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白紙に綴る夢  作者: 緋絽
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大晦日

お久しぶりです、緋絽です!

少し早いですが、大晦日ですよ!


俺は母さんに向き合って正座をしていた。

大晦日のこの日、我が家は忙しくなる。新年の挨拶に来る一族をもてなす準備と手配で忙殺されるのだ。

そのため、俺は毎年暇がなかった。

だがしかし。今年はようやく慣れてきたのか準備が早く終わり、なんと今は午後6時。すごくね!?

「母さん」

「お母様!」

「……………お母様」

「何よ」

あまりにもマジな叫びに呆れつつも、いやだが許してもらわねばならないのだ。

「必ず帰るから!絶対に行事には支障をきたさないようにするから!」

「当然でしょ」

俺は、ははーっと床に手を着いた。所謂、土下座だ。

「初詣に、行かせてください!」

毎年の行事のおかげ(?)で俺は一度も初詣とやらに言ったことがない。

今年は行ける!だから行きたい!

母さんが仕方ないというように溜め息を吐いた。

「まず、着物を着ていくこと。行くなら家でのんびり着替えるわけにもいかないでしょうから、もう着ときなさい」

「はい」

「2つ目。必ず元旦の午前6時には戻りなさい。これが守れるなら行ってもいいわ」

やった!サンキュー母さん!

「由輝達に声かけてみる!」



朝弥と由輝は行けると返事を貰ったが、問題が茜だった。

『風邪ひいてるの。今日は家族も旅行行っちゃってるし、家で寝とく』

「えぇー!」

『何と言われても僕はこたつで紅白見ながらゴロゴロする』

不満を言おうとして思い付く。

「OK、ラジャ!」

そう言って電話を切る。

切る直前に『何がラジャーなの』と聞こえたが、切ってしまったものはしょうがない。

茜が出られないならこっちが行けばいいんだよ!



集合時間の午後10時。

茜を除く俺達は茜の家の前に集まった。

「さっみ~」

由輝がダウンの中に首を竦ませる。

「早く入ろうぜ!」

朝弥がインターホンを3回鳴らした。

結構うるさい。

「は、い…?」

出てきた茜が俺達を見て少し目を見張った。

「何してんの、みんなして集まって」

「よー茜!遊びに来たぜ!」

「ちょ、さみーから早く入れて」

「俺お前に絵馬買ってきた、絵馬!」

ギャハハハハと騒いでいると茜が溜め息を吐いて少し笑った。

「バカじゃないの。来るなら来るって言ってよ」

そう言いながら体を引いて俺達を中に招き入れる。

「いやー茜のことだから押し掛けないと絶対入れてくれねーなと思って」

「まぁ、そうだけど」

「そうなの!?」

いや、普通に入れてやれよ!

「茜ーオレ腹減ったー」

「僕の家に男4人が満腹になるものがあると思わないでね。そっちが押しかけてきたんだから」

ちぇーと朝弥が唇を尖らせる。

由輝が茜の額に手をあてた。

「何?」

「え、風邪ひいてんだろ?熱あるんじゃねぇの?」

「ないよ。悪化しないようにと思っただけ」

その言葉に俺達3人がピシリと固まる。

「ちょっと奥さん、聞きまして?あの人、若者とは思えませんわ!」

「本当に!」

「ただ出るのをめんどくさがっただけなのよ!」

顔を寄せ合って茜をちらりと見る。

「え?なんで僕悪い人みたいに言われてんの?」

風邪悪化させたくないって言っただけなのに、と茜が拗ねたように言った。

俺は内心ちぇーと思いながらこたつに入る。

まぁ、いいか。別に初詣に行きたかったわけじゃないし。

「まぁそれはいいとしてだな。控えおろう!」

ははーっと3人が机にひれ伏す。

「この紋所がっ…」

「絵馬だよね」

「言わせろや! 最後まで!」

茜に突っ込まれて突きだそうとしていた絵馬を華々しく紹介するのに失敗した。

「絵馬って。僕らまだ一年ですけど?」

「別に受験生だけが絵馬を書くことを許されているわけではない!」

俺の言葉に朝弥が拳を突き上げた。

「その通り!さぁ書くぜ!」

朝弥がペンを取り出して蓋を取る。

「なんて書くんだ?」

由輝が欠伸をしながら問う。

「北村由輝が平方咲とくっつきますように」

言った瞬間に全力で朝弥が叩かれた。

「いってぇ!」

「やめろ!フルネームじゃねぇか!」

「なんだよ~俺らの心からの応援だろ?」

「シメるぞ真実」

ははは目がマジだぞ由輝。

「じゃああれだ。茜がいつまでも吉野に振り回されますよう…」

言い切る前に朝弥の目の前をフォークが飛んでいった。

茜を見ると、歴代最恐と言われそうなほど冷ややかな目とぶつかった。

お、恐るべき集中力。

「なんか、言った?朝弥」

「言ってない!言ってないっす!」

冷や汗が止まらねえ。こえーよ茜!

「朝弥のことは?小森さんとのこと書けばいいじゃん」

「え?」

朝弥が俺らを見て不自然な顔で固まる。

一瞬の間。

「………え?何だこれ。何この沈黙」

「え?もしかして、朝弥」

キラリと茜のメガネが光る。何かを悟ったようだ。

「………なんか、あったよね?話せ」

「いや、いやいやいやなんも」

「話せ」

「………ハイ」

両手を顔の横に上げて朝弥が降参する。

茜、目が怖かったです。

「んー…つっても、ホント、特別なことはないんだよ」

「じゃあなんだよあの沈黙は」

その言葉に朝弥が頭をかいた。

「なぁんかさぁ。最近、妙に飛鳥といると落ちつかなくてよー」

目を見れないんだよなぁとぼやいている朝弥を余所に、俺らは驚愕に顔を寄せ集めていた。

小声で話し込む。

「とうとう朝弥に春が来たぞ!」

「赤飯だな。ねぇのか茜」

「あるわけないでしょ、何言ってんの」

そっかぁ小森ちゃん、よかったなぁ。

鈍い朝弥でもそろそろ自覚すんじゃねぇか?

「オレの話はもうよくねぇ?もうこれでいいじゃん」

そう言って油性ペンで朝弥は『無病息災』と書いた。

「な!」

いや、いいけども。なんでそんなに得意げなんだ?

「てか、真実。今更だけどさぁ、なんで着物着てんだ?」

朝弥がこたつの上のミカンを剥いて頬張った。その頭を茜が無言で叩く。

「え、新年の挨拶はやっぱ着物じゃね?ウチ、いろんな人くるから、初詣行くならもう着とけって言われてさ。まぁ確かに着替えてる余裕はねぇからなぁ」

襟を直しながら座り直した。

ダメだ。こたつは寝ころびたくなる。

一張羅に皺をつけるわけにはいかないのに!

「えぇー普通新年も何もあんま着物着ないよ」

「ま、ウチが特殊なんだろ」

それを聞いた由輝が苦笑した。

「なー真実の家って何してるんだ?家チョー広いよな」

「え、言ってねぇ?ほら、駅とかに花飾ってあるじゃん」

「駅行かないもん」

「あ、そっか」

俺は腕を組んだ。

「まぁ……格式ある花屋、みたいな?」

「花屋!? 真実ん家が!? にーあーわーねー!」

爆笑する朝弥のこめかみを拳でグリグリする。

うるせーわ!俺に花が似合わないとか、もう致命的だろ!家業だぞ家業!

「でも、宝岳祭の時思い出したら意外と似合ってるかもよ」

茜が洟をすすりながら言った。

「忘れろ、そのことは!あれは黒歴史だ!」

「優勝したじゃん。胸張っていいぜ、ホント」

って言ってるのに半笑いなのはなんでだ由輝!

「てか、真実と初詣行ったことねーな俺」

そういえばというように由輝がボヤく。

「へぇ?」

「あー。毎年年末年始は俺、忙しいからな」

ウンウン頷く。

今思えば珍しいくらいに忙しい子供だった。

「そういえば初詣行かなくて良かったの?」

茜が首を傾げる。

「いや、俺、初詣じゃなくて、大晦日にどっか行ってみたかっただけなんだよ」

俺の言葉にみんなが俺を見た。

「いやホント。神楽とかはちょびっと踊れるのに、神社行く用事がなくてさぁ。そんで、たいがいみんな行ってるのに俺だけ行ったことないのが悔しいのなんの」

羨ましくて仕方なかった。

「ちっせーころは俺も行きたい!つって駄々こねてたなぁ。ただ、みんなとどっか行きたかっただけなんだけどさ」

そんでビービー泣いたりして。

あ、思い出したらまたうっすら泣けてきた…。

「よし!行くぞ真実!」

朝弥が立って俺に指を突きつける。

「へ?」

どこに?

朝弥に連れ添って茜と由輝が立ち上がる。

「何してんの、早く上着着て」

「え、あ」

羽織を羽織るが、何がなんだかわかってない俺を見て由輝が苦笑した。

そして、手を差し伸ばす。

「人生初の初詣、行こうぜ、真実」

その言葉に、俺は笑って、その手を握った。

結局何がなんだか…。

次は、夕さん!

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