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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第六話 「本日解禁 正式兵装版 : vs. Edmund. Part 2」
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chapter 5

   5


「うーむ、ジュリエット嬢の様子がですなぁ」わりと呑気な口調なのはいつものこと。基地副司令の平田大佐は、観月の報告を真に受け止めてこの反応である。

 昼間、学校の食堂で羽衣に諭されるまでもなく、観月にもジュリエットの異変には気づいてた。さすがにそこまでボンクラでもなければ、人でなしでもなかった。

「精神科医に、診てもらった方がいいのかもしれません」

「それは、治療という体裁をとった情報収集ですかなあ」

「ぼくが一度でも、そういった回りくどいやり方の提案をしたことがありますか、大佐」観月がむっと肉厚の頬を膨らませる。

「ありませんな」

「わかって言ってる大佐も人が悪い。というより、これ、なんの訓練です」観月は眼前の理解できない光景を見ながら言った。

 観月から巨大な一枚窓を隔てて向こう側には、テニスコート二つ分くらいの多目的トレーニングルームのような空間が広がっている。不思議なのは、そこが異様なほど壁や天井が白いことで、猫山曹長と兎田軍曹が、これまた真っ白なTシャツに短パン姿でウォーミングアップをしているのだ。

 洗濯洗剤のコマーシャルの撮影、と説明されたら納得してしまいそうだ。

「各個人に公開される情報には、階層によって制限されております」

 つまり、退出しろということだ。

 平田大佐がスピーカをオンにして、猫山・兎田のトレーニングルーム側に指示を出す。

「そろそろアップも終了だ。張り切っていこうじゃあないか」大佐が笑顔のまま、しかし目は笑わずに慇懃に退出を促した。「ここからは秘密事項です、博士」

 猫のようにつまみ出された観月智一の背後で、音を立てて扉が閉まる。

 たぶん、ノックをしてもロックは解除されないだろう。

 もともと民間人の部外者だ。

 そう考えれば、むしろ軍部から提示される情報量は、破格ともいえる。それだけ観月の能力を高く評価されているわけなのだが……。

 目の前で情報制限されると、若干、寂しさを感じないわけでもない。

 なにか一言でも助言できるだろうに、と。

 まあ、各々パフォーマンスを最大の出力で発揮できる環境を与えることこそ、組織の役目だ。

 君には役不足(正しい用法)だから、と前向きに考え直して自分の職務に取りかかろう。

 観月は分厚い顎肉を撫でながら、次の行動を決定する。

 相手は基地所属の軍医だった。

「ジュリエットの様子が、ですね」軍医の男は穏やかな物腰で、ゆっくりと観月の話に耳を傾けてくれた。

「まっとうな精神状態でなければ、こちらとしても不利益です。そりゃあ追われる身の彼女ですよ。ですが、ふだんはただ強がっているだけで、人目のないところで、ひとり膝を抱いて涙を流しているんじゃないか、って想像すると、どうも、調子が狂うっていうか……」

「博士は人情家ですな」

「すみません。結局、話を聞いて欲しいと悩んでいるのは、どうやらぼくのほうらしい」観月は無造作に後頭部を掻いた。

「おっしゃることはわかります。しかし博士、お忘れなく。我々は難民キャンプのボランティアではありません。彼女に宿とパンを与えるのは、その見返りを期待しての、職務以上も、以下でもありません」

 がつん、と頭をハンマで殴られたような衝撃だった。

 その衝撃を感じたことで、さらに衝撃を受けた。

 任務を忘れてなに青春野郎を気取っているのだ、という不甲斐なさと、それを指摘されて本気で失望するほど、自分が学生生活を気に入っていたことだった。

「忘れていました。ええ、自分としたことが。目を覚まさないといけませんね」観月が立ち上がると、拷問に耐え抜いた兵士のようにパイプ椅子が軋んだ音をする。

「彼女が恋人のために世界に宣戦布告したように、ぼくにだって……。〝お嬢さん〟はご自宅ではどんな様子で」

「きっと、学校と変わりなく」軍医は口元に皺を作って微笑む。

「その平和を維持するのも、壊すのも、たぶんジュリエット次第かな」

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