chapter 14
14
まばゆい閃光を通り過ぎ、目を開いたその先は、天地に銀河を敷き詰めた幻想的な舞踏会場。その周囲をぐるりと囲む観客席には、期待を裏切らないイノベーションズの面々が腰を下ろしていた。
舞踏会の中央には、前回の舞踏会のまま、氷結の焔塊が荘厳な彫刻のように置かれている。そのなかに、薄らと透けて氷付けにされるロメオとロザラインの二人の姿があった。
ジュリエットは観客席のイノヴェーションズを一通り見渡し、すべての双眸が自分に注目されていることを確認する。
気持ちを切り替え、ジュリエットは優雅に、しかしボウ・アンド・スクレープ。
「今宵お集まりの皆々様におかれましては、まず深い感謝を申し上げます」
「なにを言うかと思えば、貴女は――」コーディリアが声を震わせ、立ち上がる。
「おっとコーディリア王女、誤解なさらず。あいにくと、今宵は皆様に申し伝えたいことがありまして、残念ながら舞踏会はまた次回にしていただきたいと存じます」
コーディリアが言いかけた言葉を、ハムレットが制止する。
「聞かせもらおうか、灰炎のジュリエット」
「いま一番、ぼくに聞きたいことはなんだろうか。なぜロメオがロザラインの腕を掴んだ状態で凍りつかされているのか。なぜぼくが第一声にロザラインとつい呼んでしまったのか。あるいは、この美貌の秘訣」
イノヴェーションズは静かに、教官の講義に耳を傾けるようなきまじめな学生となって聞き入っていた。ジュリエットにとっては、もうすこし反応が欲しいところであったが。
「順番に、簡単にお答えしよう。
「まず、ロメオがロザラインの腕を掴んでいる理由。追う立場と追われる立場が逆だよねって話だ。これは簡単。見たままさ。ロザラインを連れ出そうとするロメオ様の図。うっとおしい彼女を倒すよりも、どこぞの宇宙に捨て去ったほうが手っ取り早いと考えただけだよ。
「その二。氷結の焔塊を発見したあのとき、ぼくの第一声がロザラインだったこと。あれはつい本心が出ちゃったよ。恨めしい女への、復讐の機会を得られた喜びをね。
「そして最期に、コーディリア王女が指摘したとおり、ぼくがロメオを愛していない、という件。そうか、王女様がまさか留学中にぼくと接触があったとはね。さっぱり記憶にないよ。だとしても、それは真実だと断言すると同時に、あらためて認識を訂正してもらうとしよう。
「この灰炎のジュリエット、ロメオなどという男には、これっぽちの愛情もない。悲劇のヒロインという名目が欲しかっただけさ。動機はわかりやすい方が、みんな勝手に納得してくれるだろ。その裏に真の狙いを隠しやすい。
「ぼくの目的はただ一つ。世界地図。あの忌々しいロザラインが、世界地図もろともロメオを凍りづけにさえしなければ、いまごろこんな苦労をせずにいたものの。
「まあいいさ。花が美しく咲くということは、あとはただ散りゆくのみ。いまが一番輝くロザライン。かわいそうでかわいそうで、殺しちゃいそうだ」
ジュリエットの長い、長い独白が終わった。
対決するだけの台詞を用意していた者はおらず、立ち上がる者はいなかった――、悪夢の王女を除いては。
「それでしまいかしら」コーディリアの声はすべてを透きとおすほどよく響いた。「偽りの誓いと貞淑を装い、正義の鞭を恐れ偽りまみれの大罪人が。震えながら戦え、恐れながら眠れ。悪は、もっとも相応しい場所へと、このコーディリアが裁く」
ジュリエットは短く笑った。
「それでは、また次の夜にお目にかかりましょう。レディ」
第八話「銀盤の天使は煤まみれ: vs. Miranda」へ続く。




