chapter 8
8
銀河舞踏会は閉会した。
集まったバグフィルタ計画の紳士・淑女は、自分達の世界へいったん戻っていた。シンベリン王宮の別邸フォーマラウトもいまは照明を落とし、薄闇のなかしんと静まりかえっている。
残るのは、たった二人。
〈フィア・ノウ・モア〉の超人フィディーリ。同、モーガン。
モーガンは顎髭を撫でながら言う。
「謀らずとも計画どおり、となりましたな。イモージェン様」
「まさか。制限さえなければ結果はちがうものになっていたでしょう」フィディーリは、彼の前だけでは本来の顔で微笑んだ。「つまらない戦いをさせました。許してください」
「姫様のためのお役にたてれば、この老獪、なによりの誉れですわい」とモーガンは邸宅の隅々まで響くような大声で笑った。
「しかし……」モーガンは声をひそめる。「あの灰炎のジュリエットをたたきのめそうものなら、もはやわしのようなカテゴリCですら手に余す。殿下、仮に……、仮にですが、イノヴェーションズ最高の功労を〈フィア・ノウ・モア〉にもたらすというのでしたら――」
「承知しております」フィディーリは目の色を戦士へと変え、そして養父としてではなく部下としてモーガンに宣言する。「このカテゴリA、〈フィア・ノウ・モア〉が生んだ天才イモージェン・モリスエールならば、ジュリエットだろうと、『悪夢の王女だろうと』、遅れをとる気はありません」
モーガンは自分の軽率は発言を恥じ、恭しく頭を下げた。
ただ一言だけ、最後にフィディーリはこうも付け加えた。
「もっとも、切り札を用意しているのは、なにも我が世界だけではないのでしょうけれど」フィディーリは遠く、月明かりの指す天窓に視線を移す。「まずは〈ダンシィングウィル〉の奇妙な少年CEOから、〝メンデルス〟の経過報告を待ちましょう。そのための汚れ役だったのですから――」
※
ところで、中島の基地内が空前の緊急体勢に置かれているころ、天宮羽衣は〝謎のおじさま〟のプレゼントに興奮し、いまだに寝付けずにいた。
彼女はベッドに横になりながら、タブレットで使い方の解説動画を視聴中である。
すると、ふと赤い糸くずがタブレットに引っかかる。
摘まんで垂らしていると、頭から腰まで届くほどはある。
それは〝糸くず〟と表現するにはあまりにも上等で、もとは高価な生地かなにかのようでさえある。
しかし、その正体は高価な衣服のほつれではなく、
「あ、ジュリ恵の抜け毛」
であった。
第十話「ダークファンタジへの招待状 : vs. Pack Robin-Godfellow」へ続く。




