アバンタイトル
アバンタイトル
おおよそ、最大全長三メートル、横二メートル。
エメラルド色の美しい海のような色をしたソリッド・ファイア――〝氷結の焔塊〟には、海中を切り取って固めたように、二人の人間を生きたまま閉じ込めていた。
ジュリエットの恋人、魔神ロメオ。
コーディリアの唯一の友人、氷結のロザライン。
「いいか、ジュリエット」コーディリアは自慢の金髪が乱れるのも、上等なドレスが煤まみれになるのもいとわず、憎き赤の魔女の名を呪うように吐き捨てる。「どれほどの悪事もいずれ明るみに引き出される。正当な裁きを受けず逃れる罪人などありはしない」
「ぼくは――」ジュリエットは反論しかけて、しかし口を噤んだ。
コーディリアはイベントホライズンの輪を潜るまで、強くジュリエットを睨み続けていた。
「ぼくは……。じゃあどうすればよかったんだよ……」イノベーションズが全員撤退したあと、残されたジュリエットは両手で顔を覆い、懺悔するように呟いた。
銀河舞踏会はもはや限界だった。空間がクッキーの家のように、あちこちのように亀裂が入り、崩れ落ちている。
手を伸ばせば触れられるのに、後方では観月が懇願するように叫んでいた。
わかっている、
わかっているがしかし――。
「ジュリエット嬢、撤退を」
「このままじゃあヤバい。それだけはわかる」
苦渋の決断を迫られたジュリエットが取った行動は、
「ええい――、撤退するッ」
それ以外に、道はなかった。
開いたゲートに、ジュリエットは二人を抱えて飛び込んだ。
間一髪だったといえるだろう。
あと数瞬とどまっていれば、空間ごと躰を切り裂かれていたか、あるいは帰り道を失って遭難するところであった。
「ぶへぇえ――」観月は勢いあまって顔面で着地する。
ヒダカミドウ側のゲートから、無事に通常空間に三人は戻った。
「ま、間に合った……。今回は急展開過ぎて、なにがなにやら……」身を起こした観月は、ジュリエットの目を見て悟った。「ジュリエット。お前まさか」
「義理は果たした」
いつもの愛嬌たっぷりのブルーアイズではない。
目が本気だ。
すぐにでも引き返すつもりでいる――ッ。
「やめろジュリエット。いまの君は平静じゃあない」
「はなしてくれ、博士」
「将軍、電力の供給を遮断して――」駿河が援護を求めた声が、途中でとまった。
その理由を、観月もすぐ理解することになる。
白い手がぬっと顔を横切った。
なおも暴れるジュリエットの額に、その指先が触れる。
ジュリエットと〝彼女〟の目が合った。
「ワ、ワルキューレ様――」
その言葉を最後に、がくりと全身の力を失ってジュリエットが崩れ倒れた。まるで糸を切った操り人形のように。
観月はジュリエットを支え、ゆっくりと床に寝かせる。
天女はちらりとジュリエットに目をやっただけで、音もなくきびすを返す。そのままゲート格納庫を後にした。
残された観月はずり落ちた眼鏡を直して独りごちた。
「濃い一夜だなぁ」




