表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第六話 「本日解禁 正式兵装版 : vs. Edmund. Part 2」
32/112

chapter 7

     7


 起動中のハゴロモを前に、駿河少尉はすでに待機していた。

 彼の涼しげな視線と、ジュリエットの碧眼が交差する。

 ジュリエットは真っ赤なドレスを棚引かせ、ハイヒールで床を鳴らした。

「お待たせっ」

「気落ちしていると聞きましたが、取り戻した様子で」

「まだ本調子じゃあないさ。気晴らしにでもって、ばっちり決めてきたけど。どう」ジュリエットはくるりと回ってみせる。

 駿河少尉は黙って視線を外した。

「連れないな、まったく」

「俺は似合うと想うよ、ジュリエット」でっぷりとした腹を撫でながら、観月だけは褒めてくれた。こういったことを自然体で言ってくれる彼は、見た目より年上の紳士のようだ。

「ありがとう。やっぱり女の子は、元気なほうがかわいいでしょう」にかっ、とジュリエットは笑って、両手の人差し指を頬に指す。 

「ああ。辛くたって、笑って、顔を上げて、俺たちは進まなくちゃならない。欲しいものがあるのなら」

 三人は同時に頷く。

「希望のさきは」

「銀河舞踏――」

 三人は光の輪に飛び込んだ。

 まばゆい閃光を通り過ぎ、天地に銀河を敷き詰めた幻想的な舞踏会場に着地する。その周囲をぐるりと囲む観客席には、期待を裏切らないイノベーションズの面々が腰を下ろしていた。

 もはや見慣れた光景に、実家のような安心感。

 だれもいなかったら、寂しいくらいでさえある。

「ただいま。毎度々々、ぼくためにわざわざありがとう」

 さっそく一言目から挑発しよりよる、しよりよる、という観月の冷や汗も知らず、ジュリエットはイノベーションズに手を振った。

「相変わらず小うるさい娘だこと」答えたのは、どこの舞踏会に参加しても恥ずかしくない、豪奢な乳白色のドレスを着用したコーディリアだった。

「コーディリア王女……、ということは」

「今宵、あなたの相手をするのは」コーディリアが高らかに宣言する。「我が騎士、エドマンド――」

 拝命を受けた騎士が舞踏会に降り立った。

 黒の燕尾服を着用した青年――。ジュリエットの初戦の相手でもある、鬼神エドマンドだ。

 さすがのジュリエットも、騎士の眼光を前には気圧される。軽口を叩く気は、もはやなかった。

「君が相手か。こいつぁしんどいぜ……」

「知っている相手か」観月博士が聞く。

「博士たちの世界に着くまえに一戦交えた、〈エレガント・キメラ〉出身の騎士だよ」

「騎士――」観月が驚く。それもむりはない。

「ああ。コーディリア王女だけは、手加減なしなんだ」

 コーディリアはジュリエットを見下ろし、二人の視線が交差する。

「愚かなわたしは、初戦は貴女を見くびっていたと告白しよう」エドマンドが言う。「だが、今回はちがう。出し惜しみなどしないと、あらかじめ忠告する」

「オーケイ。お互い、悔いのないように戦おう」

 エドマンドが右手を前にかざすと、そこに青白い光が集う。

「エーテル通信――」現れたのは、サファイア色に輝く美しい宝石。「いくぞ。ペルセウス」

 握りしめた宝石――強靱な肉体を持ち、かつて宇宙に繁栄を極めた種族の化石――鬼石の能力の第一段階が開放される。

「エドマンドR1」鬼石はあらゆる宝剣にも勝る美しい剣に姿を変え、エドマンドはその剣先をジュリエットに向けた。「くるがよい。我が忠義に勝るというのならな。灰炎のジュリエット」

「忠義」ジュリエットはふっと短く笑う。「そんなんじゃあぼくには敵わない。警戒は無用のようだね」

「なに――」

「人間ってのはさ、結局は他人のために働くときが一番パワーを出せんるんだぜ。だってそうだろう。自分のためなら、自分さえ我慢しちゃえばそれで解決。ちがうかい」

「なら貴様は、なんのために戦う」

「愛だ」ジュリエットはせいいっぱいの声を張り上げる。

 舞踏会の全員が、一瞬、息をするのも忘れる。

「……なん、だと」

「ぼくはロメオ様のために戦うし。ロメオさまもぼくを求める。一方通行の忠義じゃあ、ぼくは倒せないぜ。なんてって、ぼくは七つの世界を敵に回すほどのでっかい愛を原動力に戦う、ジュリエット・メアリ・キャピュレットなんだからな。ライドー」

 これは開演の拍手。

 ジュリエットは情報という概念の兵装をダウンロードする。

 束ねる髪留めは外れ、燃えさかる焔のようにグラデーションがかかる長い髪。

 赤を基調としたドレスは全身を包み込む。

 踵の高いヒールをピンと履きこなし、胸におっきなリボンが花開く。

 瞳に星が光るのは最後のおまけ。

 そして決まりのセリフで締めくくる。

「不屈の光は赤の焔。魔法男子、ベータ・ジュリエット」

「よくぞ――」

 エドマンドが一足飛びに距離を詰める。

 鬼石の力を解放した騎士の身体能力は、生身の肉体を遙かに超える。それぞれの世界がそれぞれの科学技術で戦闘能力を高めるなか、鬼石の力を引き出せる〈エレガント・キメラ〉は、頭一つ抜きんでている。

 とくに、エドマンドがもつペルセウスの等級は、トリプルエクセレント。最高級の鬼石だ。

 これを真っ向から受け止める者は七つの世界を探しても、愚か者か、もしくは――、

「炎の剣。ジュリエットレーピア」

 ジュリエットしかいない。

 サファイア色と焔が打ち合った。

「レーピアで鍔迫り合いですって……」相変わらずでたらめなジュリエットの戦闘スタイルに、コーディリアは苛立ちを隠せない。

「いまさらですが、しかし」フィディーリもあきれ顔だ。

「そこがジュリジュリのいいとこじゃん」こちらも相変わらずのパック。

「あれはあれで、やっかいなんだがな」となぜか評価するプロスペロ。

「剣技ではこちらに分がありますが」ハムレットは、コーディリアが騎士にどのような指示を出すのか伺った。さあ、どう動かれますかな、と。

「エドマンド」コーディリは立ち上がって騎士に厳命する。「ねじ伏せろ」

 その声が届くか否か、エドマンドはぐっとジュリエットを押す。

 彼女が負けじと押し返す瞬間を見逃さず、エドマンドは躰を引き、刹那、間合いを作り、その流れのまま左打つ――〝裏引き〟。

 たしかに、剣技は圧倒的にエドマンドに軍配が上がる。

 一方、ジュリエットには魔法を使った、変則的な攻防がある。

「なっ――」

 ジュリエットはしなやかな細い足を伸ばし、エドマンドの刀身をヒールで受けていた。

 エドマンドが小さく舌打ち。肺いっぱいに酸素を取り込むと、裂帛の気合いとともに、腰を据え連続で打ち込んだ。

 嵐のような斬撃。

 エドマンドは呼吸が続くまで打ち続けた。

 だが、そのすべてをジュリエットはヒールで受け止める。

 我慢ならず、酸素を求めてエドマンドは後方に飛び、距離を取った。

 肩で息をするエドマンドに、ジュリエットはすっと伸ばした足を、真っ直ぐ地に下ろす。

「足癖の悪い娘だな、貴女は」

「育ちの悪さは、言わないお約束」

「ふんっ」エドマンドは血振りするように空を切り、ペルセウスを刀剣化から解除した。

「おやや。君も足技で戦うかい」

「わたしは騎士だ。これ以外、なにもない」

 意図を理解し、ジュリエットは連れの二人に振り返る。

「二人とも、今夜の舞踏会、途中退場するならこのタイミングしかないけど。どうする」

「いまさらなんだよ。危険は承知のうえだ」観月の言い分はその通りなのだが……。

「どうやら、本来の力を魅せてもらえるようです」駿河少尉の推察は正しかった。「情報崩壊状態は、ジュリエット嬢の大技で引き起こされますが、それに至らずとも、彼らは武装制限されているのです。今夜は、その限りではないということでしょう」

「察しがいい。DWの騎士よ。これからは、こちらの姿で戦わせてもらうぞ。ペルセウス――」

 エドマンドの右手が一際、青く輝いた。

 サファイヤ色の光が、エドマンドの前身を照らしていると、徐々に、その光が身に纏うように硬化していく。

 流麗なシルエットに、つい触れたくなるほどの光沢。

 しかし美しさと同居するのは、恐ろしいほどの禍々しさ。

 鬼を連想させる頭部の二本の角に、兜はすさまじい狂気を宿した般若を思わせる面構え。

 全長は4メートルを越えた。甲冑を着込む、というよりか乗込むに近い。強化外骨格の一つの到達点と言える生物兵器――。

 それが、

「エドマンド、R2――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ