アバンタイトル
アバンタイトル
ロザラインはキャンパスで目立つ方ではなかった。むしろ控えめで物陰に隠れるようなタイプの女の子だ。
ゆるやかなウェーブのかかった栗色の髪が特徴的で、いつも困ったような顔をしている。人見知りで、気弱で、成功によるペイよりもリスクに対する防御にコストを掛ける安全側な堅実派。なのに、好奇心は強く、行動派で、いちど好いた相手にはとことんなつっこい。
だから、彼女に見つかったら最後。
いつも顔を合わせると、ロザラインは帰りを待っていた従順なお座敷犬のように笑顔で駆け寄ってくる。
ほら、きょうも彼女は手を振りながら名を呼んいる。
「おはよう、『――』」
はっとなって目を覚ました。
夢だった。
嫌な、夢だ。
無意識的に、右手が天井に向かって伸ばしていた。
寝起きの直後が一番辛い。
魂が躰から離れようとしている。こいつを引き留めるのが毎朝の日課だ。といっても、日も届かぬ地下に建設されたこの部屋では、時刻はわからないのだが。
室内は閉店後の水族館のようだ。暗闇の軍勢が支配する領域で、天井の照明が仄かに青白い残光を放っている。
身を起こすと、汗で躰に纏わり付く長い髪が鬱陶しい。
自分の髪だろうか、という疑問。
それを払う、か弱い指も自分のものだろうか、というまた疑問――。
ポップアップする通知をすべて無視。
ベッドから足を下ろすと、モーションに反応してフットライトが点灯する。すらりと白い足を指の先までライトが照らした。
思わずため息が出る。
少女の悩まし気な、儚い吐息だ。
シャワータイムはもっと辛い。
シャワーヘッドをフックに掛けたまま、熱いお湯を数分間、頭からかけ続ける。
浴室が湯気でいっぱいになった。曇った姿見をきゅっと手で拭き取ると、陰鬱な赤い髪の少女がいつだって映っている。
全体的には細いシルエット。
女性的な丸みがあるものの、衣服をまとえばそれも隠れてしまうような幼い体つき。少年のようだ。それでも裸身のいまは、括れた腰に、思いの外豊かな乳房、美しい曲線が露わになっている。
自分の躰を眺めるとき、少女はいつも陰鬱な瞳をしている。
ジュリエット・メアリ・キャピュレットの朝は、いつも辛い。




