chapter 7
7
「しかし驚いたな。コーディリア王女と氷結のロザラインが、まさかそれほどまでに親しげな間柄だったとはな。ユニバーシティで見かけたことはなかったのか、オフィーリア」
桔梗色の長髪を櫛で丁寧にとかしながら、オフィーリアは微笑みながら首を横に振った。
ここはハムレットの世界、〈ムーンライト・セレネード〉の花の庭園。手入れされた美しい花々が豊かに咲き誇る、王族の離宮である。なかでも深緑の並木通りは、強い日差しを柔らかに遮り、涼しげな風を運ぶハムレットの気に入りのスポットである。
ハムレットとオフィーリアは、ここでテーブルを並べ、優雅なティータイムを楽しんでいた。
「わたくしも危ないところでした。帰国があと一時でも遅ければ、こうしてハムレット様と紅茶の香りをともに楽しむこともできませんでした。しかし他世界の代表CEOは納得されたのですか、氷結の焔塊について」
「納得はできなくともリスクは負えんさ。氷結の焔塊を通常空間に移送すれば〝氷結の焔の燃焼が再び始まる〟と知ればな」ハムレットはティポッドから紅茶を注ぐ。花が広がるような甘い香りが鼻孔を刺激する。「しかしよく気が回った、オフィーリア」
「すべてはハムレット様のために」オフィーリアは、ハムレットの手に手を重ねる。
撫でるような柔らかな風が吹いた。
重ねた手を、二人は指を絡み合わせ繋ぎ直す。
そして、自然と顔が近づいて――、
「殿下――ッ」巨漢の呼び声が、割って入った。
ハムレットは声の主を向く。抑えきれないわずかな苦い顔をして。
「間の悪い男だな。ギルデン、ローゼン」
「はて、なんのことでしょうか」
静かな恋人の淡い一時に、情緒の欠片もない街宣車が停車して演説をはじめだしたようなものである。
現れたのは二人の男。
横に広い巨漢ローゼンと、縦に長い巨漢ギルデンである。
「まあいい。その様子だと、やつらを黙らせるに充分な検証は得られたようだな」
「こちらをご覧下さい、はい」ギルデンが額のハンカチを拭いながら、テーブルの上にクリスタルディスクの中身を展開する。
データは、氷結の焔塊を通常空間に移送した際に起こりうるシミュレーション結果である。
空間投影されているが、暗号化されているため第三者視点からは虹色にしかディスプレイされない。
ハムレットはさっとだが最後まで目をとおすと、期待どおりの結果に満足する。
「オフィーリアの感は正しかった、ということか」
主人の期待に応えられたようで、ギルデンは自慢げに解説する。
「はい。氷結の焔は、マイナスのエナジィによる展開・冷却現象と、スーパアリス・テクノロジによる収束・燃焼現象、それらを同時に行うことによって顕現するスピルです、はい」
詳細をローゼンが続ける。
「つまり、超高速でエナジィを飛ばして、現在が未来の燃焼現象に到達しつつ、ミュセドーラス=アマダイン・モードを仲介させ、エナジィを除却次元に廃棄すのですぞ。しかし、銀河舞踏会でのミュセドーラス=アマダイン・モードの振舞いは、実際のところよくわかっておらんのですぞ」
最後はオフィーリアが締めた。
「氷結の焔塊が安定状態にあるように見えても、けしてエナジィの交換が行われていない保証はありません。通常空間内に移相したとたん――」
「再加熱……、か。吉報でもあり、凶報でもあるな。致し方あるまい。当初の計画に舵を戻すか。物語はそうそう盤上の駒のようには進まぬようだ」
「それではハムレット様……」
「しかし依然として氷結の焔塊は我らの手中。〝メンデルス〟の報告とその進捗状況によっては……。あとは悪夢の王女の出方しだいさ」
ハムレットは口元をつり上げ、小さく冷笑した。
「我々はいかにあるべきかを知るも、いかになるべきかは知らぬ。なんという傑作か、人間はという生き物は」




