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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十一話 「魔法使い 対 魔法使い: vs. Valkyrie Ori」
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アバンタイトル


   アバンタイトル


 兎田うさぎだ軍曹が新設される特殊部隊への特技兵養成課程に志願したのは、早いもので丸三年もまえになる。その募集要項は機密事項が多すぎて、穴だらけの脚本のようだった。手の込んだジョークかと同僚と笑ったものだが、所属基地が例の〝天女基地〟となれば、これは事情がかわってくる。

『どうせ軍の犬ならば、ご主人様は怪しい奴のほうがずっといい』

 彼はそう心に呟いて、より人生の冒険を目指した。

 こうして、彼に劇的なイベントがあったわけでなく、綿菓子のようにふわっとした理由で志願した先で、不思議な美人と出会った。

 彼女は面談の執務室の前で物音一つ立てず、ロビーチェアに腰掛けていた。下はスカートの勤務服で、優雅に長い足を組んで伸ばしている。腰から足にかけてのラインが一流のモデル並みに魅力的だった。まず、彼女のそこに目がいった。

 視線をあげて、顔を確認する。ほっそしとした輪郭に切れ長の目、艶のある長い緑の髪を、後頭部でクロワッサンのように纏めていた。年齢は自分とほぼ変わらない。二十代後半といったとことだ。肩章から一つ上の曹長だとわかった。

 はっきり言って、兎田は一目で惚れた。

 彼は美人の正面に腰掛ける。隠れる気も無く彼女を観察した。彼女のほうから声をかけられればそれもよし。かけられなければ、ずっと美しいボディラインを眺めていよう。たぶん、状況は後者だ。

 彼女は膝元のタブレットにずっと視線を落としている。ときおりタップするために細い指先を動かす以外、ほとんど身動きしなかった。精巧につくりあげた人形のようである。座っているだけで彼女の異様な雰囲気を感じ取った兎田は、彼女の『職業』を言い当てようとした。それを、会話のきっかけとしたのである。

「なにを読んでいるのです、曹長」

 はじめて兎田を認識したかのように、彼女は焦げ茶色の瞳だけ動かす。それから、言葉には出さず、タブレットを回転させて中身をみせた。表示されていたのは、中高生が読むような少年漫画だった。

「余裕ですね。あなたも志願を」

「……そう」きれいな発音だった。声は高くもなく、低くもない。

「職業を言い当てましょうか」

「スナイプ」

「いや言い当てましょうか、って言ったところで即答しないで下さいよ」

 また、彼女は瞳だけ動かす。

「嘘よ」

「嘘ですか……」

「狙撃も悪く、ないけれど」

 そして、また彼女はタブレットに集中した。

 会話が長続きしない。しかし兎田は居心地の悪さは感じない。たとえるなら、美人で気位の高い飼い猫のような人だ。

 結局、選別過程をパスできたのは、兎田とこの美人の二人だけだった。特技兵への適性を見いだせたのが、彼らだけだったからだ。

 それから、兎田は美人とずっとコンビを組んでいる。

 出会った当初の印象よりも、彼女はずっと〝猫らしく〟て手を焼くこともままあるが、兎田はそれも悪くないと思っている。

 彼女の名は、猫山ねこやま――。


「おい、レッドマジシャン」兎田軍曹は、鉄柵の向こう側に呼びかけた。

 彼女は足だけをベッドに乗せ、上半身は床に、長い赤髪は乱れ放題。これ以上無いだらしない姿で床に寝ていた。

「すげぇ格好……。母ちゃんに怒られる心配がない夏休みの女子高生の昼寝姿か」

「だって、やるこないし。外出たらみんな臭い臭いって言うし。もう、臭くないよっ」

「まだくせぇよ」

 パック戦から三日後である。

 あの戦いで使用した最終兵器〝超臭い弾〟を間接的に浴びたジュリエットは、いまだ基地内での移動制限令がなされてる。部屋で大人しく閉じこもっているほかなく、かといって与えられた自室にいると、その部屋まで異臭が移るから、彼女はいまだ懲罰房にご宿泊の身分である。

 といっても、懲罰房送りなのは、その臭い躰で基地内を意図的に走り回った本当に懲罰の意味も込められていたりするのだが……。

 兎田軍曹は、一度たりとも清掃していない公園のトイレのような臭いに、鼻呼吸をできるだけしないように努めながら尋ねた。

「聞きぇことがある」

「あー……」ジュリエットが意外そうな顔で、口をあんぐり開ける。

「おめぇさん。その薄っぺらいガキの見た目で、その実、四十超えたおばちゃんだって話だな」

「薄っぺらいは余計だよ。あと、四十くらいじゃ、まだお姉さんだよ」

「いやまず、姿勢を正せよ」

 ジュリエットは言われて、もっさりとした動作で身を起こした。鉄柵越しのせいもあって、動物円のナマケモノを鑑賞している気分である。

「そーだよ。ぼく、こう見えて大人なんだから」

「お前の世界では、若返りってのは一般的な美容整形の感覚か。髪を染めるとか、爪に色を塗るとか、そういったレベルの」

「ぜんぜん。これは品のいい趣味じゃあないね」ジュリエットは苦笑いで答えた。

「予想外だな……」

「実年齢より極端に若い容姿にこだわるのは、それだけ自分の人生や中身に自信がない証拠だって笑われる文化かな。実年齢を知られた日には、もう外に出られないね。全裸で街を歩くようなもんさ」

「そういう、感覚なんか……」兎田軍曹は改めてジュリエットの顔をよく観察する。きめ細やかな白い肌には、皺もくすみもない。化粧品コマーシャルに起用される女優としては、理想的な肌つやである。

「じゃあなんでお前は、若さに拘る」

「他人の目を気にしないからじゃあないかな」

「じゃあないかな、ってずいぶん他人事な」

「なんでそんなこと聞くの」ジュリエットは手ぐしで赤髪を直す。

「その若さは、見た目だけか」兎田軍曹は目を細めた。

 ジュリエットの手ぐしがとまる。

 彼が本当に聞きたかった質問は、これだった。

「寿命は、延ばせるのか」

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