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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第九話 「自動人形の罠 : vs.Morgan」
67/112

chapter 6



 Bパート


   6


 電力が供給され、ハゴロモが輪をつくりワームホールが生成される。

 真っ赤なドレスを棚引かせ、同じくらい真っ赤な燃える焔のような赤毛の少女は、腰に両手をあてて出立の時を待っていた。

 彼女が振り返る。

「準備はできたかい」

「ジュリエット。舞踏会に出るときはまえもって予定を立ててくれ」野戦服の上からでもはっきりとわかるデヴっ腹を揺らしながら、観月は苦情を告げる。彼ほど野戦服が似合わない男もそうはいない。

「作戦計画立案書の書き方をお教えいたします」これまた別の意味で、彼もまた野戦服は似合わない。優雅に肩まで届く髪を靡かせて、駿河少尉が現れる。

「イベントホライズンの開き方を観察したいなら、ぼくの言うことを聞くんだねっ、ていったら快く協力してくれたよ。将軍は」

 観月が振り返ると、二階ほどの高さのコンソール・ルームから作戦を見守る将軍がいた。眉間に皺を寄せていて、この顔を〝快く〟と受け止めるあたり、ジュリエットの神経は、その細い腰よりも図太いのだろう。

「でもまたなんでこのタイミングで。ちょっと夜遅いんじゃないか」

「うーん。腹ごなし」ジュリエットが小首を傾げて――もしかしたらわざと可愛げをだして――呟いた。

「……なんだその理由」

「ほらみてー」ジュリエットは観月に背を見せる。そのドレスは、彼女の美しい背中を大胆に露出させ、細い腰をより細くきゅっと締め上げていた。

 が、その意図がわからない観月である。

「ほら、編み上げ紐の余りが、いつもよりも短いと思わない」

「……わかる、少尉」

「二、三センチほど」

「すげー……」

「きょうパーティがあってさ。あ、うぃーのね。それで食べ過ぎちゃったから。本気でイノヴェーションズと戦うと、一キロ、二キロは痩せるから、腹ごなしっていうか。ダイエット」

 最後の『ダイエット』のあたりが、やや疑問系で、それがよけいに観月をイラッとさせた。

「いいカゲン、このはた迷惑なマイペース女に怒っていいと思う、少尉」

「ウエストの紐をぎゅーっと締め上げてはいかがでしょうか、博士」

「よし」

「ちょ、ちょっと待った。ぼくまたなんかやらかしちゃった」

「あーやらかしたぜ。ホント君ってやつは、天然イライラ発生装置なんだから」

「そ、そんなことはじめていわれたんですけど」やや自覚ありなのか、たじろぐジュリエット。

「そりゃあずいぶんと優しい人たちに囲まれてたんだね」

「ぐぬぬ……」

「ジュリエット。君はもうすこし、自重ってのを覚えた方がいい。こと軍事に関しては、だ。これは遊びじゃないんだぞ。だいたいだな――」

 たまっていた鬱憤が吹き出したのか、観月の小言は休む間もなく排出される。口うるさい昔ながらのお母さん、な観月にとうとう絶えかねたのか、ジュリエットは突如、

「わーもー」

と両手を突き上げ、観月の小言を大声で跳ね返した。

「わかったよ。そこまで言うなら、ぼくにだって考えがあるんだからっ」

 博士と少尉は顔を見合わせる。

 言葉には出さないが、男二人はアイコンタクトで、「あ、これまた面倒なやつだ」と通じ合う。

「さあ、お二人とも、舞踏会へ参りましょうか」どこぞの上流階級のお嬢様か、というほど上品に微笑みながら、その口調もゆっくりと淑やかなものだった。

「な、なんの真似だ……、それ」

「ふふふ、嫌ですわ。博士様」

「ジュリエット……、俺の言いたいことはそういう意味じゃなくて――」

 観月の脂汗も知ってか知らずか、ジュリエット、駿河の二人は、舞踏会への常套句をはじめてします。

「さあて、みなさんご一緒に」教育テレビのお姉さん風に。

「未来を掴むはっ――」教育テレビのお兄さん風に。

「銀河舞踏かーい――ッ」ひな壇芸人風に。

 三人は光のなかに飛び込んだ。


 さて、まばゆい閃光を通り過ぎ、天地に銀河を敷き詰めた幻想的な舞踏会場に着地する。その周囲をぐるりと囲む観客席には、期待を裏切らないイノベーションズの面々が腰を下ろしていた。

 舞台の中央には、前回のまま、ロメオとロザラインを凍らせる〝氷結の焔塊えんかい〟が存在感を放っていたし、天井にはシャンデリアに見せかけたジュリエット探査装置――ヴェステブルマルクシステム――が吊っていた。

 ジュリエットはドレスの裾を両手でつまみ上げ、お辞儀する。

「ごきげんよう、みなさん。わたくしのためにお集まりいただいて、毎晩、恐れ入りますわ」

 イノヴェーションズのみなが、一様、ぽかんと無反応。

「ジュリエット……、別に君のためとか、そういう催しというわけじゃ……」

 ジュリエットは天使の微笑みのまま、頭を傾けるだけである。

「まっく妙な娘だが、いまにはじまったわけでもありません」嘆息を一つ。発言者は〈螺旋の世界フィア・ノウ・モア〉代表CEO、超人フィディーリである。

 切れ長の瞳が涼しげで、舞踏会では花も恥じらう乙女達の頬を朱に染める麗人。

「今宵は我が〈フィア・ノウ・モア〉がお相手いたす。出よ、モーガン」

「ほーほっほ。お呼びとあらば即なんとか、だわな」イノヴェーションの観覧席から、代表の呼び声に一人の男が立ち上がる。

 浅黒い肌に真っ白なひげを蓄え、小柄ながら筋骨隆々とした骨格に、白い兜に銀色甲冑姿。どことなく物語に登場する〝ドワーフ〟を連想させる老人だった。

「さあて、はじめるかの」男は観覧席からたった一度の跳躍で舞台まで飛び降りた。

「あのじいさん、驚異的な身体能力だな……」観月が驚嘆の声を小さく零す。「たしか、〈フィア・ノウ・モア〉って世界は、そういう超人を生み出す世界だったよな」

 観月の指摘は正解ではある。しかし、それだけならば実は幸運ですらある。

「たぶん、ちがうよ博士……」ジュリエットは視線をドワーフから外さずに言った。かと思えば、すぐさま「あっ、まちがえた」と独りごちてから、「いいえ、ちがいますわよ、博士」とにっこり微笑んで訂正。

「ジュリエット、もう、それはいいよ……」

「身体能力の高さはもちろんだが、いまのはさすがに人類としての種の力を超えていましょう」

「なら……」

「サイキック、マター……」ジュリエットはだれに聞こえるでもない小声で呟いた。

「ほっほっほ。わしの名はモーガン。キング・シンベリンに長らく使えてきた老いぼれだが、そこらの若者よりはずっと手強いと思い知るがよい。灰炎のお嬢ちゃん」モーガンの瞳は実年齢よりもずっと力強く若い。「エーテル通信」

 モーガンが右手を前にかざすと、そこに青白い光が収束する。

 それはみるみる、斧へと形作られていった。それも、モーガンとほぼ同等の全長はあり、どんな太い幹も一太刀で砕きそうな巨大な斧である。

 モーガンは片手でそれを軽く振ると、慣れた動作で軽々と肩に担ぐ。

「さあ、わしの武装はこれ一つ。そちらもお着替えの時間だぞ、灰炎のお嬢ちゃん」

「なにが武装はこれ一つ、だよ。嘘ばっかり。だいたいやることは想像――、じゃなかった」ジュリエットは声色を変えて。「存じておりますのよ。先ほどの跳躍もさることながら、カテゴリC以上のおじさまなのですのよね、ほほほ。ならばわたくしも全力をもってお相手いたしますわ。それが気配りと、慈愛と、空気を読める、ジュリエット・メアリ・キャプレットですもの。ラぁイドぉー」

 これは再演の拍手。

 ジュリエットは情報という概念の兵装をダウンロードする。

 頭の高い位置でくくった自慢の赤髪に、黄金のティアラがそっと乗る。

 花咲くように広がるドレスには繊細な花の刺繍が刻まれて、羽織ったマントは炎のようにゆらいでる。

 ヒール紐は白い腿までリボンのように結い合わせ、オトナセクシーに演出した。

 瞳の星はやっぱりおまけ。

 そして決まりのセリフで締めくくる。

「不屈の光は赤の焔。魔法男子、ジュリエットPM。バージョン1.04ですわ」

 舞踏会場にまたしても沈黙が支配して『この女はきっと、今夜ずっとこのキャラでとおすつもりなのだろうな』と全員が思った。

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