chapter 11
11
観月が日課となりつつあるジュリエットの見舞いに訪れているとき、珍しい男が姿を見せた。
「駿河少尉」
肩まで届く優雅な長髪を揺らしながら、基地一番の美男子・駿河少尉が現れた。
「ご覧のとおり。いまだ眠り姫だよ」観月が声をかける。
彼は観月に並んで、大きな覗きガラス越しに、特別治療室の様子を伺った。ベッドのうえで、計器に繋がれた赤髪の少女が安らかに眠っている。バイタルサインが異常値なことを除いては、であるが。
ガラスを隔ててこちら側――、待機室のほうには観月と駿河のほか、ジュリエットの監視役の二人がいる。猫山曹長はタブレッドでずっとなにかを読んでいる。たまににやりと小さく笑っているから、真面目な戦術論の類いではなく、個人的な娯楽をお楽しみのようである。
一方、兎田軍曹は上半身裸で汗を流しながらスクワットを永遠と続けている。
「意外、と言っていいのかな」観月が興味本位で駿河少尉に訪ねた。
「これは警告だと考えています」
「と、言うと」
「天女様は、ジュリエットの対応に明確な答えを出さぬ我々を見かね、ご自身の手で奴を眠らせたのです」
「なるほど」駿河少尉らしい解釈だ、と観月は納得してしまう。
「そういう解釈っすか」二人の話しの間に入ったのは兎田軍曹だ。スクワットを続けつつ、話しかけた。「俺はどっちかっていうと、強制的に休ませただけかと。聞きましたぜ。お探しの恋人を、とうとう異空間で見つけたって。そりゃあなにを置いても駆け出したいでしょうよ」
「あんたが恋を語るとか……、草ぁ」猫山曹長が独り言のように呟く。
「うるせーよ姐さん」
「俺も同意見だ」観月が頷く。
「でもね、わたし、気がかり」猫山曹長がちらりと観月を見る。「どうして、ジュリエットの一言目が、『ロザライン』なのかしら」
「どういう意味だい、曹長」
「いいえ。不思議に思った、だけ。恋人と恋敵を同時に発見して、わたしなら、愛しの恋人の名を叫ぶけど」
「それよりロザラインのほうが憎かったってことじゃね」兎田軍曹が意見するが「てゆーか、わたしなら愛しの恋人をってか」
猫山曹長は、半笑いの兎田軍曹を脇腹を小突く。
「男の発想、ね」
「うーん。俺らにはあいにく、そういった経験がないからなぁ」観月が腹を撫でた。「少尉はどう思う」
「下手な行動解釈は、かえって死角を作ります」
「ジュリエットは敵じゃないよ。それで、猫山曹長にはわかるのかい。ロザラインの名を恋人よりもさきに口にした、ジュリエットの心境が」
猫山曹長はタブレットを見つめながら言う。
「そうね。シンプルに、考えるなら、答えもまたシンプルだけれど……」彼女は、はじめて視線をジュリエットに向けた。「いえ、それはちょっと、シンプルに、考えすぎ、よね。いろいろと、つじつまがあわなくなってくるし」
ぶつぶつと独りごちて、そのまま猫山曹長はまた読書に戻った。
意味がわからず、観月は兎田軍曹と目が合う。彼も肩をすくめた。姐さんにまともな意見を求めてもしょーがないですぜ、と言っているようだ。
観月はもう一度ジュリエットの顔に目を向ける。
死んでいるような美しさだった。
……そのころジュリエットの意識は、除却次元のどこかにあった。




