chapter 3
3
〈螺旋の世界フィア・ノウ・モア〉の住人は、先天的に高い身体能力と頭脳を約束されて生まれてくる。そのうえで、潜在能力を押し上げる理想都市設計のもと教育され、百八の第二世界でもっとも平均学習習熟度が高い世界となっている。
そのうえで得意とする戦闘スタイルは、スマート・ウェポンというAI搭載の自立兵器とのアイソレーテッド・システムの確立にある。
これがどれほど驚異的な戦術かは、ただ個の力を強化する〈エレガントキメラ〉の鬼石や、〈ムーンライト・セレネード〉の拡張身体・身体代替化、あるいはシステムこそ優秀であるものの、個人の資質に大きく依存する〈テンペスト〉のバイオネットワークらとは意を異にする。
このアイソレーテッドシステムに自分のDNAデータを組み込んだ〝カテゴリC〟の戦力は、単にスマート・ウェポンを操るだけの、たとえばさきのヤーキモーとばまるで別格である(ちなみに、ヤーキモーはカテゴリEである)。
フィディーリは次の舞踏会、このカテゴリCのエリートを踊らせるつもりでいた。
フィディーリの執務室の扉がノックされる。
「どうぞ」
現れたのは、フィディーリがもっとも信頼する人間の一人、モーガンである。
モーガンとは親子ほど歳が離れていて、フィディーリにとって、まさに父のような存在だ。風貌は、美少年のようなフィディーリとは対照的に、日に焼けた浅黒い肌に豊かな顎髭を蓄えた雄々しい姿の男である。
「お声がけいただき、光栄の限りですな」
「しかし、わたしは謝らなければなりません」
「なにを、姫殿下……」
すっとフィディーリは口元に人差し指を当てる。
「モーガン。ここでは、わたしはフィディーリです」
「これはわたしとしたことが」モーガンが頭を押さえて呵呵大笑。
「戦術目標は知ってのとおり、〈ダンシィングウィル〉の代表CEOをジュリエットの隠れ蓑へ送り出す」
「わたくしはその囮」
「ええ。本当に申し訳――」
「姫殿下」モーガンは、娘を諭す父のように優しく言った。「小言ばかり言われる宮廷に使えるより、ずっと愉快な任務です」
「ありがとう」フィディーリはモーガンの言葉に安堵する。
「かつてのわたしは、キング・シンベリンの寵愛を一身にうけ、勇猛さ、果敢さ、戦果の話題となればまずまっさきにこのモーガンの名が引き合いになり、それを誉れと考えておりました。しかしある夜、我が身よりも大事なイモージェン王女が、涙とともに姿を隠し、娘を幸せのなかに送り出せないと知ったとき、ふと自然に考えてしまった」
「なんて」
「私が代わりに、父になってしまおう、と」
「わたしはずっとそのつもりです」
フィディーリは、モーガンの頬に手を触れる。ふかふかのひげの感触が、まるで絨毯のようだった。
「モーガン、ここだけの話です。可能ならば、ジュリエットを捕獲してしまいましょう」
モーガンは目を丸くする。
「使っても、よろしいのですかな」
「わたしは期待しています。モーガンの強力な自動人形」
「しかし、その神髄は――」
フィディーリは髪留めを外した。
長い金髪が束縛から解放され、舞うように広がった。それは光を反射して、美しく色めき輝く。まるで汚れを知らぬ乙女のような長髪――、いや彼女こそ〈フィア・ノウ・モア〉が生んだ奇跡、イモージェン・モリスエールである。
「見せつけてやりましょう。我々の戦い方を」




