chapter 6
6
「羽衣ちゃーん。お弁当、作ってきたの」にこにこ笑顔で重箱をお弁当袋を二つ手にするのは、羽衣の親友ウェスカーだった。
「すげー弁当箱」
「羽衣ちゃん。学食派でしょ」
「いやまあ……、そうだけど」羽衣は親友の頭から足先まで見直した。「あんた今日、どうした」
「どうしたって、え、なにが」
「あんたのカレシじゃないぜ」
「えー、いいじゃない。ウチが作ったお弁当、食べたくないの。羽衣ちゃんって、そういうの気にするタイプだっけ」
ぐいっと顔を近づけられて、羽衣は引いた(物理)。
「そりゃ気にしないけど」
「よし行こーう」
なんとなく強引な気がいなめないものの、『学食代が浮いたかな』くらいの気分で、羽衣はウェスカーに手を引かれて屋上へあがった。
不思議なことに、きょうの屋上は貸し切りだった。
天気もよいのに、だれもいない。
学校によっては屋上自体が立ち入り禁止だったりするものの、羽衣の学校はむしろ生徒が昼食をとりやすいよう、ベンチまで用意しているのに、である。だから普段は――といっても学食派の羽衣は、あまり昼間の屋上は知らないが――ちょっと意外に思った。
「きょうのお弁当はねー、羽衣ちゃんの大好きなねー」ウェスカーは弁当箱のランチマットを広げつつ、「あっ、大変」この世の終わりのような顔をした。
「なに、箸でも忘れた。いいよ、手で食べるから」
「そっかー」
「いやツッコミなよ」
「じゃなくて、飲み物忘れたのっ」
「いいよ。ご飯飲むから」
「そっかー」
「だからツッコめよ」
「ごめんね羽衣ちゃん。ちょっと買ってくるから。まだ食べないでー」
止めようとする隙もなく、ウェスカーはかけだしていった。
「ああ……、行っちゃった」なんとなく、取り残された気分である。
いや、それにしても……、だ。
「あの少年……」
羽衣が空を見上げると、その顔をのぞき込むように少年の笑顔が覆い被さった。
「呼んだぁ」
キラリと輝いたライトグリーンの瞳は、しかし笑ってはいなかった。




