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銀河舞踏会 ガンマ・ジュリエット  作者: やまなし
第十二話 「輝け スターシステム : vs. SURUGA Mikado」
101/112

chapter 6


 Bパート


   6


 時は少し遡る。

 天宮家に平田大佐が訪れる少しまえのこと――。

 観月智一はチョコレートの小箱の中が、半分以上カセットテープだったことに落胆した。まず、落胆した。つぎに、何か嫌な予感がした。最後に、順序が逆だろうな、と我ながら呆れた。

 この人目を憚る受け渡し方法によって手に入れた秘密のチョコレート――、もといカセットテープは、基地食道の顔見知りのおばちゃんから渡されたものだ。そのおばちゃんも、また別の人間から渡されて、という具合で出所が不明なブツである。

 だがチョコレートには罪はない。

 普通の人間ならゴミ箱一直線のチョコレートを観月は開封するのだから、相手もそれを見込んでのことだろう。彼の食への執着を承知のようだ。

 それにしてもテープレコーダとは懐かしい。物持ちのよい観月はたまたま持っているのだが、いまどき中古ハードショップにでもいかなければ手に入らない。否、それも知ったうえということか。そうなると、相手は限られてくる。観月は紙とペンよりも音声で記録を残すことを好み、レコーダはその際に使うのだが、その姿を誰に見せたことがあるだろうか。

 いや、詮索はあとだ。

 中身を確かめねば、はじまらない。

「こういうのを、鬼が出るか蛇が出るか、っていうのかな」

 独り言を呟いて、レコーダを再生。

 その内容に、観月は背筋がみるみる凍り付く。身の危険を感じて、思わず観月は扉を確認した。だれもいない。いたらまずい。B級映画なら、秘密を知ってしまった順に殺されいくのだから。

「なんてこったよ……」

 レコーダを一時停止。

 額の脂汗を拭う。

 早い話。これはジュリエットの会話内容を盗聴した記録だ。むろん、軍部でも秘密裏にジュリエットを監視する動きがあったはずである。その任についていない観月にはいっさいの情報はないが、彼女が意識不明時に勝手に生体データを記録した軍部であるのだ。盗聴くらい試みないはずもない。だが、どういうわけか、これはジュリエットにつけられたマイクというよりか、マイクをつけた相手方からの盗聴だ。とくに、話し相手が天宮羽衣の場合が多い。

 つまり、天宮羽衣に仕掛けたマイクにより、間接的にジュリエットを盗聴した形である。

 気になったのはつぎの録音内容だ。

 占い屋の出来事らしく、その場の雰囲気にながされたのか、あるいは深読みすれば催眠術の類いなのか、『一番助けたい人は』の問いにジュリエットはこう呟いた。


 ――、一番は……、ジュリエットです。


 観月はレコーダを停止させて、思考の海に身を任せた。

 これまで以上に解決の糸口がみえなくなった。しかし、全貌は見渡せるようになったはずだ。

 そう、手がかりはすべて出そろった。あとはこれらをどうやってつなぎ合わせるか、という段階まで来たのである。

 気になるのはもう一つ。

 たぶんパックとの一件で、一時独房に幽閉されていたときの場面。話し相手の猫山曹長にジュリエットはこう言った。


 ――ぼくが本当に救いたいのは、ジュリエット


 その部分だけを狂ったように再生する。

 聞き間違いではない。

 これらの告白を素直に受け取り、ジュリエットの行動解釈の基礎に据え置くと、彼女の行く末が見えてくる気がする。

「どうして、どちらの場面でもロメオの名がでてこないんだ……」

 観月の仮説は続く。

「もし、もしだ。そうだ、俺は最悪を考えるのが得意な男だろう、智一。その俺が考え得る最悪の悲劇ってのは、そう……、実はジュリエットの奴が語るヴェロナ事件の証言はすべて嘘。それも真逆で、盗聴されたこっちの告白が真実で、それを素直に受け止めるんだ」

 観月は背骨に電撃が走ったように立ち上がる。

 背後で椅子が音を立てて倒れたが、観月の耳には入らない。

「俺らはもしかして、とんでもない過ちを犯そうとしているんじゃあないのか。ジュリエットは、いまどこに――ッ」

 振り返った観月は、腰を抜かすほど驚いた。

 豚みたいな鼻を鳴らす。

 出入り口を塞ぐように、ドアの前には等身大の西洋人形が立っていた。精巧な造りは見て取れる、高級人形だ。十歳前後の少女をモチーフにした、金髪の縦ロールの髪が特徴的な、ゴシックロリータファッションの人形である。

「ジュリエットのところへ、案内してさしあげましてよ」

「な、なななー――ッ」驚きのあまり、まともに口が回らない観月。

「わたくしが介入してしまったせいで、また未来予報に狂いが生じてしまいましたの」少女人形の口は一切動いていない。観月の頭に直接、少女の声が響いているかのような錯覚。「ただでさえ、自分が乱した脚本の修正に苦労するのに、台風の目が片割れのワルキューレとなると、もうわたくしにはお手上げですわ」

「な、何者なんだ、君は。これも、ジュリエットのしわさか」観月はずり落ちた眼鏡を人差し指で直す。恐る恐る人形に顔を近づけて観察すると……、

「気持ち悪い」

「ぶへッ――」

 少女人形にステッキで頬をぶたれる。

「もしあなたが戯曲を正しい終演へと導いて下さるのなら、わたくしが協力してさしあげてもよろしくってよ。プロンプタは戯曲の出来を左右する重要な裏方ですが、所詮、裏方でしかありませんもの。そうでしょう。舞台にあがることが許されるのは、役者だけなのですから」

「きみは、なにを言っているんだ」

「『エンジェル・アパリション作戦』が実行されました」

 その台詞に――適当には観月の言語エンジンに働きかけ、観月自ら起こした台詞だが――、観月は二度目の腰を抜かすことになる。

「二度は申しません。ジュリエットのところへ、案内してさしあげましてよ」少女人形は顎を引いて、ゆっくりと確かめるように発音した。「あなたが戯曲を正しい終演へと導いて下さるのなら――、ですが。お覚悟は、よろしくて」

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