chapter 2
2
夜更かしが祟った今朝の羽衣は睡眠不足である。
淑女にあるまじき大あくびを一つ。
高校入学の際に新調したローファーを履き、思わず置き忘れそうになったバッグを肩にしょい、ドアを開ける。
「いってきまーす」
台所から母の返事を耳にして、羽衣が眩しい快晴の空の下へ出ると、意外な人物が待っていた。
「ウェスカー」
親友はにっこり微笑んで応答した。
ウェスカーと肩を並べて通学するのは、思えばはじめてかもしれない。
ちょうど彼女と羽衣の家が、学校を挟んで正反対にあるからだ。
「どうしたの」
「昨日のお礼。たくさぁんごちそうになったから」
「べつにいいけど」羽衣はあくびをかみしめる。
「羽衣ちゃんこれ。お礼にあげるね。もらって」ウェスカーが取り出したのは小さな箱だった。赤いラッピングがされてある。
「なに、プレゼント。いいのに」ちょっと申し訳なく思う羽衣。だが、誕生日はきのうだったんだけどな、とは口にしない。「開けていい」
「うん」ウェスカーは両手を頬に当てて顔を赤らめる。彼女がよくする乙女のポーズである。「いろいろ迷ったの。万年筆にしようかな、腕時計にしようかな、うーんお財布、ネクタイ。もー考えたら切りが無くって」
「プレゼントのセレクションが対お父さんやね」小さな包みを開くと、かわいらしい星のワンポイントアクセサリがついたリムーバルディスク兼キーホルダだった。
「実用的でしょ」
「彼女に送るプレゼントでもないな」
「やだ彼女だなんて」ウェスカーがそっと肩を寄せてくるから、羽衣はそっと距離をとる。するとさらに近寄ってくるウェスカーに逃げる羽衣。
斜めに歩く二人。
「てかさ、こんなん用意してたってことはさ、きのう、あたしの誕生日って知ってたんね」
「うん、まあ……」
なんとなく、ウェスカーに歯切れの悪さを感じた羽衣だったか、それ以上は追求しなかった。
「でもありがとう。使い勝手は良さそうだしね」
「えへー」ウェスカーはだらしなく犬のように笑った。
そんな珍しい二人の登校もつかの間、校門にたどり着くと、二人は人だかりを発見する。
なんとなくデジャヴを感じた羽衣であったが、その中心は赤髪少女ではなかった。
歳のころ十三歳くらいのおかっぱ頭に、女の子のようなきれいな顔立ちの男子(たぶん少年で間違いない)。なぜなら、彼はどこぞの舞踏会から抜け出してきたかのようなタキシード姿だったからだ。
そんな男の子が、女子数人を周りに侍らせ、愉快そうにおしゃべりしている。
「なんだろ……、ジュリ恵の弟だったりして」また一騒動起こりそうだ、と辟易する羽衣に対して、隣の友人はケータイですかさず写真を撮っていた。
渋い顔をして睨んでやると、ウェスカーは視線を逸らして言い訳する。
「ほ、ほら。ウチ、かわいい年下の男の子とか、好きだし」
「そっちの趣味だったか。同じ年頃の女子が好きだったんじゃ」
「同じだよぅ。あの子にワンピースとか着せたら、ぜったい似合うじゃーん」
「やめたげなさい。そういうことすると、将来こじらせるから、あの子が」ぽん、とウェスカーの肩を叩き、二人は校舎に入った。




