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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十話 「ダークファンタジへの招待状 : vs. Pack Robin-Godfellow」
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アバンタイトル


   アバンタイトル


 銀河舞踏会から第三世界側のゲートをくぐり、通常空間に一番手に帰還したのは観月智一だった。

 毎度のことではあるが、出立の際、あるいは帰還の際、つまりゲートが開いている状態は、基地内で最大の警戒態勢。現に、観月は自動小銃で武装した十数名の兵士から銃口と戦士の視線を一斉に向けられている。

「あー、ども。ただいまぁ」そう言って愛想よく『おかえりなさい』と返された試しはない。

 次に帰還したのは駿河少尉だった。

 輪の状態をつくり、そこに銀河舞踏会へ続くワームホール――三次元プレパレートの膜をつくるハゴロモを通り抜け現れる。彼はしゅたっと優雅に着地。

 あとはジュリエットだけだ。

 そう、観月がなんの心配もなく、ただいつものように、と高をくくっていた矢先、ジュリエットが頭っからダイビング状態でハゴロモから飛び出してきた。まるで水族館でトレーナの合図で水面から飛び跳ねるイルカのように。ただ、イルカは華麗に潜水するが、ジュリエットは飛び出した勢いそのまま、額を床に擦らせた。「ひでぇぶ……」

 それも、招かれざる客をともに連れて――。

 観月は彼を知っている。

 年の頃十三歳ほど。女の子のようなかわいらしい顔立ちの少年で、いつも悪戯好きそうに笑っている。おかっぱ頭に、猫のようなつり目にライトグリーンの瞳。愛嬌たっぷりに頬を膨らせ、彼はジュリエットを踏みつけたまま世界一空気を読まない自己紹介をした。

「お呼びじゃないけどジャジャじゃーん。〈黒衣の世界ダンシィングウィル〉代表CEOにして、邪悪な妖精パック・ロビン=グッドウェロウでぇーす。気軽にパック、って呼んでね」

 パックが片目を瞑り、観月が床に叩きつけられたのとほぼ同時――駿河少尉が彼をかばったのだ――耳を塞ぎたくなるようなライフルの一斉掃射による激しい銃声が響いた。

 けたたましい音の暴力のなかで、観月は異世界の少年の奇妙な技を目撃する。

「はっはーん。石つぶて程度でどうにかできるぼくじゃあないんだな」パックは左手を開いて突き出す。「〈何者をも防ぐ妖精の左手〉」

 観月は目を疑った。

 弾丸がパックに着弾する直前、見えない薄い膜があるかのように、弾かれるわけでもなくぽろぽろと彼の足元にこぼれ落ちる。衣服に付着したスナック菓子の食べかすが落ちるようだった。

 嵐のようなライフルの射撃は続いている。

 耳をつんざくアラートが鳴り、ハンガ唯一の扉が閉鎖された。

 パックは原理不明な防御の手をやめ、ハンガ内を猫よりも敏捷に飛び回った。それも奇妙な動きだ。ただ素早いだけでなく、彼の姿が三重、四重に見え、ときには時間を飛ばしたかのようにパックが消えては現れる。天井から逆さにぶら下がり、壁に張り付き、床を駆ける。たとえるなら、グラフィック性能の劣ったPCで再生される動画のような状態だ。

 現実のフレームレートが足りていないとでも言うのか――。

 観月は身を伏せながら、〈ダンシィングウィル〉の未知の技術から目を離せずにいた。

「一発でも当てられたらお菓子あげるよぅ」あざ笑いながら、パックは警備隊に突入する。

 彼らが同士討ちを避け、武装をライフルからナイフへと持ち替える、そのわずかな瞬間に、兵士数人を抜き去り、パックはハンガ唯一の出入り口に達した。

 パックは日本刀を突き出す侍のように、右手を構える。

「〈何者をも貫く妖精の右手〉」〉

 対戦車ライフルの弾丸すら弾く分厚い扉が、ちょうど『人』の文字で三等分される。

 パックは振り返る。

「じゃあねぇ。バッハハーイ」

 パックは逃亡。

 警備隊は彼を追った。

 アラートはいまだに鳴り響いているし、うるさいことこの上ない。だが、ひとまずは味方の跳弾から怪我をする心配はなくなったようである。

 観月は重たい身をむくりと起こす。

「ありがとう、少尉。助かったよ」

「わたしは天女様の警護へ向かいます」駿河少尉はいまだ床に突っ伏したままの赤髪少女へ、非難ともとれる視線を向ける。「大きな〝貸し〟ですな」

 ジュリエットは視線だけ上向きに、申し訳なさそうに眉を垂らして言った。

「ごめん。大失態だ……」

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