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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十話 「ダークファンタジへの招待状 : vs. Pack Robin-Godfellow」
71/112

chapter 1


   1


 会議室は中島の部隊、上級将校で埋まっている。

『お誕生日席』には将軍が座っていて、その正面にジュリエットが肩を竦めて、一応は恐縮したような態度で腰を下ろしている。

 パックの行方は不明である。基地内の監視カメラその他を使っても、ハンガを抜けたあとの一切の痕跡が掴めない。

 しかし、異世界人がこの世界で狙う目標は一つしかない。

 超通信現象の権化――、〝天女〟の誘拐。

「おおすじは理解した。それで、あのパックという少年に、我々はどう対抗できる」将軍の声は落ち着いているが、有無を言わさぬ迫力があった。

「出会い頭の戦闘のとおり、火薬を爆ぜさせて金属弾を発射する……、えっと、この世界のガンは通用しません」

「そこでなになら通用するかと問うているのだ」

「ああそうでした。ごめんなさい」ジュリエットの会話には、いつものキレがない。

 会議に参加する高官は、みな一様に、年端のいかぬ娘が歴戦のおやじたちから詰問責めにあえば萎縮するのも無理からぬこと、と認識しているだろうが、アドバイザとして参加した観月かんげつ博士だけは、『寝不足だからかな』と解釈している。実は、これが半分以上が正しかったりする。ジュリエット・メアリ・キャピュレットは、そんな殊勝な少女では残念ながらないのだった。

「〈ダンシィングウィル〉は、他の第二世界にくらべれば軍事技術的は劣る、という報告だったが、どうも疑うしかない。それとも、『あれで』劣るレベルなのかな」

 パックは銃弾を素手で防ぎ、防壁を切り裂き逃走した。

 怪我人一人として出ない状況ではあったが、銀河舞踏会に参加する観月からしてみても、けして他の第二世界に引けをとらない戦闘能力である。

 ジュリエットは推測だけど、と前置きをしてから言う。

「確信はないんですけど、将軍。だけど、あの攻撃と防御力は、ほかの第二世界から流用した技術で、その運用はパック個人の資質によるものじゃあないかなって思うな」

「して、その技術とは」

「ぼくにも、彼が使った軍事技術が皆目わからない」ジュリエットは小首を傾げた。

 一同に動揺が波紋する。

「ぼくもみんなと同様、パックの力には驚いてるよ。でも、同じことをしろと言われれば、ぼくにだってできるんだ。だから驚異的なのはむしろ、銃弾を弾いたり厚い扉を切り裂いたりする力ではなく――」ジュリエットは思い出すように、一瞬間を置いてから言った。「あの不可解な躰の動きさ」

「あの残像を伴う歩法か、ジュリエット」観月が尋ねた。

「うん。さらに、一瞬姿を消して、突然、別の場所に現れたりもしてたよね」ジュリエットは首を横に振った。「ぼくにはできない。いや、どんな魔法使いもできない。まだ開発されていないスピルだ。三次元プレパレート内での位置情報が確定していないかのような挙動、とでもいうような……」

「ほほーう。これはたまげたな」いつだって呑気そうな口調の人のよいおじさん――平田大佐が発言する。「まるで〈ダンシィングウィル〉が魔法を使えるようではないか。魔法を使えるのは君ら第一世界だけで、ゆえに第一世界なのではないのかね」

「その、はずなんですけど……。ホント、不思議です、あのパックって子は」そこでたまらず、ジュリエットが大きく口を開いた。あくびである。片手を添えて隠したものの、バレバレだ。

 歴戦のおじさんらに厳しい視線を一斉に浴びるジュリエットは、ウィンクして愛想笑いするものの、彼らのしかめっ面を見るに通用しなかった。

「幸い、標的は天女様の居場所を掴めてないとみる。が、油断は出来ない。二十四時間体勢で死守せよ」将軍が締めの挨拶。

「ぼくは」

「六時間の休息を与える。それまでに、パックとやらの対抗手段を捻り出せせ。以上だ」

「それ休息っていわないよね」

「以上だ」

 会議室の高官達が慌ただしく持ち場へ移動する。室内の人口密度が減っていくなか、平田大佐だけは目を細め(彼はいつも糸目だが)、謎の微笑を浮かべながらジュリエットを見つめていた。

「なんです、大佐。眠たげな美少女の横顔に惚れ惚れしましたか」ジュリエットは自室まで移動するのも時間の無駄だから、もうこのまま会議室で仮眠しようとデスクに突っ伏する。

「眠るならベッドに寝るとよい」

「うーん。これでぼくだって、責任を感じているわけで。うーん、むにゃむにゃ。もう食べられないよー……」

猫山ねこやま曹長、兎田うさぎだ軍曹」

「えっ……」

 ジュリエットは両サイドからぐいっと腕を捕まれる。

「特別ホテルへご案内さしあげろ」

「大佐殿。それはご休憩ですか。それともご宿泊」兎田軍曹が口を斜めにする。

「それは相手の出方次第だが、出入りの際はパパラッツィには気をつけろ」大佐が両手でカメラのジェスチャをする。

「親父ギャグ……」猫山曹長は表情を変えずに呟いた。

 こうして、ジュリエットは二人に両脇から抱え連れられていった。なんとなく、だだをこねておもちゃ売り場から連行される両親と子供のようである。

「まあ、たしかに。現状、パックの居場所もわからないのなら、唯一対抗策のジュリエットを自由にするのはまずい」観月が感想を漏らす。「そのうえ、あいつは門を開く鍵でもあるし、敵に手に落ちるわけにはいきませんよね」

 観月は平田大佐に同意を求めるも、彼はただ微笑を浮かべたままだ。

 その微笑の意味は、観月にはまだわからない。

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