

「だって嘘じゃないし」

「聞き方を変えましょうか。じゃあ、なにしきに来たの。ただの観光客でもないっしょ。基地に出入りしてさ」

「探し人がいるんだ」

「人探し……」

「うん。正確には、人探しのための人探しに、ここに来た」

「ややこしいわね……。で、見つかったの」

「まだなんだ。人探しのための人探しの人は見つかったんだけど、肝心の人探しの人は、人探しの人探しの人がはぐらかすから、人探しを人探し中なんだよ」

「だからややこしいちゅうに。わざとかっ」

「てへへ」かわいらしく小さく舌を出して照れ笑いするジュリエット。その後方で、対照的に険しい顔つきの駿河少尉を、観月は制止した。

「あれくらい、機密情報でもなんでもない。少尉」

「しかし……」

「ああ見えて、ジュリエットはこっちの事情を察してくれてる。そうそう軽口じゃないよ」

「その探してる人って、ジュリ恵のなんなの」

「……ん」ジュリエットは困った顔をして「恋人」と小さく言った。

「あーらそっ。なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃったかしら。ごちそーさーん」

「え、なんだよう。なにその反応」

「爆発しろってことです」

「こ、怖いよう。なんで、ねえ、なんでそうなるの」

「あたしがモテないからよっ。ごめんなさいね」

「ウィーけっこうかわいいよ」

「ありがとう。あんたほどじゃないけどね」

「まあね」とジュリエットは屈託なく微笑む。

「く、このっ」拳を高める羽衣。「でも、そんなあんたを置いていなくなったんかい。さびしいねえ」

「いなくなったっていうか、離ればなれになったっていうか」

「ほう、禁断の恋とな」露骨に興味を持った羽衣が、ジュリエットに躰を寄せて問いただす。「どういうこと。詳しく話してみぃ。このう」

「やー、えっと。詳しくは話せないんだ。ただね、ちょっとした騒動をやらかしちゃって」本当はちょっとどころでなく、一世界滅ぼしかけたのだがそれは伏せて――、「つまり、こっちも痛い目にあってさ。自業自得なんだけどさ。多くの人に迷惑をかけた。かけ続けている。この現状も、試練や贖罪と思いつつ、それでもなお、ぼくは我が道を歩き続けて、まったく図太いやつだと自分でもあきれるよ」

 ジュリエットは顔を伏せ、言い訳のように独りごちる。

 もしかしたら、ずっとだれかに聞いてほしかったのかもしれない。

 口の中から、吐き出してしまいたかったのかもれない。

 羽衣はそれを察して、ただ黙って赤い髪をした不思議な少女の言葉に耳を傾ける。

 彼女をヒロインとして取り巻く事件の、その核を貫く告白と知らずに。

「なにに代えても、ぼくは『――』を助けなければならないんだ」

 ジュリエットの言葉をかき消すように、観月と駿河、ならびに兎田と猫山が所持していたPDAのアラートが同時に響いた。

「ジュリエット、出撃だよ」

 声をかけた観月に、ジュリエットは思いつめた顔を捨て、いつもの明るく少年のような笑顔を取り戻した。

「じゃあ、行ってみようか」


     5


 出撃の広間には、ハゴロモことゲートが円を描いて他世界への入り口を作っている。基地内は第一級臨戦態勢に入り、特殊強化ガラスの向こう側から、宝亀将軍がマイクを使って語りかけた。

「ジュリエット嬢、それが限られた時間で我々が手配できる最高の装備だ。そなたにはおもちゃのようなものかもわからんが、辛抱願いたい」

「ううん。ご協力ありがろう」

 こうやって素直に礼を言うジュリエットは本当にかわいらしいだけの普通の女の子だ、と横に控える観月は思った。その彼女の要求品は、一人乗りのATVにびっしりと積載されている。門外漢の観月は不慣れだが、主に駿河少尉が操作する。

 駿河少尉は数名の技術士官と最終確認を済ませると、彼らを下がらせ、運転席に跨った。

「ジュリエット殿、博士。こちらはいつでも出られます」駿河は冷静な瞳が答える。

「よし。今度も無事に戻るぞ」膨らんだ腹を揺らして、覚悟を決めた観月。

 作戦開始秒読み段階に入った基地内は、徐々に空気が張り詰めていく。ただ約一名、シリアスシーンに紛れ込んだ場違いな美少女コメディアンを除いては――。

「みんな行くぞー。忘れ物はないねー」にっこにこ笑顔で、ジュリエットは散歩直前の犬だった。「あ、ごめん。ぼくトイレ忘れてた。テヘペロ」

「軽ぅーい。ジュリエット、ノリ軽ぅーい。ていうより、ギャグセンスがおっさんかっ」

「歯、磨いて寝ろよ」

「少尉は便乗禁止。おっさんかっ」

「まったく博士は、肩に力が入りすぎなんだよ」

「困りものですね」

「いやいや、どうしてぼくが空気読めないみたいになってるんだよ。おかしいよね。さては君ら、遠足で一人だけテンション高すぎて周囲から浮いちゃうタイプの小学生なんじゃないか」

「博士、作戦まえにツッコミは控えたほうが……。お体に触ります」

「どんな病気だよ。それ奇病すぎるよ。だれのせいでツッコミばかりやらされてるんだよ」

「なぜって」

「それは」

「そこにボケがあるから」

「銀河舞踏」

 三人は光の中に飛び込んだ。


     6


 まばゆい閃光を通り過ぎ、目を開いたその先は、天地に銀河を敷き詰めた幻想的な舞踏会場。その周囲をぐるりと囲む観客席には、期待を裏切らないイノベーションズの面々が腰を下ろしていた。

 観月博士、駿河少尉、およびジュリエットの三人にとっては、舞踏会場というよりも闘技場。

 三人の入場に合わせ、今回の対戦相手のメインホストが声を上げた。

〈螺旋の世界フィア・ノウ・モア〉代表CEO。長髪を一つに束ねた麗人、超人フィディーリだ。

「ようこそ、灰炎のジュリエットとその仲間たち、お待ちしておりました」

「ぼくらはその仲間たち扱いか」観月がボソッとつぶやく。

「好都合です、博士。我々は我々の仕事をさせてもらいましょう」

「だね」

「こっちこそ出迎えご苦労。さあ、今夜の相手はどなたかな」ジュリエットは見渡し、会場によく通る声を響かせた。

「このわたくしですぞ」すると客席から会場に飛び降りたのは、装飾具がやや派手目なタキシードを着込んだ男だった。「フィア・ノウ・モアのヤーキモーと申します。お見知りおきを、灰炎(かいえん)のジュリエット嬢」

「螺旋の世界、出身者か」

「まあ、そう硬く構えず。このヤーキモーの手を取れば、日が東から登るのがごとく当然のように踊ることができましょう。ダンスに自信がなくとも、リードいたしますよ。しかし……、いや、ああ、なんという幸運」ヤーキモーは大仰な仕草で両手を開き大きく叫んだ。「本当にまったく、どういうことだろう」

「……う、うん。どういうことだろうね」ジュリエットも面食らった感じだ。

「美しい婦人とは聞いていたが、灰炎のジュリエット嬢。噂に違わぬ。このヤーキモー、生涯の幸運を今宵で使い果たしてしまったのだろうか」

「そうかもしれないね。じゃあ、はじめようか」

「うっ……」ジュリエットの切り返しに、今度はヤーキモーが不意打ちを喰らう。しかし負けじと、「とくにその赤い髪。あなたの情熱がそのまま流れているのでしょうね。そうでなくては、それほどの色は出せますまい。どんな香りがするのだろう、ね」

「げっ、臭い」

「いや臭いとは一言も……」

「な、なにを言いたいのかわからないけれど、ぼくはロメオ様を探しにきた。邪魔をするならすればいいけど、しないならしないでさっさとお帰り願いたいが、どっちなんだい、君は」

「どちらか、と申されれば、そう、どちらとも、と答えましょう」

「あいだをとって、放置プレイ」

「どこのあいだを取りましたっ」

「だって君が……、ヤーキモーだっけ。さっきから人の話を聞かないから」

「なんとっ。後生です。もう一度、その可憐な唇でわたくしめの名を呼ん欲しいですぞ」

「あっ……。そうださっきトイレ行くの忘れてた……」

 噛み合うことを知らない、天然系の二人の会話。

 それでなくてもジュリエット自身、本能で周囲を振り回すタイプの人物なのに、さらにヤーキモーという独自の固有空間を展開する男の登場は、観客席のCEOの面々を不振がらせるに充分だった。彼らはフィディーリに人選ミスの白い視線を向ける。

「なんなんだ、あの男は。フィディーリ殿」ハムレットの目は半分しか開いていない。

「わたしなら、二言目で殴り帰っているところだわ」きつい感想はコーディリア。

「どうやら座る椅子を間違えたようだ。それとも、コメディ・ショウはプログラムどおりだったかな」ノンフレーム眼鏡を吊り上げて、皮肉を言うのはプロスペロ。

「ぼく、こっちのほうが好きだけど」むしろ自分も参加したい、と楽しんでいるのはパック・ロビン=グットフェロウ。

「わ、わたくしの赤の魔女さんを口説こうなどと、許せませんわ……」ワナワナと肩を震わせ、嫉妬の焔を燃やすのオフィーリア。

「失礼……」沈痛な面持ちの顔を挙げ、フィディーリは闘技場の部下を一喝した。「ヤーキモー。我々はその女を口説き落としに参ったのではないぞ」

「やれやれ。わたしはそのつもりと言ったはずですぞ、代表」

「だったら無駄な徒労だよ。仲を引き裂こうとする苦難こそ、ぼくらの愛の焔を滾らせる。それがジュリエット・メアリ・キャピュレットなのさ。ライドー」

 これは開演の拍手。

 ジュリエットは情報という概念の兵装をダウンロードする。

 束ねる髪留めは外れ、燃えさかる焔のようにグラデーションがかかる長い髪。

 赤を基調としたドレスは全身を包み込む。

 踵の高いヒールをピンと履きこなし、胸におっきなリボンが花開く。

 瞳に星が光るのは最後のおまけ。

 そして決まりのセリフで締めくくる。

「不屈の光は赤の焔。魔法男子、ベータ・ジュリエット」

 対するヤーキモーも、戦闘態勢へとシフトしつつある。

「やれやれ、仕様がありませんな。ならばこちらも、エーテル通信」ヤーキモーが右手を伸ばす。そこに青白い光が燈り、刀身に薄い切れ込みが入った人間大の刀が現れる。「ラミゲルムⅡ。さあ、踊りましょうシニョリーナ」

 恭しく頭を下げたヤーキモーの背後に、ジュリエットは一瞬で回り込んでいた。ベクトル操作による、魔法使いの特殊歩法。

 彼はまだ頭を下げたままだ。

 小さく飛び上がり、ジュリエットの細く長い足が高く上がっている。あとはヤーキモーの脳天めがけて振り下ろすだけだ、が――、彼女の焔をまとった足技を、白刃の防壁が弾き返す。

「なにっ」

「おやおや、これはいささかせっかちなお嬢さんですぞ」頭を下げたまま、ヤーキモーの瞳がぎろりと睨む。

 ジュリエットの蹴りを防いだのはラミゲルⅡという刀剣――、のはずだ。彼女は目を疑った。なにせ、ラミゲルⅡは刀剣の姿を円形に変化させ、主人の背後に盾を作ったのだ。刀剣と呼ぶより、その実体は刃を生やした鞭である。

「我が〈螺旋の世界フィア・ノウ・モア〉の国家基幹技術は、理想都市設計=アヴァロン・デザイン。ミクロなスケールは遺伝子から、マクロなスケールはギガロポリスラインにいたるまで、我々は人類のポテンシャルを限界まで引き出す出生と教育に英知を注いでいるのです」ヤーキモーがラミゲルⅡをしならせると、ジュリエットの足元を狙って突き刺さるように襲いかけた。

 攻守逆転。

 先制攻撃を損じたジュリエットは、小さく飛び跳ねながら回避する。

「強靭な肉体、美しい容姿、高い知能を先天的に約束され、さらに後天的なエリート教育がより能力を飛躍させる」

 ジュリエットの舞うようなステップに、徐々に狂いが生じ始めた。一つ、一つと飛ぶごとに、ラミゲルⅡの剣先が速く的確に床を刺す。

 回避ステップのペースが早まった。

 つぎに飛ぶ場所を選ぶ暇がない。

 まるで彼女の着地点を完璧に予測していたかのような軌道は、ついにジュリエットの足元をすくうように刃が走る。

 あっ、と小さな悲鳴をあげて、ジュリエットが大きく尻を床に打つ。こんなに敵にペースを握られるのは、彼女にしては珍しい。本人も不本意そうに、腰を撫でながら起き上がる。

「痛ったぁい。思いっきり尻もちついたけど……。なるほど、聞いたことがある。それが思考する武器、スマート・ウェポンか。たしか、高度なAI装着型の武器で、自律的に行動するとか。馬鹿でも剣の達人になれる、便利な世の中だね」

「シニョリーナ。それでは半分正解、半分大間違いですぞ」くいっ、と手首を捻る仕草で、ヤーキモーはラミゲルⅡの刃を手元に帰す。刃が連なり、鞭から刀剣へと形状を戻した。「自律的に行動するスマート・ウェポンの使い手は、さらにスマート・ウェポンの行動をも予測しなければなりません。舞踊だって、自分勝手ではパートナの動きを損ないましょう」

「それを可能にするのも、アヴァロン・デザインの恩恵か。〈フィア・ノウ・モア〉は平均知能指数が高い世界だったよね」

「過去二度の戦闘も記録させてもらいました。あなたの行動パタンは、この手の中に。それがどういうことか、おわかりかな、シニョリーナ」自身の勝利を疑わないヤーキモー。彼は気取って、赤い髪の少女に片目を瞑る。

「わかってるさ。『そんな技はデータにありませんぞっ』って負けるフラグだ」

 言うなり駆け出すジュリエット。

 彼女のヒールから火花が飛び散る。

「ふんっ。ピーンヒール・ブースタの加速力も解析済み。そら、このとおり」ヤーキモーがラミゲルⅡを振るう。金属がひっきりなしにぶつかる甲高い音を撒き散らしながら、闘技場の横いっぱいに広がった刃はジュリエットを喰らいにかかる。

 ジュリエットはそれを上体をかがんでかわす。

 やり過ごした――、かに思えたそれは、刀身の推進部をうまく点火しながら、剣先の軌道をうねるように変化し、彼女へ頭上から突入。宙を自在に動くラミゲルⅡの刃は、まるで深海に潜った美少女を捕食しにかかる、容赦ない海蛇だ。

 だが、それでやんわり噛まれてやるジュリエットではない。

 襲い掛かる剣先を真っ向から見据える彼女は、ラミゲルⅡの刀身の素手で弾いた。とたん、ラミゲルⅡの刃があさっての方向に飛んでいく。

「マジックハンド……、それは存じておりますぞ」

 マジックハンドによって軌道を変化させられることすら予想していたラミゲルⅡは、宙で百八十度回転とループを織り交ぜ華麗にターン。

 再突入、

 そして加速。

「ええい、しつこい。これならどうだっ」会場に敷き詰めた立方体の床板を引き剥がして蹴飛ばす技――、オフィーリア戦以降、使い勝手がよく気に入ったキュービック・ショットを彼女は使う。

 人間大はあるキューブをラミゲルⅡにぶつけ、厄介なスマート・ウェポンをさきに潰す。ジュリエットの考えは武器破壊だった。

 それでも――、

「キュービック・ショット……、それも見覚えがありますぞ」

 キューブの投擲など問題でない。まるでゼリーかバターのように、ラミゲルⅡの剣先はキューブの中心を貫き進む。

 それならば。

 ジュリエットはタタンッと、軽いステップを踏むと、床ではなく、ラミゲルの剣先めがけて細い足を打ち放った。女性特有の柔らかい筋肉と腰の稼動域が生む、しなやか足技は、しかし――、

「マジックキック……、それは想定範囲内ですぞ」ヤーキモーがにたりと笑った。くいっと手首を捻り、ラミゲルⅡの軌道を変化させる。

 ラミゲルⅡの刀身がジュリエットの蹴りを回避すると、空振りに終わった彼女が姿勢を崩す。そのわずかな隙を、ラミゲルⅡは見逃さない。

 ラミゲルⅡは刃を寝かせ、ジュリエットの躰に巻きつくと、きつく彼女を締め上げた。

「くっ……、これは、ピンチかな」拘束されたジュリエット。その頭上には、いつだって彼女の白い肌を貫けるよう、ラミゲルⅡが剣先を光らせ待ち構えていた。

「ジュリエットっ」彼女の危機に、観月博士が叫ぶ。「くそ。ぼくらは見ているしかできないのか」

「戦闘では手を貸せません。大人しく彼女の勝利を信じ、言われた仕事をつづけるだけです」

「少尉……。君はいつでも冷静だね」

「彼女はあきらめず、窮地を脱する機を待つ強い心があります」少尉は珍しく、小さく微笑む。

「ああ」

「それに、冷静というよりか、開き直りにちかい心理でもあります」

 観月博士が小首を傾げると、駿河少尉は潤いのある長髪を撫でながら、その仕草とは対照的に無慈悲な現実を宣告する。

「どのみち、ジュリエット嬢が敗北すれば、我々とて帰り道を失うのです。焦ったところで、どうしようもない」

 そのジュリエットが勝利を見出すのは、はたから見ても、すこし難しいかもしらない。

「よし、よくやった。はじめはどうなることかと思ったが、なるほどスマート・ウェポンは伊達じゃないか」特別上等な閲覧席から、ハムレットが声をかける。「そのまま引き上げるぞ、ヤーキモー殿」

「ふーん」とヤーキモーが肩をすくめると、一言。「嫌ですぞ」

 ブチっと額の血管を切らして、しかし平静を装いながらハムレットが聞きなおす。

「おっと……、俺はなにか聞き間違っただろうか。自分の耳をこれほど疑ったことはかつてない……。もう一度聞こう、灰炎のジュリエットを拘束したまま――」

「お断りですぞ、ハムレット・セブンスソード代表」言い終わるまえに答えるヤーキモーはふてぶてしくも、一国の王子を哀れむような視線を送りながら続ける。「このヤーキモーに命じたければ、直属のフィディーリ代表をとおして意見して欲しいものですな」

「と、彼は申しているが」ハムレットが、そのフィディーリに視線を送る。

 フィディーリも頭を痛そうに抑えながら、申し訳なさそうに言う。

「そういうことだ。ヤーキモー、よくやった。彼女を拘束・連行するが……」

「はあ……。まったくため息が出るほど美しい髪ですな、シニョリーナ」

「って聞いてないのか」

 ヤーキモーは、身動きの取れないジュリエットに背後から寄り添うように近づくと、そっと彼女の赤い髪を撫でた。

「う、うひぃぃ」背筋を凍らせ、気味悪がるジュリエットは、まるで首筋に毛虫が這っているかのような嫌がりようだ。それほど毛嫌らわれても気にしないあたり、ヤーキモーのメンタルは、ある意味、賞賛に値できるだろう……、変態として。

「わたくしの赤の魔女さんから、そのド汚い手を離しなさい」閲覧席から怒号を飛ばすのはオフィーリアだ。なぜかジュリエットの味方である。

「落ち着け、オフィーリア」

「はい、ハムレット様」ご主人様に叱られた犬のごとく、いちおう平静を取り戻して着席する。

「どうですかな。ここは一つ、このわたくしめの誘いに乗ってはいかがか。ロメオなどという男のことは忘れ、このヤーキモーの伴侶となりなされ。悪いようにはいたしませんぞ」

「恋人のいる身の女性に、なんて言葉をかける紳士だよ、君は。耳が腐る思いだね」自由に動かせるのは唇だけ。ジュリエットはせめてもの抵抗に、精一杯の憎まれ口を利いてやる。

「ツンと跳ね除けるあなたもかわいらしい。どうしても、かね」

「ノブラッキィ」

「乙女の唇で、そんな汚い言葉を使うものではありませんのぞ、シニョリーナ」

「そうですわ、いけません赤の魔女さん」

「だから大人しく座ってろ、オフィーリア」

「はい、ハムレット様」

「まったく強情なほど貞淑な娘ですな。一途にその操を愛した男のためだけに尊守する。しかし、ロメオとやらはどうでしょう。そんなあなたの思いに、真に答えておりますか」ヤーキモーがねっとりと粘性の高い声色でジュリエットを心を刺激する。

「なにを言いたい」

「狂乱のロザラインの氷の焔に閉ざされている。この銀河舞踏会のどこかをさまよっている。本当に。なぜ、そう断言できましょう。その青い瞳で確かめられたのですか」

 ジュリエットは無言で睨む。

 それすらご褒美ですぞ、といわんばかりにヤーキモーは口元をゆがめ、ジュリエットの精神を突く言葉を吐き続ける。

「あなたは利用されたのです。貞淑な心を。信じる心を。世界地図をまんまと手にしたロメオはあなたのことなど忘れ、いまごろどこの世界で悠々と暮らしていることか。あるいは、〈あちら側の第一世界〉に情報を売り渡し、豪遊の限りをつくしているかも」

「はっ、なにを言うかと思えば、そんなことか」

「そんなこと」

「おあいにくさま。ロメオ様は世界地図なんて興味ないのさ」

 各世界のCEOが耳を澄ます。

 空気が変わる。

「世界地図を盗もうと持ちかけたのは、このぼくのほうなんだからね」ジュリエットの、いまだ敗北を認めない、勝利を模索する瞳がヤーキモーを睨む。「それに、ロメオ様が銀河舞踏会をさまよっている確固たる核心が、ぼくにはある」

「一応、お伺いしましょうか」

「ロメオ様が迎えにこない。あの方が自由の身なら、なにを差し置いてだってぼくのもとに来るはずなのだから」

 そう言い放つジュリエットを、ヤーキモーは大声を上げてあざ笑った。

「なにがおかいし」

「これほど潔白な乙女を、いやはやロメオという男はどれほどの話術で惚れさせたのか。魔人ロメオは、恋の詐欺師でもあるようです。気が変わりました。わたしが新たな快楽を与え、魔人ロメオの洗脳を上書きさせてでも連れ帰りましょう」言うとヤーキモーは、ジュリエットの耳元に口を寄せ、ふっと短く息を吹きかけた。

 するとジュリエットが飛び跳ねる。

 耳まで真っ赤にさせて、ラミゲルⅡに巻かれ不自由な体を身じろぎしながら逃げ惑う。

「な、な、なななななっ……。いったい、君はなにしたっ」ジュリエットが戸惑いを隠そうとせず、早口でまくし立てた。

 はじめきょとん、としていたヤーキモーは、ああそうか、と手を打つと、こう言った。

「これは失礼シニョリーナ。かわいらしいお耳が、そこまで性感帯だとは露知らず。このヤーキモーの無礼をお許し下らさせ」

「せ、せせせせ……」回らぬ口のジュリエット、。その言葉の続きの言ったのは、

「性感帯ですってえええぇ」なぜか、同じくらい顔を真っ赤にしたオフィーリアだ。

「だから落ち着け、オフィーリア」

「はい、ハムレット様」

「よくも……、よくもぼくも知らない秘密を。ふおおおぉ」怒りの焔を燃やすジュリエット。背景に灼熱の焔が揺らいで見える……、気がするくらい怒ってる。

「さあ、続きは我が家に戻ってからにしましょうか。あまりじらすと、さすがに代表らに叱られてしまいますからね」

「ああ同感だ。これで終わりにしよう」キリッとヤーキモーを睨むと、ジュリエットは勝利を宣言をする。「お前の敗北フラグは回収させてもらった」

「ほっ、それはどういう」

「気づかないのかい。自分の体に付着する赤いきらめきに」

「なん……、だと」

 よく見ると、確かにヤーキモーの躰や衣服には、光に反射して光る小さな小さな赤い破片が付着していた。さらに目を凝らすとわかる。その赤い破片が夜空の星のように連なり、ジュリエットまで続く道になっていた。

「それは熱の素、フロギストン。発生源はここ」ジュリエットは頭を軽く振り、赤い髪を靡かせる。

「か、髪……。そんな技はデータにありませんぞっ」

「君は女の子の躰に、不用意に触れすぎたのさ」ジュリエットは指を鳴らした。「イグニッション」

 爆発。

 空中に漂うフロギストンに次々と点火。

 けたたましい爆音とともに焔の渦が点火と爆発を連鎖しながらヤーキモーへと襲い掛かる。

「ラ、ラミゲルⅡ……」ヤーキモーが顔を青くさせて飛び退いた。それと同時に、ジュリエットを拘束していたラミゲルⅡ.を解き、円形に変化してシールドを形成する。だが、自身にフロギストンが付着している限り、誘爆という名の死亡フラグからは逃れられなかった。

 焔の牙がヤーキモーを噛み砕く。

 晴れた煙から覗かせる、ヤーキモーの姿は見るも無残だ。煤だらけの衣服。乱れた髪。力なくひざを突き、立ち上がる力さえもいまはない。

「シ、シニョリーナ……」残された気力を振り絞り、ヤーキモーは最後の問う。「トゥ・セイ・イヤボーン」

「イエス、イヤボーン」ジュリエットは拳を胸に当て、こうは叫んだ「燃えあがれ、大志の焔」

 すると生まれる、灼熱の焔。

 二本指で銃を作ると、蓄えた大量の焔を解き放つ。

「銀河の産声。スター・バースト」

 フロギストンの爆発など比較にならないほど、膨大な熱量の矢はとどめの一撃。

 標的に命中。

 舞踏会場を覆う閃光と爆煙。

 赤い髪をなびかせ、ジュリエットは閲覧席の五人のCEOを鋭い眼光で見据えた。

 それに答えるようにハムレットは立ち上がると、灰炎のジュリエットから視線を外さすことなく、見下ろしながら指示を出す。

「燃える婦人など手を出すから……。トラフィック・コンジェション。撤退する」

 舞踏会場が光で包まれた。

Cパートへ続く

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