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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十話 「ダークファンタジへの招待状 : vs. Pack Robin-Godfellow」
73/112

chapter 3


   3


 部隊長が入室するやいなや、怒鳴り声ともとれる大声がブリーフィングルームに轟いた。

「全員起立」

「睡眠時間はなかったが、みんなおはよう。席に着いてくれ」隊長が正面のスクリーンの前に立つ。持参した紙コップのコーヒーを一口含んで、「ああ……、ここのコーヒーはまずくてかなわん。眠気覚ましにはちょうどよいが、君はどう思う」

 話を振られた最前列の隊員が答える。

「泥水ですな」

「いつも正直なやつだ」隊長は残りのコーヒーを飲み干す。「さて、早速だが〈ツバメ〉の所在地が発覚した。場所はA公立高。なんと奴さん、高校生に混じって隠れようとしているらしい。本人はせいぜい小学生くらいなのだがな。それもタキシード姿でだ」

 そこで男達の小さな笑い声があがる。

「〈ツバメ〉を捕獲しろ。生死は問わない。だが民間人に一切の死傷者を出してはならないし、なんなら我々の存在を知られてもならない。わかるな。昨今の世論が、我々に明るいと思うか」

 いいえ、とみな首を振る。

「ただでさえ電力食いの活動不明部隊などと言われいる俺たちが、まさか異世界の門を開き、はては異世界人を取り逃がしたとなってはだ、お前はどう思う」隊長は、今度は別の隊員に問う。これが彼のブリーフィングのやり方だった。

「まさに『ぐぅの音も出ない』ってやつですね」

「わたしもそれを言おうとしたところだ」

 隊長はスクリーンの映像を変える。画面は二分割され、一つは警備隊の銃弾を左手で受け止めるシーン、もう一つはパックがその銃弾の嵐を回避するシーン。それぞれ何度も繰り返し再生される。

「文句の付け所のない敗北だ。〈レッドマジシャン〉の見立てでも、この楯と矛の原理は不明らしい。通常の銃火器では対抗できん。が、意識の外側からは、その限りではない」

 隊長がスクリーンを停止させる。

「〈ツバメ〉はかならず、攻撃・防御ともに〝それ〟を行う前のモーションをとっている。つまり……、オートランではないということだ」隊長は強調的に言う。「狙撃は有効と考えられる」

 スクリーンの映像が、A高を中心とした地形図へと変わった。

「今回使用する弾頭は少々特殊な代物だ。開発部が試作しためずらしく有用な代物で、空気に触れると一瞬で体積が十倍にふくれあがり、鋼鉄並の強度で急速硬化する」

 隊員たちから歓喜の口笛が吹く。

「狙撃ポイントは屋上。〈ツバメ〉はかならずA高の屋上に現れる。同時に、セカンドアームを装備した落下傘部隊による強襲。いいか。拘束に成功した場合、一切手を出すな。我々の任務はそこまでだ。交戦のタイミングは火災警報。校内の騒ぎに乗じて、いっきに叩く。質問は」

 一人の隊員から手が上がる。

「なぜ標的が屋上にくると断言できるのですか。そこに〈ツバメ〉の目的が」

「情報の公開は許されていない」隊長は断固とした口調だ。

 別の隊員は口を斜めにしてこう言う。

「魔王を倒す伝説の剣とか刺さってるんですねわかります」

「あるいは、完全体に進化できる宝石とか」

 隊員達に短くだか笑い声が広がった。

「感のよさは長生きの秘訣だが、口のよさとは口数の少なさだ」隊長が睨みを利かす。「任務に集中しろ」

「了解」

 別の隊員からも質問があった。

「相手は子供です。交戦規定は――」

「異世界人は交戦規定の外側だ」隊長が有無を言わさず隊員を黙らせる。「ほかには。だれか」

 もはやだれも質問する気はないらしい。

「よし。では仕事の時間だ。昼食まえまでに終わらせよう」

 隊員たちが重い腰を上げたとき、空気を読まない赤毛の少女が扉を『バーンッ』と開け放った。

「話は聞かせて貰った――ッ」ジュリエットである。

 男達の視線が少女に注がれる。

「話は聞かせて貰った」

「二度言わんでも聞こえているが」隊長が面倒臭そうに答えた。

「ぼくも連れて行ってくれ。邪魔にはならない」

「いいや邪魔だね。お嬢ちゃんは大人しくぬいぐるみを抱いて眠っていればいい。寝不足なんだろう。君の助言から、我々は奴の動きを封じる特殊弾頭を用意した。万全だ」

「パックは手強い。君たちは戦力を見誤っている」

「どうやら赤毛のお嬢さんは、俺たちが敵の戦力を完全に把握した状況でなければ動けない腰抜けだとでも思っているらしい。どうだお前ら」隊長が男達に見渡す。

 隊員達はだれもジュリエットを相手にしなかった。

「だそうだ。我々ESUの力を黙って見てくれたまえ。なんなら、お嬢ちゃん。いまここで君の躰で思い知って貰ってもよいのだがね」隊長はジュリエットよりも頭一つ高く、威圧されれば、普通の女子高生なら怯えて涙目になるところだが……。

 ジュリエットの背景に陽炎がみえた。彼女の髪から放熱によって、空気が局所的に熱せられているからだ。

「じゃあぼくが勝ったら、この部隊の隊長だね」けっして引かないジュリエットは、屈強な隊長の胸に人差し指を突き刺した。

「はっはっ」隊長が振り返って笑う。「お前ら聞いたか、おい」

 作戦前の兵士が、こうした落ち着いた雰囲気を出したとき、逆に最大限の戦闘態勢である。

「口の利き方に気をつけて貰おうか、お嬢ちゃ――」

 ジュリエットの胸ぐらを狙った隊長の手が空を掴む。躱したのはジュリエット自身ではなく、その彼女を両脇から抱きかかえた猫山曹長と兎田軍曹であった。

「お邪魔しました。大尉殿」二人は開いた片手で敬礼して、室内を出て行った。

 両脇から抱えられるジュリエットは両足が宙に浮く。

「あれれ」

 えっさ、ほいさ、と神輿でも担ぐような息の合ったコンビプレーによって、ジュリエットは速やかにブリーフィングルームから姿を消した。部屋の外からはただ、「またかよー」と駄々をこねるジュリエットの声だけが聞こえるのみである。

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