chapter 8
8
「――って、結局買わなかったかい」
戦闘準備を整え、起動したハゴロモ前に観月は額に影を落とした。
「買ったよ。ブラ、パンツ。見る」
「見ないけれども」
こほん、と咳払いをするのは駿河少尉。
「戦場へ立つまえに確認があります。ジュリエット嬢、我々になにか、重大な隠し事をしているのではありませんか」駿河少尉の鋭い眼光がジュリエットを射る。
ジュリエットは大きな青色の瞳をまんまるに見開いて脂汗をびっしり垂れ流す。文句の付け所のない慌てようだ。
「な、ないよー」とジュリエットが天井を仰ぎ見る。
観月も釣られて見上げるが、そこは眺めて気分のよい青空ではなく、まばゆい照明を味気ない灰色のコンクリート壁しかない。
「あまり我々を侮っていると――」
「だってー。お誕生日会でプレゼント開封まえに中身言っちゃうとか、だめなパティーンじゃん」ジュリエットが目玉をバッテンにしていいわけする。
「た、喩えがわかりません……」これには駿河少尉もたじろいだ。
「勘のいい少尉のことだから、気づいちゃったんでしょ」
「ええ、あなたの悪巧みにね」
「ばれちゃあしかたない」ジュリエットは軽快なステップを踏んで、ハゴロモを背景に二人の前に立った。
いつもの無邪気な笑顔はなかった。
美しいが、背筋が凍るような、たとえば正体を見破られた雪女の笑み。
しかし幻想的だった。
いまさらだがジュリエットはものすごい美人だし、起動中のハゴロモは神秘的な魅力がある。
ハゴロモが丸い門になり、その円内で風呂の中のジャグジーのように無数の際限なく泡がわいて煌めいてるのだ。
映画ならクライマックスに達する最高のワンシーンなのだが……。
「ならばお見せしよう。ジュリエット・メアリ・キャピレットの真の姿を――」ジュリエットが両腕をクロスさせて十字を作り、半身ののけぞりながら筋肉痛になりそうな体勢でポーズを取った。
「そうはいくものか。貴様の思い通りにはさせんぞっ」
観月はわかってしまった。
「ああ……、この二人、絶妙に噛み合ってない……」
ものすごい演劇口調で高らかに二人の口上が続く。
もしかしなくても、この〝ノリ〟に付き合わなければならないから、観月はまた猫背になって辟易した。
「ならばついてくるがよい。舞台は整っているのだから」
「宇宙は輝いているのだから」
二人の視線が観月に注ぐ。
じーっと……。
「えーいやけくそだ」開き直った観月から開演の舞台挨拶をした。「事件は銀河舞踏会で起こっているんだから」
三人は光のなかに飛び込んだ。




