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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第九話 「自動人形の罠 : vs.Morgan」
65/112

chapter 4


   4


「おっじゃましまーす」

「おばさんこんばんはー。お久しぶりです、覚えてますか」

 予期せぬ来訪者の登場に、娘の帰りを待っていた天宮母は目を丸くした。

「なんか、ついてきちゃった……」羽衣は苦笑い。しかし母は、優しげににっこりと微笑んだ。

「お二人とも、今夜は食べていくでしょう。羽衣、準備できるまでお部屋へ案内して」

「やったぜー」遠慮ないジュリエットはもはやその気である。

「羽衣ちゃんのお部屋は二階なのぉ」空気を読まないウェスカーは、勝手に部屋を案内する。

「ちょーい。ってまったくもう……」

 状況に置いてけぼりなのは羽衣だ。どうやら母は心から歓迎しているようだし、友人二人は――たぶん遠慮というものを知らないから――素直に喜んだ。

 部屋にあがると、マイペースな彼女たちが感動の声をあげる。

 なにがそんなに嬉しいのかはわからない。

「中学いらいー。部屋いっぱいに羽衣ちゃんのにおいー」ウェスカーはラジオ体操のように深呼吸。

「やめなさい」

「せまーい」ジュリエットは部屋に入るなり、速攻でベッドにうつぶせで飛び込んだ。

「これが標準的な広さです」

 羽衣の部屋は小物が多い。基本的に物を棄てられない性分の彼女は物がたまる一方なのだが、整頓しているため散らかっているようにはみえない。

「ねーねー、二人っていつごろからお友達なの」ベッドに横になり、足をばたつかせながらジュリエットが尋ねる。

「えー、それはねぇ」両手を頬に添えながら、なぜか顔を赤らめるウェスカー。

「中一のとき、この子が転校してきたのよ」

「チューイチって。テンコーって」

「十三のときに、同じ学校に移籍した」羽衣が翻訳する。

「なるほどなー」

「羽衣ちゃん、アルバムあるー」ウェスカーが余計な提案をした。

「ええぇ、見るの……」

「なになに、アルバム」ジュリエットがむくっと身を起こす。

「ほらぁ、ジュリ恵が反応したじゃない」

「むふふ、観月君も写ってるよ」

「見たい見たい」

「まぁったく。ごはんできるまでよ」しぶしぶだが、羽衣は中学校の卒業アルバムをクロゼットから引っ張り出す。「ほらよ」

 わーと喜んで、ジュリエットとウェスカーは床に広げたアルバムをのぞき込む。

「えー、どこにうぃー写ってるの」

「うーん。まずは若かりし中一のころから。あっ、ウチ発見。若いわー。いまも若いけれど-」

「えっ、どれどれ」

「ここー」

「三つ編み。いまより子供っぽいね」

「三年もまえだから」羽衣の呟きは、二人には届かない。

「ちなみに、これが観月君」

「ぷー、お腹いっぱい。かわってない」

「しゅごいよねー。このころから立派なお腹してたんだもーん」

「あー。これ、うぃーと博士、一緒の写真だねっ」

「だからねによ」羽衣がそう言うと、二人が同時に振り返る。「いいじゃんべつに。三年間ずっと同じクラスだったんだから。同じ写真に写るんだって必然でしょーに」

「もう、羽衣ちゃんはいつだって観月君のことになると照れるんだから」

「て、照れてないし。あのデヴがなんだってのよ」

「だってー」

 旧知の親友のじゃれあいを横で眺めていたジュリエットが、その手の話には案外疎いにもかかわらず察して言った。

「そっか。うぃーって、博士のこと好きなのね」

「ちがうよ」

「えっ。なんでそんなに必死になの」

「なんでもよ」

「博士、いい人じゃん」

「趣味じゃない」

「趣味」と首を傾げる。

「もう。わたしにはすてきなおじさまがいるんだからー」

 羽衣が頭を抱えたちょうどそのとき、階下から母が三人を呼ぶ声が聞こえた。

 その後はごく普通の、ちょっといつもとちがう夕食になった。

 食卓にはいつの間にか帰宅していた父・天宮医師が座っていて、母、娘の三人のホームパーティは、マイペースな二人の友人によって、ずいぶんと賑やかになる。

 天宮医師は口数が少ないし、母はにこやかだが、多くは聞き役だった。天宮家では娘の羽衣がいつも話し手だが、今夜はもっとおしゃべりな友人が二人もいるから、会話が絶えることはなかった。

 食後のお茶を飲み干して、うるさい友人達はやっと帰る気になったようだ。

 天宮医師が車を出して二人が乗り込む。

 ジュリエットは車の窓を全開にして、見送りの羽衣に声を掛けた。

「ごちそうさまー。また明日ね」

「明日ねー」ウェスカーはその隣から手を振っている。

「さっさと帰れ」

 頃合いかと見計らった天宮医師が、車を発進させる。

 羽衣はテールランプを見届け、妙に疲れた夕食の終わりに安堵した。

「はー、なんか疲れたわ」

「羽衣」振り返ると、母が玄関から手招きしている。

 なにかと思い近づくと、母が言った。

「おじさまからプレゼント、届いているのよ」

 髪の毛が逆立つほど、羽衣は胸の中心から沸き満ちていく感情を自覚した。

 プレゼントはそっと母がよけていて、友人が帰宅した後そっと居間に移していた。それは一メートルほどの高さの段ボールに包まれている。

 焦る気持ちを抑えつつ、梱包用のバンドとガムテープをカッタで切断する。

 そうやって外装の段ボールをはぎ取ると、やっとプレゼントの全貌が露わになった。

「すごい……」思わず息をのんだ。

 Lアロセス社製大口径望遠鏡――。価格は四十万円を超える一品である。とても高校生には手が出ない本格仕様。重量があって屋外への持ち運びには不向きだが、設置場所さえ確保できるのならば、お値段以上の満足を得られること間違いない。

 プレゼントにはレターが同封されてあった。

 羽衣は破かないようそっと封のシールを剥がして目を通す。

 

 ――遅くなったが、高校入学おめでとう。アンド、十六歳の誕生日おめでとう。

外に出掛けるのもよろしいが、こいつなら部屋のベランダからでも充分だ。

いつだってきみの自室は天体観測所なのだから。


「おじさま……」恋する乙女のように――、もしからしたら本当に恋心を抱いているのかも知れない羽衣は、まだ見ぬ紳士にハグする代わりに、そのレターを胸に抱いた。

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