chapter 4
4
――翌日。
「え、歓迎会」ジュリエットが昼休み前のパックジュースを飲んでいたときのことだった。
「うん。短い期間だけど、みんなジュリエットと仲良くなりたいっていうからさあ」
声を掛けてきたのは、クラス内のイケイケ女子(死語)だった。
こういうとき、声を掛けてくるような生徒が言うところの「みんな」というのは、自分が属するスクールカーストのグループだけを指している。グループ圏外の生徒が勘定に入っていないのは、残酷だが暗黙の了解だ。
華やかな容姿のジュリエットを自分のグループに取り込んで、より勢力を拡大しようという魂胆である。
狭い世界ながらも、ティーンエージャも涙ぐましい努力で自分の立ち位置を死守して生活しているのだ。
「ああ、カラオーケとか」ジュリエットが上々な反応を示すと、上位女子達が喜んで追従する。
「いいねぇ、カラオケ」
「あたし予約いれるよ」
だが、どんな学校にも一定数存在するのが、立ち位置というのを気にしない、あるいは変幻自在なトリックスター。とうぜんながら、下位者が上位者に取って代わることはできないから、トリックスターは完全上位互換に限るのだが、たいてい、職業・トリックスターは〝天然〟というステータスもデフォルトで備えている場合が多い。
「放課後、カラオーケ行く人、手ぇ揚げて」ジュリエットはクラス中の生徒に声を掛けた。
それを外側から見物していた観月は、「ああやっぱり……」と眉を垂らして感想をこぼす。
困ってるぞ、困ってるぞぉ、と完全に下から高見の見物を決め込んだ観月は、面白そうにことの成り行きを見守った。ちなみに、観月のクラスでの立ち位置は、上位グループでも下位グループでもなく、たいへん不本意ながら〝分類不能グループ〟で認識されている。
「博士もいくよね」
「えぇ、ぼく」まさか呼ばれるとも思いもしなかった観月は、菓子パン(昼食前のおやつ)を喉に詰まらせ掛けた。
ジュリエットの後ろで『テキトーな理由をつけて断れ、断れ』『あんたなんかお呼びじゃないのよ』のオーラを放しつつ、上位女子たちが睨んでいる。
「いやぁー、ぼくは……」
答えに渋っている隙に、ジュリエットは白羽の矢を羽衣にも射った。
「うぃーも行くでしょう」
「あたしゃ行かんよ」女子同士のやっかいごとほど迷惑なことはない。羽衣は手を振って断った。
「なーして」
「なーしてってことないでしょう」
「ぼく知ってるんだから。カラオーケっていったら、ほかの人が歌っている最中に店員さん何度も呼んだり、歌わせたくない人のまえに差込み登録したり、デュエット曲でもないのに急にハモりだしたりするんでしょ」
「悪質やな」
「ほ、ほらジュリエット、天宮さんは行きたくないって――」と空気を読めないジュリエットをやんわり制止しようとするも、
「アニソン縛りですね。わかります」どこからか猫山曹長が抑えきれないウキウキ気分で現れる。
「最近の中高生はカラオケ行っても歌わないらしぜ、姐さん」兎田軍曹がさらに登場。
「え、あのー、軍人さん。あ、えぇー……」額に縦線を入れて青ざめ始めた上位女子。
「よーし、駿河少尉にも声かけようよ」
といったのが決め手になったのか、上位女子達は人数が多すぎて部屋を予約しきれないからまた次の機会に、なんてお茶を濁して逃げていった。
その駿河少尉というのが超美形だといのを知っていたら、むしろ食いついていたのだろうが……。
「お気の毒様」
こんな調子で、本日もつつがなく(?)終了を迎えた放課後、観月博士にメッセージが届いた。その相手こそ、超美形・駿河少尉だった。