chapter 9
9
まばゆい閃光を通り過ぎ、目を開いたその先は、天地に銀河を敷き詰めた幻想的な舞踏会場。その周囲をぐるりと囲む観客席には、期待を裏切らないイノベーションズの面々が腰を下ろしていた。
もはや見慣れた光景過ぎてなんとも思わなくなっていた。
たまにはこちらが先に到着したいものだ。
「さあ、きょうのお相手は誰」ジュリエットはよく通る声で、イノヴェーションズの面々に問いかけた。「順番から言うと、最後は〈ダンシィングウィル〉っぽいけど、大丈夫」
「大丈夫って。ジュリエット」観月がこそっとジュリエットに耳打ちする。
「〈ダンシィングウィル〉は戦争のない世界だから。戦える人はいないんだよ」
なにかを説明するときのジュリエットは、心なしか自慢げである。
そのやりとりは聞こえていたのか、今回のメインホストが立ち上がった。
少女のようなきれいな顔立ちの、まだ年端もいかぬ少年。
「ぼくは〈黒衣の世界ダンシィングウィル〉代表CEO、パック・ロビン=グットウェロウ。気軽にパックって呼んでね」ライトグリーンの瞳でウィンクするパック。
「パックー」ジュリエットがさっそく気軽に呼んだ。
「でもでもぉ、ジュリジュリの解説どおり、〈ダンシィングウィル〉には戦士がいませーん。そこで、ぼくは代役をお願いしたのでーす」パックはいまからとびっきりのいたずらを披露します、と言わんばかりの笑顔で言った。「〈ムーンライト・セレネード〉から、技術主任のお二人、でこぼこブラザーズでーす。どうぞー」
「はいどもー」となぜか低姿勢で拍手しながら二人の男が登場した。
なんとなく、漫才師のようだ。
「ギルデンです」長身痩躯で、縦長な男が言う。
「ローゼンです」低身長肥満体で、横長の男が言う。
「二人合わせてでこぼこブラザーズ――、ってどっちがぼこの方やっ」
男二人が声をそろえて互いの肩に平手打ち。
こりゃあアクの強いのが来たなぁ、と観月が口をあんぐり開けた。
ジュリエットは、というとカルチャショックだったのか変な姿勢のまま固まっている。
うすうす気づいていたが、ジュリエットの世界には〝お笑い〟的なエンタテーメント文化が浸透していないらしい。
「ふふふ、わたくしどもが登場したからには、ジュリエット氏。年貢の納め時の納品時ですなぁ」
「左様、左様。もはや逃げ場なしのドンズマリ。思わず柄にもなくデュフフ笑いが出てしまいますなぁ、デュフフ」
二人の奇っ怪な含み笑いの後ろ側、CEO用の最高席では、コーディリアが半目で彼らの上司に疑いの目を向けた。
「あれはどういう算段ですの、剣の王子さま」美人が台無しなほど、コーディリアの顔を引き尽かせる。
「パック殿きっての頼みでして」ハムレットは眉間を押さえながら苦し言い訳。「ただご安心を。ギルデン、ローゼンともに、我が世界随一の科学者であることには違いません。この戦闘で、有用な情報を収められることは保証いたします」
「という狙いがあって、あなたは舞踏権を譲渡したのかしら。パック」
「ぷぷぷー。まさかねー」パックは両拳で口元を隠すが、目が完全に笑っている。
期待されない二人だが、当の本人らはいたって自信満々だ。
「さあ、我が科学力を駆使した最高の兵器をごらんにいれましょう」
「灰炎のジュリエット氏、あなたもいまのうちに兵装を整えるがよい」
はっと石化から回復したジュリエットが我に返る。
「そ、そうだ。君らのコ、コント。漫才。ってのに一撃もらっちゃたけど、ここから挽回してやる。なんたって、こっちだってサプライズを用意しているんだかね」ジュリエットはチラリと駿河少尉を視線に入れる。
例の隠し事、というやつだ。
「女の子はね、通常の男の子の三倍は早く成長するんだよ。それがぼくの場合なら、なおのことさ。刮目してみるがいい。我こそは、ジュリエット・メアリ・キャピレットである。ライドー」
これは開演の拍手。
ジュリエットは情報という概念の兵装をダウンロードする。
束ねる髪留めは外れ、燃えさかる焔のようにグラデーションがかかる長い髪。
赤を基調としたドレスは全身を包み込む。
踵の高いヒールをピンと履きこなし、胸におっきなリボンが花開く。
瞳に星が光るのは最後のおまけ。
そして決まりのセリフで締めくくる。
「不屈の光は赤の焔。魔法男子、ベータ・ジュリエット」
ここまではテンプレ展開。
さて――、
「ならば我々も。ギルデン氏」
「ゆこう、ローゼン氏」
「せーのっ」二人は手をかざし、コマンド入力。「エーテル通信」
青白い光とともに、開放しているポートから物質を構成する粒子が送られる。それが銀河舞踏会に到着すると、マクロな物質として再構築される。
マクロスケールの三次元物質は、すべてその過程を経て銀河舞踏会に送られるのだ。生身の人間も同様の原理で、である。
ただし、生物とちがって、魂をもたない機械はやや乱暴にゲートに押し込むことができる。
ギルデン、ローゼンの二人も、自作したのであろう兵器を連続召喚するようだ。
完全状態化した武器は、砲身が身の丈もあろうかという代物。
「今夜のために開発した、アンチ・ジュリエット・ライフルです」
「こちら、あなたのためだけに、開発いたしました」
「ぜひ打ちたい」
「もちろんライフルですから、専用の弾丸も必要ですね。はい、エーテル通信」
「なんとこちら、宇宙船の装甲の補修にも使われるもので、自由な形で一瞬で硬化。その強度、鋼鉄並なんです」
「ただこれだと一発ずつしか撃てませんねぇ。もっとたくさん打ちたーい、という方、いらっしゃると思いますが」
「はい、そこでエーテル通信」
「今夜は特別に、十二門のミサイル発射管をおつけしちゃいます。これ見て下さい。ほら、ボタン一つで、簡単、全弾発射。もちろん単発モードもございます」
「攻撃は完璧とうことですか」
「それだけじゃあございません。これで終わりかとお思いでしょう。ちがいます。こちら」
「おつけいたします」
「エーテル通信」
青白い光――、以下省略。
「なんと、光格防御シールド、豪華四点セットをつけるんです」
「耐熱、耐圧、耐冷、耐爆の四点アタッチメント。もちろん取っ手もおつけますよ。ワンタッチで付け外し簡単」
「ですから、お相手によって付け替えできて、収納が楽なんです。いまならカラーも四色。ウルトラピンク、ホットピンク、ベビーピンク、チェリーピンク」
「お好きな色をお選び下さい。でもね」
「でもね」
「まだつけちゃうんです」
「これだけあるとお手入れが大変になってしまいますから、無料メンテナンスサポートをお付けします」
「専門のサポートがあれば安心ですよね」
「今夜お集まりのみなさんだけは、特別、十二ヶ月サポート」
「十二ヶ月ーッ」
「だったらもうひとつ買っちゃおうというのがお買い得です。いまならもう二個同時購入のお客様限定で五十パーセント割引。はい、ずどん、エーテル通――」
とそのとき、
ピー――。
なにかの計器がアラートを鳴らしたようだった。
否、『ようだった』ではなく、事実鳴っている。
ハムレットは眉間をひくつかせながら、苦虫をかみしめるような口調で言った。
「物質を召喚しすぎたな、貴様ら。情報崩壊だ」
「な、なんですとー」とギルデン、ローゼンの二人が同時に叫ぶ。
その声をかき消すほど、パックが腹を抱えて「ぴぎゃーwww」と大笑い。
「セット販売にするなら、そもそも単品で価格を下げろ」ハムレットは立ち上がる。去り際だけはクールに決めたいのか、深呼吸をしてからいつもの台詞。「トラフィックコンジェション。撤退する」
イノヴェーションズの撤退は完了した。
ぐにゃりと天井の星空がゆがみはじめ、いよいよ銀河舞踏会が崩落しつつある。
これが情報崩壊状態。
ジュリエットがスターバーストを放つ前に情報崩壊になるのははじめてだ……。
完全に置き去り状態だったジュリエット、観月、駿河の三人は、しばし惚けてしまったが、一番初めに駿河少尉が立ち直る。
「なんというか、ばっちり衣装を決め込んでパーティ会場に着いたとたん、施設トラブルで今夜の催し物は中止になりました、とアナウンスされたパーティピーポーの気分ですね」
「えっと……」真っ赤なドレスが無駄になった一番悲惨なヒロインが振りかえって言う。「二次会行く人」
「行かない」観月はきっぱりと断ったとさ。
第6話「本日解禁 正式兵装版 : vs. Edmund. Part 2」に続く




