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白紙に綴る夢  作者: 緋絽
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ファイヤーの

お馴染み、緋絽です!

激動ですよー!


体育祭が終わってすぐに中元のところに行こうとして、バスケ部の顧問に捕まった。

「ちょっ、俺用事が…っ」

「お前の用事はファイヤーの組み立てだよ。何より優先、全校に恨まれていいならお前の用事を優先しやがれ」

とか言いながら無理矢理引っ張っていかないでくれ!

中元が平方達と一緒にテントに戻っていくのが見える。

もう、躊躇わないって決めたんだ。

ぐっと奥歯を噛み締める。

いつ俺の気が変わるかわからない。こういうことに関して、俺は臆病だ。

だからこそ、このチャンスを逃さない。たとえ、身勝手だと言われても。



結局俺が解放されたのは、ファイヤーの着火が済んでダンスが始まってからだった。

中元と、話さなきゃ。

躍っている輪の間をすり抜けて中元を捜す。

「真実!」

輪の外側から声を掛けられた。

振り返ると由輝が校舎の中に入ろうとしているところだった。

輪の隙間を通って由輝の所へ行く。

「由輝、中元! 中元見なかったか!?」

「中元? いや…」

そこまで言ってから由輝がふと俺に目をやる。

「…………もう、大丈夫なのか?」

「わかんねえ。俺、あの人に真っ向から勝負かけたことねぇし、あの人前にすると、今でも俺バカみてえに緊張するんだ」

でも、と。俺は手の平を見つめる。

今、確かに掴みたいと思った。あの人が例えダメだと言っても、それに抗ってさえ掴みたいと。

こんな風に思うのは、初めてなんだ。そして、二度と思わない。思う人には会えない。

「───けど、いつまでもあの人の言うことだけを信じる歳じゃねーよ。ヒヨッ子でも16年生きてんだ。好きな奴くらい、自分で選べる」

「中元が、…答えてくれなかったら?」

真剣な顔で由輝がそう返す。

俺は由輝に向かって笑い返した。

「さぁな。………俺、一回中元に嘘吐いたんだ」

「嘘?」

由輝が首を傾げる。

「好きな人ができたって嘘。中元以外に」

「そりゃあ…またすごい嘘を吐いたな」

由輝が苦笑した。

「だよな。俺はあの時の自分を殴りたい。…あの時、思ったんだ。あぁ、俺、なんか間違えてるって」

目の前の手の平に零れそうに溜まっていた何かが、隙間から端から、どんどん零れていくような。───せっかく間を遮る川の水を掬いきったのに、全て零れてまた川となって俺と中元の間を割って流れ出してしまったような。

「何を間違えたかはわからないままなんだけどな。でも、そこに俺の“嘘”がある。少なくとも一つ間違いがある」

俺は由輝の目を真っ直ぐ見据えた。

「それをそのまんまにはできねーよ」

「………おう、そーだな」

由輝が片手を上げる。

俺は駆け出し───通り過ぎ際に腕をクロスさせた。

「行ってこい」

全力で、背中を押された気がした。



なんで、いないんだ。

息が切れる。

輪の間をさっきから何度も走っているのに、中元は見つからない。

中元、伝えたいことがあるんだ。あんなふうに、大勢の前でひけらかすような気持ちじゃなくて、もっと、………もっと、些細な気持ちを。些細でも確かな気持ちを。

どうしようと校舎を何気なく見上げた瞬間に、目の端に誰かが隠れたのが映った。

「………いた…!」

校舎に入って、階段を駆け上がる。

三階、右奥。そこの窓際。

たん、と足音を鳴らして三階に辿り着く。

右に曲がると、電気の点いていない廊下の窓際に、ファイヤーの微かな光に照らされている中元がいた。

「中元」

俺の声に中元が体を跳ねさせて振り向く。

「東山君、どうしたの? 踊らないの?」

緊張したような声に苦笑する。

大分、警戒されている。

「お互い様だって。……中元、見つけたから、さ」

中元が強張った。

「あのさ、」

「女装コンテスト!」

「え?」

唐突に叫んだ中元の言葉にギョッとした。

まさか!

「すごいね。着物、着こなしてた。私より似合ってたよ」

「見てたのか!? 何処にいたんだ!」

「えへ、隅っこからこっそり。まさに大和撫子って感じだったよ」

「ギャァア! やめてください!」

だから出たくなかったのに!

これから真面目な話をしようってのに、この話題が先に来るとは!

俺は頭に手を当てて溜め息を吐く。

そこでようやく中元が笑った。

思わず、ホッとした。

「笑い事じゃないんだけど! あー、やだやだ。はっずー!」

顔を片手で覆う。

「アハハハハ。いいじゃん。似合ってたよ?」

「良くねーよ。一世一代の恥だわ」

「アハハハハ」

屈託なく中元が笑う。

うん。やっぱり、中元は笑った方がいい。

こっちまで楽しくなるし、笑顔になる。

「でもさ、すごいね。作法? あれってどうしたの? すごい板についてる感が…」

俺が笑って見ていることに気が付いて中元が口を閉じた。

「どうしたの?」

「あのさ、話したいことがあるんだ」

「え?」

中元が首を傾げる。

「───借り物競争の、こと」

その瞬間に、中元が体を強ばらせた。

「待っ、て」

中元の言葉に気付かずに、俺はそのまま喋る。

「あんな形になっちゃったけど。………嘘じゃ、ないから」

一歩近づくと、一歩中元が引いた。

それについ、中元の顔を見る。

なんだか、変だ。

「中元?」

「あ…の、」

瞬間、中元の顔が泣きそうに歪んだ。そして、一目散に走り出す。

「待っ…!」

追いかけた。

もともと他の奴より足の速い俺は中元にすぐ追いついた。

腕を掴んで引き戻す。

「………っ中元っ」

「や…っ!」

振り向かせた中元はポロポロと涙を流していた。

それに───酷いことをしたのだと思い出し、罪悪感がジクリと顔を出す。

「お、れ」

「嫌っ、聞かない! どうせ、私をからかってるんでしょ!? 好きな人ができたから応援してほしいとか言ったり、私を、す、きだって言ったり、矛盾してる!」

振り解こうとして中元が手を振る。

俺はその力に呆気なく手を放す。

俺の嘘は、こんなに中元を悩ませていた。その事実にくらりとする。

どうして、こうなった。

「違うんだ、中元。聞いて───」

「聞かない! 東山君はずるい!」

ずるい?

その言葉に目を見張る。

そして思う。もしかしたら。

「どっちなのか全然わからないじゃない! どっちを信じるべきかわからないじゃない!」

めちゃめちゃに手を振り回して中元が俺を叩く。

ドンと強い衝撃が肩にくる。

もしかしたら、中元は。

「いた、な、かもと」

「ずるい! だから、信じらんない! 東山君なんかっ」

信じられないという言葉が突き刺さる。

ごめん、中元。俺のせいで、随分振り回されてるよな。

「なんで、こんなになるの!? 私は、ただ…」

中元が顔をゴシゴシこすって涙を拭う。

腫れてしまう。

本当にそう思っただけだった。

だから、また手を掴んだら。

泣いてる顔が見えて。俺のせいで泣いてるんだと思ったら。

気が付いたら、抱き締めていた。

「ちょっ、と、」

ヒクヒクと喉を痙攣させて、俺の腕から逃れようとしている中元をさらに抱き締める。

頭に手を添えて、少し力を入れて。

「東山く…」

「ごめん。好きな人ができたってのが嘘なんだ」

「…じゃ、なんで、そんな嘘」

暴れなくなった中元が少し頭を預ける。

それが妙に可愛くて、力いっぱい抱きしめたくなった。

「なんか、いろんなもんが、あって。とにかく、ずっと、俺は中元が好きで、でも、……俺は、ある人が絶対に反対するって、予測してて。それは多分、半分間違ってて、半分合ってるんだ」

反対の言葉に中元が顔を上げる。

俺はそれに笑い返す。

そう。きっと、合っている。

あの人は、それが都合に悪くなければ放っておいて、悪くなれば容赦なく手を下す。

そう、こちらの言い分なんて気にもかけずに。一族を繁栄させるためなら簡単にやってのけるだろう。

「例えばの話」

俺は中元を放す。

少し顔の赤い中元を見つめた。

涙の跡をなんとなく指で擦る。

「自分の将来を考えて相手を選べって言われた時、俺は正直誰が一番自分の将来に必要なのかわからない。でも、もしその時、中元がいるなら」

俺は中元に笑いかけた。

「例え反対されてても、一番中元といたいって、思うんだよ」

あの人は言うだろう。

一時の感情で一族に恥をかかせるのかと。

でも、一時の感情だと誰が決めたのか。中元を前にするとこんなに感情がかき乱されるのに、これがたったの“一時の感情”であるはずがない。

「中元、好きだ」

ビクリと中元が跳ねる。

「どうすれば信じてもらえるかわかんねーけど。───どうしようもなく、好きなんだよ」

吐いた嘘が立ちはだかるなら、それを上回る真実を。

「ひ、がしやま君」

なんだかめちゃめちゃな気持ちだ。体の底から湧き上がる何かが、溢れ出しそうで。───泣き出しそうで。

笑えなくなった顔を片手で覆う。

「好きだ。中元。お菓子好きなのも可愛いし、笑ってたら可愛いし、怒ってんのもやっぱ可愛いんだよ。泣かれるのが、一番堪えるんだ」

涙がうっすら滲んだ。

泣かないでくれ。謝るから。

ふと、中元が顔を覆っている方の手を掴んだ。

「なか───」

体を強く引かれて前のめりになる。その首に中元が両腕を回した。

突然のことに頭が真っ白になる。

「……中元?」

「ありがと」



窓の外でファイヤーの最後の曲が流れる。

俺は中元の腰に手を回して強く抱きしめた。


次は夕さん!

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