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白紙に綴る夢  作者: 緋絽
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鎮まれ、心臓

プー太です。

男子が身の回りにいなくなって早1年半。

思春期の男子の気持がわかりません。


体育祭も終わり、後夜祭が始まる。

キャンプファイヤーをするため、人員として駆り出され、その仕事もようやく終わった。

部活ごとに役割を分けられていたために真実とは全くの別行動だったわけで。合流しようとどれだけ探そうともその姿は見つけられなかった。

そのかわり、朝弥と小森は見かけたが話しかけれる空気ではなかった。

……後夜祭に男一人っていうのも虚しい。

後夜祭のなんたるか、というのは重々承知している。だが、それを思えば浮かんでくるのは借り物競走中のハプニングだけで。

あれは意図して触ったのではない。だが、ダイレクトに感じた胸の感触は思春期真っただ中な俺には刺激が強すぎた。

案外胸があったことも驚いた。その柔らかさや、匂いにも。

いつも曲がり角でぶつかるのは、平方の顔とだった。それに慣れていただけに、今回の事は衝撃だった。

気持ちを自覚して間もないというのに。

やばい。果てしなくやばい。日に日に平方の事で悩む時間が大幅に増えていているぞ!

一人で悶々と悩みながら教室に荷物を取りに向かう。

「はあ……、俺は乙女か」

「あんたが乙女だったら気持ち悪いわ」

「わっ」

足元しか見ていなかったため、そこに平方がいたことに気付かなかった。

独り言を聞かれたうえに昼間の事が一瞬にして思い出され、顔が熱を帯びる。

「人をお化けみたいに扱わないでよ。……あのさ、後夜祭、誰かと踊る予定がなかったら付き合ってほしいんだけど」

みんないなくなっちゃったからとかなんとかあとから理由も付け加えられていたが、これはお誘い、ということなのだろうか。そう解釈してしまっていいのですか。

不安そうに見上げるその表情、かわい……ごほん。

「予定は、ない。俺でよかったら付き合います、はい」

口元を隠しつつ答える。

心臓の鼓動がどっと速まり、鼓動が聞こえてしまいそうなほどだ。

目線を逃そうとうろつかせると、最終的に行きついたのは柔らかな感触を焼き付けた二つの膨らみで。

「その、昼はごめん。悪気があったわけじゃなくて」

しばらく沈黙が流れ、平方は眉間にしわを寄せたまま口を開く。

「昼……ああ、借り物競走ね。別に何とも思ってないわよ、何かが借り物として引っ張り出されるんだし」

「そうじゃなくて」

「じゃあ、ゴール?別に気にすることないじゃない、ビリでもゴールできたんだから。でも、なんであとちょっとのところで走るのやめたの」

「それは」

胸にあたって驚いて動けなくなったからです、とは言えない。

「まあなんでもいいわ、うちのクラスが勝てたし。それより、外行かない?ダンスしてみたいのよね」

「いいよ」

自分から話題を変えてくれた平方に感謝しつつ、手を引かれ歩きだす。

外に出ると何十組というカップルが楽しそうにキャンプファイヤーの周りで踊っていた。

「ひょっとして、俺も踊らないとだめなの?」

「当たり前でしょ。さ、行くわよ!」

「あのっ」

突然声をかけられ反射的にそちらに顔を向ける。顔を赤らめた女子生徒が、涙を目に浮かべていた。後ろに友達らしき姿も見えた。

苦笑いが浮かぶ。平方はピンときてないのか、不思議そうに首をかしげていた。

「北村くん、その、言いたいことがあって……。でも、迷惑だよね」

「話あるなら先に行ってるけど」

「ごめん、すぐ行くから」

空気を読んで一人で駆けていく姿が声の聞こえない距離に達したころ、女子生徒が口を開く。

「弓道してる姿に一目ぼれしたんです。だけど、北村くんはさっきの人のこと……。邪魔してごめんなさい。無駄なのは分かってたの。でも、どうせなら当たって砕けたいなって」

「はは、カッコいいね。……でも俺、平方のことが好きだから応えられない。気持ちは嬉しいけど」

「ありがとう。それじゃあ」

零れないように涙をこらえ、走り去る女子生徒。友達のもとにつくと涙をぬぐっていた。

「俺もあれくらい潔くいかないとな」

遠くでこちらを窺う平方のもとへ向かう。

「ごめん。おどろっか」

物言いたげな顔をするのを苦笑いで流し、曲が変わったところで踊り始める。

「平方、まじめな話、していいか」

小さく頷いたのを確認し、深呼吸する。

『どうせなら当たって砕けたいなって』そんな勇気も度胸もないけど、俺だって男だ。

「……好きだ。―――女友達としてじゃなく」

こんな早くに言うつもりなんてなかったのに。あの言葉を聞いたら今伝えないといけないと思ったんだ。

「付き合って、とは言わない。ただ、伝えたいだけ」

口をぽっかりと空けた間抜け面に、つい吹き出してしまう。

あのときの俺のように硬直した平方の鼻をつまむと、勢いよく叩き落とされた。

「―――!な、なによ突然!初めて人に告白されたのがこんなのなんて!心の準備させなさいよ、馬鹿!」

「ごめん、ごめん。ほら、あと2曲くらいで終わるっていってるから踊るぞ」

「その余裕そうな態度がむかつく」

余裕なんて全くない。きっと顔は真っ赤だ。

だが、言葉にするとすっきりした。なにかが吹っ切れた。

「これから、ぐいぐいいくから、そこのとこよろしく」


こんな性格だったっけ。

プー太の趣味が滲みでてしまった気がするお話です。


次は緋絽さん。

よろしくお願いします

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