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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第七話 「悪夢 と 氷結 : Non Battle」
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chapter 13

   13


 ジュリエットはぼんやりと焦点の定まらない古いカメラ越しのような視界のなかで、二足歩行の熊(失礼)――ではなく、観月博士がなにか声を上げている姿を見た。壁一面が大ききな一枚ガラスで隔たれた向こう側は待合室のような空間らしく、こちらは処置室だろう。

 やっと意識が着地したようで、ジュリエットは状況を理解した。

 ジュリエットはハッカ飴のまずそうな緑色のスクラブに着替えられており、いくつかの計器に繋がれていた。そうそう、ワルキューレに意識を持っていかれたのだった、と思い出す。

 自動ドアが開き、観月博士が腹を揺らしながら駆け寄ってきた。

「ジュリエット。俺がわかるかい」観月は早口で問い詰める。

「一日五食食べる観月智一博士だ」

「ちがう……」観月は首を横に振る。「今日はすでに八食だ」

 観月は感極まった様子でジュリエットを抱きしめた。ジュリエットも、厚い彼の背中に手を回して抱き返す。暖かい体温と大きな背中に、本当に熊のようだ。

「あっちは寡黙で多趣味で猫山曹長。隣は筋肉だけど頭は切れる兎田軍曹。そしてぼくは世界一の美少女、灰炎のジュリエットだ」

「よかった。もう、目覚めないものかと」観月は瞳を潤ませて言う。

「心配かけたようだね。あれからどのくらい時間が経ったの」

「おおよそ七十二時間、というところかな」

「そんなにか」ジュリエットはベッドから足を床に下ろした。大丈夫、躰はちゃんと動く」

「待て待て、ジュリエット」観月がジュリエットの行く手を阻むように立ち回る。「どこへ行くつもりだ。これから精密検査を受けてもらうぞ」

「どこへって、そりゃあ舞踏会だよ」

「無茶言うな」

「無茶はへっちゃら。大丈夫、安心して。踊るつもりはない。ただ挨拶をしにいくだけだよ」

「挨拶って、ジュリエット……」観月は口を半分開けたままあきれている。「まあだいたい慣れてきてはいるよ、君のやり方にはさ」

「ついでに一つお願いを頼まれてくれるかい」

「なんなりと」あきらめた観月は、おどけて執事然として頭を下げる。

「とびっきり派手な衣装を用意してくれる。このジュリエットの美しさを際立たせる衣装をさ」

 ――と子供じみた要望をしてから小一時間。軍部はいわれたとおり、どこのセレブのパーティに参加しても恥ずかしくない衣装を用意してくれた。いったいどことつながりがある部隊なのだろうか、と逆に感心してしまうジュリエットだった。

「どう、ちょっと背中の露出が広すぎない」ハゴロモ前で、ジュリエットは着替えたドレス姿の感想を観月にもらう。

「まあ確かに……」

「エロスです」もう一人、駿河少尉が真顔で答える。

「ちょーい」とツッコミ(?)を入れる観月だが、ジュリエット本人は笑顔だ。

「ありがとう」

 ハゴロモがゆっくりと起動する。電流が通され、そこにジュリエットが目標地点を入力する。輪を形作るハゴロモの中心部で、観測不可能線が生まれはじめた。

「いろいろ説明したいことがあるんだ。イノヴェーションズのみんなも、たぶん、ぼくに聞きたいことが山ほどあるだろうし」

「だからってこのタイミングで出向くって、なんてやつだよ君は」

「その説明とやらは真実なのですか、ジュリエット嬢」

 ジュリエットは顔を背け、ハゴロモを見つめる。

「意味の無い質問だ、少尉」

「そうですね」

「ああ、ところで」ジュリエットはハゴロモを前に思い出す。「ハゴロモって、結局なんだろうね」

「過去、繁栄した種族のオーバテクノロジ――。実証もなにもないが、俺らはそうとしか考えられなかった」と観月は過去形で言う。

「しかしあなたの存在が通説を変えました」駿河少尉が割って入った。「宇宙が複数存在して、それらに共通してハゴロモが設置されているというのなら、人類を超越した存在を示唆します」

「ああ、そのとおりだ」ジュリエットはくすっと短く笑う。「でもそうじゃない」

「えっ」観月が頭を傾ける。

「ぼくがいいたいのは『だれが造ったか』じゃあなくて、『なんで造ったか』だよ」

「それは――、考えたこともなかった……」

「まあいいさ。幕は開けた。舞台を恐れちゃあ役者はやっていられない」

「演目は」

「銀河舞踏会――ッ」

 三人は光のなかに飛び込んだ。

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