よりよく死ぬ世界
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やさしい おひめさまは いいました
じさつのない せかいに したいと
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幼少時、全ての子供は死ぬとは恐ろしい事だと思わせる、痛々しいビデオを見せられる。
×××××。
その後、授業に組み込まれた『死学』を学ぶ。
『より良く生きた者だけが、より良い死を迎えられる』
より良い死を与えられるためにはより良く生きる事、社会に貢献する事が不可欠だ。
一番の社会貢献とされるのは、結婚をし家庭を持ち子供を産み立派に育てあげることだ。
死役所に死にたいという事を申請すると、今までの人生を総合的に評価されそれ相応の死が与えられる。
申請せずに死のうとした者またはその補助を行った者には厳重な罰が与えられる。
子供に見せる教育ビデオに出演とか。
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むかしむかし あるところに いじめられっこの しょうねんがいました
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げほっ、げほっ。うえぇ
『きったねー こいつ吐きやがった!』
うえぇ……ぐえっ
『あははは。吐いたから蹴られないと思った? お子様だねー』
『人間簡単には死なねーんだから、この程度で止めるわけねーよ。ねえリーダー?』
「ひゃはははは。ああそうだなひゃはははは。笑いすぎた。そろそろ昼休み終わりかぁ」
いじめっ子たちは去っていく
茂みで泥だらけで横たわる少年は呟いた
もう……自殺するしか
誰かが、がさがさと草木を分けてやってきた
それは得策ではないね
死ねないかもしれないし、死んでもいじめっ子はなんともない
自殺に関する事実は学校側にもみ消されるからね
どうせ死ぬならこういう方法をとったらどうかな?
……どういう方法ですか?
それはね、ーー
昔、僕は君にいじめられていたね
「え? ちょっと、そんな昔の話しないでよ恥ずかしいじゃん。ていうか気にしてたの? 付き合ってた時に何も言わないから忘れてたのかと思った」
はは、まさか。忘れるわけがないだろう? 僕はあの時自殺したい程に追い詰められていたのだから
「自殺ぅー? まっさかあ。自殺とか冗談でしょ? 今の時代の人間は薬品漬けの体で簡単に死ねないんだし、高い所から落ちて即死しようにも常に監視ロボットがいて捕まるのよ? どうやって死ぬつもり?」
簡単さ。血が無くなれば人は死ぬんだ
「信じらんないーー何でそんな痛そうな事が出来るの!? すぐに死ねないのよ!?」
そうだね。早く死なないとーー警察が来ちゃうね
え?
「警察だ! 自殺しやがる奴はどいつだ!?」
えっ、ちょっ、え?
「足を撃て! 拘束しろ!」
痛っ、えっ、え?
「ったくよおおお!! 俺らの管轄で死なれると俺たちがとばっちりくうんだよ!! 何点減点されると思ってんだ!! ああああ当分ただ働きだクソがああああ」
いたい。いたい。いた
「ったくよぉ」
“簡単に死ねると思うなよ?”
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しねなくて きたないさけびをあげる いじめっこの ちかくで
いじめられっこの しょうねんは とてもうれしそうに しんでいました
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『死学』の教科書を閉じた子供は先生に質問した
『せんせー。どうしてこのしょうねんは自殺したの?』
「そうねえ。先生まったくわからないわ」
『あははは。先生なのにわからないって。あははは』
「うふふふ。ごめんなさいね。うふふふ」
わからないでいいのよ、それで
だって、知らない方が幸せだから
よりよく死ねるんだから、ね
ああ。それにしても。死にたい