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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十話 「ダークファンタジへの招待状 : vs. Pack Robin-Godfellow」
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chapter 9


   9


 ジュリエットに昼間の一戦の情報が入ったのは、日が暮れてからのことだった。

「ちょ、もうかれこれ六時間はたってるんじゃない」ジュリエットは独房を抜け、ブリーフィングルームへ向かう途中だった。

 後ろには猫山曹長と兎田軍曹。

 報告とエスコートをするのは、駿河少尉だった。

「だから言ったじゃん。パックにはなにをやっても無駄だって。ぼくじゃないと止められないって。それにしても、なんで学校に……」

 そこで、駿河少尉が躰を押しつけた。

 思わずジュリエットは体制を崩し、駿河少尉と壁に挟まれる格好になった。

(あっ、これがMANGAの壁ドン……)

 めずらしく駿河少尉が露骨な憤怒を表情にだすも、ジュリエットの頭の中は、あさっての方向を向いていた。

「たしかに。我々は無力でした。それでも、あいつを我が家に招待するほどの失態はしておりません」

 駿河少尉が身を離す。いつもの冷静さを取り戻し、ジュリエットに振り返る。

「失礼しました。さあ、急ぎましょう」

「壁ドン……。ねえ、いまの壁ドンだったよね」嬉しそうに猫山曹長と兎田軍曹に同意を求めるが、さすがの二人も、駿河少尉の前で頷くことはできなかった。

 で、ジュリエットが案内されたブリーフィングルームには、宝亀将軍、平田大佐ほか、ESU隊員が彼女を待っていた。さらに、観月博士の姿もある。

 挨拶もなしに隊長の説明がはじまる。

「一八一五時、餅月島の監視カメラが捕らえた映像だ。これを最後に〈ツバメ〉の行方が知れん。標的は『帰るつもり』のようだが、もちろん〝土産〟をくれてやる気はない」

「庭園で網を張ってパックを迎え撃つのかい」ジュリエットが質問する。

「まあ待て、我々は同じミスは二度しない」宝亀将軍が人差し指を立ててジュリエットを黙らせる。「もっとも、一度目のミスで、たいがいは死んでしまうがな。大尉」

 ESU隊長は進行を任される。

「〈レッドマジシャン〉。我々には奴の動きを封じる策がある」

「今度はホントかな」ジュリエットはわざと意地悪に口を曲げてやってみる。

「ただ、あくまで一瞬の拘束だ。俺はやつを仕留めてやりたいが、やはり、異世界人はまだ、我々の手にはあまるようだ。だから、最終的な判断は、レッド――」隊長は彼女の名を言い直す。「ジュリエット。貴官に任せるつもりだ」

 意外な展開に、ジュリエットは目を丸くする。

 隊長は遺憾ながらも、それでも敬意を表そうと努めている。そんな顔だ。

「いいの。ぼくのやりたいようにして」

 ジュリエットの念押しに、宝亀将軍はこう言う。

「〈ツバメ〉を蹴り飛ばすのもよし。殴り倒すのもよし。捕虜にしたいところだが、仕様ない。やつを田舎へお帰り願おう」

 ジュリエットは俄然やる気が沸いてきた。

「よし。そいうことなら話にのった。ぼくはどうすればいい」

「庭園を戦場にはできない。天女様はそこから動かれないし、また庭園が一番安全だ。程度の差でしかないだろうがな。だから囮になるのは、君だ、ジュリエット嬢」

「ぼくかい」とジュリエットは驚いてから、「ぼくかーい」とツッコミ風に言い直す。

「どこにいるかわからんのならおびき出す。シンプルである」将軍が言うほど、これは容易な任務とは言いがたいが、

「ワルキューレ様を囮にするよりは、天と地ほど良策だね」

「そのとおり」将軍が頷く。「いずれにせよ、ゲートを起動させるには鍵としてのジュリエット嬢の存在も必要であり、〈ツバメ〉は貴様も狙ってくると予想される」

「うっし。やったるぜ」ジュリエットが両手の拳を付き合わせた。

 隊長が最後に付け加える。

「いいか。第一線は本島。我々も微力ながら援護する。そこで仕留めきれなかった場合、ハンガへおびき寄せろ。かならず動きを止めてみせるから、ハゴロモの向こう側へ蹴飛ばしてしまえ」

「了解だよ。これでみんなとチームだね」ジュリエットは思わず涙が出るほどうれしかった。

「あー、こほん。ジュリエット。言いづらいが、作戦の要になる、〈ツバメ〉の足止めについてだが……」隊長は本当に言いづらそうに視線を外す。

「うん、そうだった。今度はどんな手で」

 ジュリエットが尋ねると、全員が目をそらす。

 気まずそうにする者もいれば、笑いを堪える者もいる。平田大佐はいつも細めで微笑を浮かべているから、どちらかは判別つかない。

 その大佐が言う。

「提案者は観月博士である。博士から説明してはいかがかな」

「ああ……、ジュリエット」観月博士は申し訳なさそうな顔をする者の一人だ。「さきに謝っておく。たぶん、君も巻き添えになる。いや、怪我をするとか、そういう危険はないんだが……」

「はっきり言ってよ。ぼくと博士の仲じゃあないか」

「わかった。女の子の君には、ちょっと酷な作戦かもしれないが……」

 観月博士は意を決して秘密兵器の概要を説明した。

 ジュリエットの顔色はみるみる青くなる。しかし、元を辿れば自分の責任だし、彼らに悪意がわるわけでもない。そうなると、ジュリエットだって首を横に振ることはできなかった。

 ただし、ジュリエットは両手を広げ引きつった笑顔のまま、精一杯の意趣返しにこう言った。

「作戦成功の暁には、ここにいる全員とハグしたいな」

 だれも彼女と目を合わさず、無言だった。

「全員残らず、情熱的なハグを交わしたいな」

 だれも彼女と目を合わせず、無言だった……。

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